第60話
現在、俺は自宅で旅支度をしていた。
「野営道具、調味料の小瓶、武器……どうすっかな。剣だけでいいか。刀もいちおう」
荷物をカバンに入れながら思う。
「はあ……カムドに、ショコラか。久しぶりに名前聞いたなあ……ていうか、俺の名前なんて忘れてると思ったけど」
俺には、冒険者同期がけっこういる。
グレースは一番印象が強く、その次の次の次くらいに、カムドとショコラは印象に残っていた。
カムドは、ファルカみたいなやつ。ショコラはキュレネみたいな感じだ。
二人は幼馴染。出身も同じだったかな……一年くらい、一緒に鍛錬したりメシ食ったりして、冒険者として独り立ちしてからはよくわからん。
家の事情で冒険者やめた、って聞いたけど……まさか結婚していたとは。しかも二十年前。十五歳で妊娠、出産ってすごいなあ。
「でも、なんで俺なんだ……?」
娘の名前はティンファ。ジョブ『槍聖』に目覚めたとか。
まあ、何歳から冒険者目指してもいいけど……パン屋を継がずに二十歳から冒険者やります、っていうのもなあ。
タクニキ王国に行くのは決定事項だからしゃーない。いちおう、「パン屋のがいいぞ」と説得はする。いくら強力なジョブを授かったとはいえ、これまでやってきたパン屋の仕事をやめてまでやるもんじゃない。
「タクニキ王国にも優秀な冒険者はいるだろうに。二十年前の同期になんで頼むかね」
荷物の準備が終わり、俺はベッドへ寝転がる。
まあ、いいか。
「リゾートバカンスは終わったから、次は長期の出張……ふぁぁ。タクニキ王国ってどんなろころだっけかな」
俺は欠伸をしながら、タクニキ王国ってどんな場所だったか思い出そうとし……そのまま眠りに落ちるのだった。
◇◇◇◇◇
翌日。
今回はマジの一人旅だ。
グレースの元へ顔を出すと、相変わらず煙草を吸っていた。
「タクニキ王国だが」
「行き方はわかるよ。まあ、急ぎじゃないしのんびり行くさ」
「わかっているならいい。ほれ」
グレースは、テーブルにドンと大きな包みを置く。
開けると、けっこうな大金が入っていた。
「路銀だ。大事に使えよ」
「ああ。言っておくけど、今回は土産ナシな」
「構わん。だが、カムドとショコラの話くらいは持って帰れよ」
「へいへい」
あんま長話するのもめんどうだ。
俺は軽く手を振ってギルマス部屋を出て、誰にも会わずに王都の南門へ。
タクニキ王国は、スーリヤの反対方向だ。今回は弟子たちに会うこともないだろ。
「まずは、南にある宿場町まで行って、そこから乗合馬車でさらに南へ。んで徒歩でゆっくりキャンプしながら行きますか……片道二週間くらいかな」
普通に行けば十日くらいだろうけど、南に行くのは久しぶりだし、少しくらい観光してもいいだろう。
俺は地図を確認してポケットへ入れ、リュックを背負い直す。
「さて、行きますか。懐かしい顔は元気かな……と」
目指すはタクニキ王国。さてさて、どうなることやら。
◇◇◇◇◇
南門からのんびり南下……宿場町まで二日くらいかな。
「ふぁぁぁぁ……ねっむ」
天気もいいし、この辺は魔獣も出ない。見所もない平坦な街道が続くだけだから、正直かなり退屈だ。
でもまあ……悪くない。
夕方までゆっくり歩くと、ちょうど街道脇に開けた場所がある。ここはキャンプ場みたいなところで、近くに川が流れているのでみんな野営する場所だ。
今日は俺だけしかいない。これはラッキーだ。
「今日のメニューは野菜スープにサンドイッチだぜ」
マグカップに、乾燥させたいくつかの野菜と固形肉、さらに塩や調味料と混ぜて固めた特製の固形スープを入れてお湯を注ぐ。
俺の開発した固形スープ……実は俺の発明品の中でもかなり売れている。毎月、少なくないロイヤリティが入ってくるのだ。
町で買ったサンドイッチと合わせ、星空を眺めながら夕食……ああ、最高。
「ふぁぁぁぁ……ねっむ」
テントの周りに簡易的なトラップを設置し、俺はテントに入って目を閉じた。
この辺は治安もいいし、魔獣とか盗賊が出ないとはいえ用心はしておく。
まあ……悪意ある気配を感じれば飛び起きるけど。
この日はぐっすりと朝まで眠ることができた。
◇◇◇◇◇
そして翌日ものんびり歩き、宿場町に到着した。
マルセリア王国とタクニキ王国を繋ぐ街道が伸びている。ここで準備をして、それぞれの国へ向かうことになる。
まあ、マルセリア王国寄りだから俺の方はあんまり準備するものはない。
宿を取り、乗合馬車の予約をし、俺は町を散策する。
「久しぶりに来たけど、にぎわってるなあ」
宿場町だから当然か。
タクニキ王国からの輸入品やマルセリア王国からの輸出品を運ぶ馬車、ここで店を構えて商売をしている商人、宿屋が多いのは当然だが酒場も多くあり、昼間からすでに賑わいを見せている。
「へへ、せっかくだし少し飲んで行こうかね」
近くの酒場に入ると、屈強な冒険者っぽい集団が多くいた。
席に座ると、マッチョな定員が注文を取りにくる。
「へい、注文は」
「エールと、つまみは何でもいい。店のおススメを何品か頼む」
「へい、お待ちくだせえ」
なんか……屈強な男に接客されるの新鮮でいい、わけはないか。
定員が料理を運んで来たので、チップを渡して聞いてみた。
「なんか、冒険者が多いな。イベントでもあるのか?」
「お客さんもタクニキ王国へ行くんスよね? 闘技大会目的じゃないのかい?」
「……ああー、そういうことか。なるほどな」
そういやこの時期、タクニキ王国では闘技大会……まあ、強者を決める大会みたいなのが開催されるんだった。
「ま、俺には関係ないや」
いきなり参加して優勝をかっさらうような、主人公が別格の強さを見せつけ度肝を抜くような、そんなことは絶対にない。だって俺、そういう大会興味ないし。
そんなことよりも考えることがある。
「『槍聖』か……俺、槍系のジョブないんだよな。どういう指導をしようかね」
二十歳の女性だっていうし、まあ子供ではないから多少厳しくても逃げはしないだろう……たぶん。
そういや昔、槍士のジョブを持つ子を指導したっけ。基礎的な筋トレとか……あ、あの時は知り合いの槍士に指導を引き継いだっけ。
「まあ、なんとかなるかな」
この時、俺はもっと深く考えておくべきだった……まあ、今の時点ではしょうがないことだけどな。




