第43話「森律アルボルの幻影」
森律アルボルの深部へ進むほど、
空気は冷たく、重く、暗くなっていく。
風が吹いているのに音がしない。
鳥の影はあるのに羽ばたきが聞こえない。
木々は揺れているのに葉擦れの音がない。
ミナはリオの背にぴったりとくっつき、
震えながら言った。
「先生……
森の“心の音”が……どんどん強くなってます……
嘘だけじゃなくて……
“隠してる気持ち”まで拾われてます……」
「隠してる気持ち……?」
リオの足元の影が揺れた。
——器よ。
この森は“心の奥”を暴く。
隠し事が多いほど、喰われる。
(隠し事……
俺には……山ほどある……)
突然、森の奥から声がした。
「……先生……」
ミナの声だ。
だが、ミナは隣にいる。
「え……?
私、何も言ってません……!」
森がざわりと揺れた。
次の瞬間——
リオの耳元で、別の声が囁いた。
「……どうして……助けてくれなかったの……?」
第二島で救えなかった少女の声。
(また……!
森の幻聴か……!)
ミナが叫ぶ。
「先生!!
森が……先生の“後悔”を拾ってます!!
心の揺れが……森に伝わって……!」
木々がざわめき、
黒い根が地面から伸びてくる。
「くそっ……!」
——器よ。
“後悔”は嘘ではない。
だが“誤魔化す”と喰われる。
(誤魔化すな……
認めろってことか……!)
リオは幻影に向かって言った。
「……俺は……
救えなかったことを後悔してる。
今でも……ずっと引きずってる」
森が静まった。
黒い根が地面へ戻っていく。
ミナが息を呑む。
「先生……
森が……“真実”だと認めました……!」
背後から聖騎士団の隊長が声を上げた。
「リオ。
次は我々が質問する番だ」
「……なんだ」
「お前は——
“王国を裏切る意思があるか?”」
(また厄介な質問を……!
“ない”と言えば森が反応する……
“ある”と言えば聖騎士団が襲ってくる……!)
影が囁く。
——器よ。
“今の気持ち”だけを言え。
(今の気持ち……?
そうか……!)
リオは静かに言った。
「今はない。
だが、生徒を傷つけるなら敵に回す」
森は揺れなかった。
聖騎士団がざわめく。
「……つまり敵だな」
「勝手に決めろよ。
俺は“今はない”って言っただけだ」
(嘘じゃない。
森も反応しない)
ミナが小さく笑った。
「先生……
森のルール……
本当に読み切ってます……!」
森の奥へ進むと、
空気がさらに冷たくなり、
視界が暗くなっていく。
ミナが突然立ち止まった。
「……あれ……?」
「どうした?」
「先生……
私の“心の音”が……
森に吸われていく……」
ミナの顔が青ざめる。
「先生……
私……
“怖い”って思った瞬間……
森が……その気持ちを……
“増幅”してきます……!」
ミナの肩が震え、
呼吸が荒くなる。
「ミナ!!
落ち着け!!」
「だ、だめ……
怖い……怖い……
怖い気持ちが……森に広がって……
もっと……もっと……!」
森がざわりと揺れた。
木々の影が伸び、
ミナの足元へ迫る。
——器よ。
“恐怖”は嘘ではない。
だが、飲まれれば終わりだ。
(どうすりゃいい……!)
——“恐怖を否定するな”。
“恐怖を認めろ”。
それが真実だ。
リオはミナの肩を掴み、
強く抱きしめた。
「ミナ!!
怖いなら怖いって言え!!
それでいい!!
それが“お前の真実”だ!!」
ミナは涙を流しながら叫んだ。
「こわい……!!
先生がいなくなるのが……
いちばん……こわい……!!」
森が静まった。
影が揺れた。
——よく言ったな、小娘。
ミナは涙を拭き、
リオの胸に顔を埋めた。
「先生……
森……
“本当の気持ち”を言えば……
受け入れてくれます……」
「そうだ。
だから……隠すな。
全部言っていい」
その時だった。
森の奥から、
低い“脈動”が響いた。
地面が震え、
木々がざわめき、
空気が重くなる。
ミナが震える声で言う。
「先生……
森の奥に……
“とんでもなく大きな心の音”があります……
あれ……
人じゃない……!」
(森の主か……
それとも……)
影が低く囁く。
——器よ。
あれは“私の痕跡”だ。
(痕跡……!?
影の……!?)
——近づけば近づくほど、
お前の“魔王としての気配”は濃くなる。
(……やっぱりか)
ミナがリオの手を握る。
「先生……
どんな真実でも……
私は……先生の味方です……!」
リオはミナの手を握り返した。
「行くぞ、ミナ。
森の奥に……何があろうと」
森律アルボルの深部へ、
二人は足を踏み入れた。
嘘も、誤魔化しも、弱さも許されない——
精神戦の本番が始まる。
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※本作の執筆にあたっては、
一部のアイデア整理や設定構築にAIを活用しています。
物語の最終的な構成・文章表現・キャラクター描写は、
すべて作者自身の手で仕上げています。




