18.
焼きそばパンの甘辛いソースの匂いが、静かな文芸部の部室に漂っている。
大好きな奉太郎と隣同士で座り、一緒にお昼ご飯を食べる。
ただそれだけのことが、聖華にとっては飛び上がるほど嬉しくて、最高に楽しい時間だった。
浮かれた気分のまま、聖華は口いっぱいにパンを頬張りながら、昨日のテレビ番組の話や、最近流行っているコスメの話など、一方的にベラベラと喋り続けていた。
しかしふと隣を見ると、奉太郎は静かにパンを咀嚼しているだけで、一言も発していない。
その凪いだ横顔を見た瞬間、聖華の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
(やばっ。あたし、また喋りすぎたっ)
熱くなっていた頭が一気に冷え、血の気が引いていく。
ただでさえ騒がしいと呆れられているのに、こんなに一人でまくし立てては、不快に思われて当然だ。
急にピタリと黙り込み、見えない犬の耳をペタンと伏せた聖華を見て、奉太郎が不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「ご、ごめんっ。あたしだけ喋りすぎて……うるさいよね」
聖華は縮こまり、消え入りそうな声で謝罪した。
今すぐ消えてしまいたいとガックリと項垂れる聖華に対し、奉太郎はいつも通りの平坦な声で返す。
「別にうるさいなんて思ってないよ。君は元気だな」
「ううううううううっ」
怒るでもなく、呆れるでもなく、ただありのままを受け入れてくれる。
その塩対応の裏にある果てしない包容力に、聖華の心はドロドロに溶かされてしまった。
(好きすぎるっ! ああ、好きって伝えたいなぁっ)
見えない尻尾が、ちぎれんばかりに左右にパタパタと振られる。
もっと一緒にいたい。
こんな昼休みのちょこっとした時間じゃなくて、ずっとずっとずっと、彼の隣で喋っていたい。
溢れ出しそうな重い愛情が、聖華の胸をギュッと締め付ける。
(でも、それを伝えるのは怖い。だって、阿智くんがあたしのことどう思ってるかわからないしぃ……。うーっ)
もし告白して、この心地よい関係が壊れてしまったら。
そんなネガティブな想像が頭をもたげ、聖華は再び悶々と悩み始めた。
ぺんっ。
不意に、丸めた文庫本で頭を軽く叩かれた。
聖華が驚いて顔を上げると、隣の席の深雪が、感情の読めない瞳でこちらを見下ろしていた。
「はれ?」
「うるさい」
深雪は無機質な声で短く告げた。
その言葉に、向かいに座っていた奉太郎が目を丸くする。
「うるさい? 彼女、さっきから黙ってませんでしたか?」
奉太郎の言う通り、聖華はここ数分間、一言も言葉を発していなかった。
しかし長年の付き合いがある深雪には、聖華のやかましい内面の葛藤が手に取るようにわかっていたのだ。
「うるさい。言いたいことがあるなら、言えばいい」
「ふにゃあ……っ」
核心を突く深雪の言葉に、聖華は図星を突かれた顔で真っ赤になった。
心の中の重い恋心を完全に看破され、情けない声を漏らして両手で顔を覆う。
キーンコーンカーンコーン。
その時、昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムが校舎に鳴り響いた。
深雪はパタンと本を閉じ、立ち上がる。
そのまま、足早に部室の扉へと向かっていった。
「ありがとうございます、使わせてくれて」
奉太郎が立ち上がり、背中を向けている深雪に丁寧にお礼を言う。
深雪は足を止めず、首だけを僅かに振り返らせた。
「別に。あと、敬語、いらない」
「ありがとう、茅野さん」
奉太郎が短く言葉を返し、ペコりと軽く頭を下げる。
深雪はそれ以上何も言わず、静かに部室を出て行った。
後に残されたのは、顔を真っ赤にしたまま固まっている聖華と、呆れ顔の奉太郎だけだ。
「うーっ……」
「いくぞ、昼神さん。昼休み終わるから」
奉太郎に促され、聖華は弾かれたように顔を上げた。
「はっ、いまいくー!」
慌ててゴミを片付け、小走りで彼の背中を追いかける。
純情ギャルの頭の中は、今も変わらず彼のことでやかましく渦巻いていた。
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