10.
出前アプリの画面をスクロールしながら、奉太郎が淡々と口を開く。
「駅前の蕎麦屋にするけど、いいか」
「あ、うんっ。あたし、あそこのお店初めてかも。横を通ったことはあるんだけど」
「そうなんだ」
そっけない相槌とともに、彼がスマートフォンをテーブルの中央に置いた。
画面には、出前アプリのメニュー写真がずらりと並んでいる。
どれも湯気を立てているような美味しそうな写真ばかりで、見ているだけで胃袋が刺激されてしまう。
(何にしよっかなー。どれも美味しそうすぎるっ)
画面を覗き込みながら、聖華の頭にピコーンとある名案が閃いた。
好きな人と同じものを頼む。
これぞ、お家デートにおける究極の同調行動であり、距離を縮める最大のチャンスではないか。
(でも、何を頼むのってどう聞けばいいんだろ。『阿智くんは何を頼んだのー?』……いや、これじゃ警察の詰問みたいで重いかな。付き合ってもないのに同じもの頼もうとするの、キモすぎるかな)
見えない耳をペタンと伏せ、聖華は一人で勝手に思い悩む。
ぐるぐると考えすぎて不自然に黙り込んでしまった聖華を見て、奉太郎が不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「うぇーい、奉太郎くん、何食べたのー?」
パニックに陥った五十三万IQの頭脳が弾き出したのは、あまりにもアホすぎるギャルのノリだった。
自分でも引くくらいのハイテンションで、不自然に両手をパタパタと上下させてしまう。
「……これから食べるんだけど。俺はカツ丼」
「それっ! あたしもそれ、ちょーど食べたいって思ってたにょ!」
「にょ?」
奉太郎がピクリと眉を動かし、凪いだ瞳でこちらを見つめてくる。
「あははっ、なんでもないにょっ!」
(にょ、って! ううー、あたしのバカバカバカッ!)
焦りのあまり飛び出した謎の語尾に、聖華は内心で激しく頭を抱え、ガックリと項垂れた。
テンパりすぎて、完全にキャラが崩壊している。
絶対に引かれた。痛い女だと思われたに違いない。
絶望感で膝から崩れ落ちそうになった聖華だったが、奉太郎の反応は予想外のものだった。
彼は聖華の奇行や変な語尾に一切突っ込むことなく、再びスマートフォンに視線を落とす。
「わかった。カツ丼二つだな」
ピポパ、と無機質なタップ音を鳴らし、彼は淀みない手つきで注文を確定させていく。
アホみたいなノリにも文句を言わず、変な空気にもせず、テキパキと事を進めてくれるのだ。
画面には『注文を受け付けました』という文字が表示され、蕎麦屋特有の出汁の甘い香りが、早くも想像で鼻腔をくすぐってくるようだった。
(だめだ、優しすぎる。らぶすぎるっ!)
聖華は両手で真っ赤な顔を覆い、歓喜のあまり床にへたり込みそうになるのを必死に堪えた。
背後では、見えない尻尾がちぎれんばかりにパタパタと振り回されている。
達観した塩対応の裏にある、底知れない包容力。
阿智奉太郎という男の底なし沼に、純情ギャルは今日もズブズブと沈んでいくのだった。
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