第41話「森律アルボルの裁き」
森律アルボル。
嘘が通らない森。
風が吹いているのに音がしない。
鳥の影はあるのに羽ばたきが聞こえない。
木々は揺れているのに葉擦れの音がない。
ミナはリオの腕を掴み、震えながら言う。
「先生……
この森……“音が消されてる”んじゃなくて……
“嘘の音だけが消えてる”……そんな感じがします……」
「嘘の音……?」
リオの足元の影が、わずかに揺れた。
——器よ。
この森は“真実の音”だけを残す。
(真実の音……?
つまり、嘘をつくと……)
——森が“裁く”。
(裁く……!?)
森の奥から、金属の足音が響いた。
音が消える島で、
唯一はっきり聞こえる音。
白銀の鎧をまとった一団が木々の間から現れた。
王国聖騎士団。
隊長と思われる男が前に出る。
「第三師団長リオ。
王国はお前を“捕縛対象”と定めた」
「捕縛ねぇ……
俺はただの教師だ」
その瞬間——
森がざわりと揺れた。
木々の葉が震え、
地面が微かに沈む。
ミナが叫ぶ。
「先生!!
今の……“嘘の反応”です!!
森が……先生の言葉を嘘だと判断しました!!」
(くそ……!
“ただの教師”は嘘扱いか……!
森が俺の正体を……!)
聖騎士団の隊長が槍を構える。
「森律アルボルは“嘘を許さぬ森”。
お前が教師ではないことは、森が証明した」
「……!」
(森が……俺の“魔王としての気配”を感じ取ってる……!
この島……最悪に相性が悪い……!)
聖騎士団が円陣を組み、
リオとミナを包囲する。
「第三師団長リオ。
質問に答えろ。
嘘をつけば森が裁く。
真実を言えば我々が裁く。
どちらにせよ逃げ場はない」
(最悪の二択だな……!)
ミナが震えながら言う。
「せ、先生……
この島……
“言葉の戦い”です……
嘘をつけば森が襲い、
真実を言えば敵が襲う……!」
「分かってる……」
聖騎士団の隊長が問いかける。
「お前は——
王国に敵対する意思があるか?」
(あるわけねぇだろ……
でも“ない”と言えば森が反応する……!
どう答えれば……)
影が低く囁く。
——器よ。
“嘘をつくな”。
それだけだ。
(簡単に言うな……!
真実なんて言えるかよ……!)
——真実は一つではない。
“言い方”を選べ。
(言い方……?
なるほど……!)
リオは聖騎士団を睨みつけた。
「俺は……
“生徒を守るためなら”
王国でも誰でも敵に回す」
森は揺れなかった。
聖騎士団がざわめく。
「……それは……
敵対の意思と受け取るぞ」
「受け取れよ。
俺は“生徒を守る”って言っただけだ」
(嘘じゃない。
でも“敵対する”とは言ってない)
ミナが小声で言う。
「先生……!
森が反応してません……!
今の……“真実の音”です……!」
聖騎士団の一人が前に出る。
「ならば次の質問だ。
お前は——
“魔族と関わりがあるか?”」
(魔族……
影の人格のことか……!
ここで“ない”と言えば森が反応する……!
でも“ある”と言えば……)
影が囁く。
——器よ。
“関わり”の定義を曖昧にしろ。
(曖昧に……?
そうか……!)
リオは答えた。
「“影”とは関わりがある。
だが“魔族”かどうかは知らねぇ」
森は揺れなかった。
聖騎士団がざわめく。
「影……?
何を言っている……?」
(よし……!
嘘じゃない。
影が魔族かどうかなんて俺も知らねぇ)
ミナが小声で言う。
「先生……!
森が……“真実”だと認めてます……!」
隊長が苛立った声で言う。
「では次だ。
お前は——
“王国に牙を剥く存在か?”」
(これは……
どっちに答えてもアウトだ……!)
影が囁く。
——器よ。
“未来形”で答えろ。
(未来形……?
なるほど……!)
リオは静かに言った。
「今は違う。
だが“生徒を傷つけるなら”
王国でも何でも敵に回す」
森は揺れなかった。
聖騎士団が一斉に槍を構える。
「……つまり敵だな」
「勝手に決めろよ。
俺は“今は違う”って言っただけだ」
(嘘じゃない。
森も反応しない)
ミナが震えながらも笑った。
「先生……
すごいです……!
森のルール……
完全に使いこなしてます……!」
その時だった。
聖騎士団の一人が叫んだ。
「我々は——
王国のために命を捧げる“正義”だ!!」
森が激しく揺れた。
木々がざわめき、
地面が裂け、
黒い根が騎士の足を絡め取る。
「な……!?
なぜ森が……!」
ミナが叫ぶ。
「その人……!
“正義”って言葉……
心の音が嘘でした……!!
森が……嘘を裁いてます!!」
(なるほど……
森は“敵の嘘”も裁くのか……!)
聖騎士団が動揺する。
「お、落ち着け!!
森が反応しただけだ!!
我々は正義だ!!」
森がさらに揺れた。
木々が唸り、
黒い根が騎士たちの足元を締め上げる。
「ぎゃあああああ!!」
ミナが震える。
「先生……
この森……
“嘘をついた者から殺す”……!」
(つまり……
この森では“正直者が生き残る”……
敵の方が嘘をつきやすい……
なら——)
リオは前に出た。
「ミナ。
この森……
“俺たちの方が有利だ”」
「……はい!!」
森律アルボルの裁きが、
静かに始まった。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価宜しくお願いします!!
※本作の執筆にあたっては、
一部のアイデア整理や設定構築にAIを活用しています。
物語の最終的な構成・文章表現・キャラクター描写は、
すべて作者自身の手で仕上げています。




