第31話「光紋隊司令官、降臨」
断滅の司が膝をつき、
炉心から漏れていた白銀の光が薄れていく。
第三島《豊穣デメトリア》を覆っていた“飢餓の呪い”が、
ほんの一瞬だけ止まったように感じられた。
ミナはリオの背にしがみつき、震えながら言う。
「せ……先生……
あの人……上から来てる……!
“王様の光”の濃さが……断滅の司より強い……!」
リオはゆっくりと振り返った。
神殿の階段。
暗い影の向こうから、白銀が滲み出るように現れた。
男はゆっくりと歩みを進める。
背丈は高く、
外套は光紋隊のものより重厚で、
肩には“王国紋章の白銀刻印”。
その目は、人間のそれではないほど静かで——冷たい。
「……久しいな、第三師団長」
リオの心臓が一瞬止まった。
(……こいつ……!
俺を、知ってる……!
第三師団長の頃の俺を……!)
男は階段を降りながら、
リオを見つめたまま言葉を続けた。
「名を名乗る必要はない。
お前は知るべきだ——“王直属契約執行官”」
光紋隊の中枢。
“王の光”を扱うことを許された僅かな存在。
(……アーク・ジャッジ……!
王の光を直接扱う怪物かよ……!)
アーク・ジャッジは断滅の司の残骸を一瞥し、
軽く鼻を鳴らした。
「……玩具を壊すとは、なかなかだな」
「てめぇらの玩具じゃねぇよ。
飢えさせられたただの人間だ」
「違う。
“器”だ」
その一言で、空気が凍りつく。
ミナは震える声で言った。
「先生……
この人……“もうひとつの光”を持ってます……
断滅じゃない……でも、断滅に近い……
何かを……“変えてしまう光”……」
(変える光……
断滅に近い……
それって……)
アーク・ジャッジはリオの影を見下ろす。
「……影が震えているな、“元”師団長。
お前の中に何が棲んでいるのか……
王はずっと興味を持っていた」
(王が……?
俺の“影”を……?
何を知ってる……!)
「断滅の司が苦戦した理由——
単純な話だ」
アーク・ジャッジは淡々と語る。
「“王の光”は、《恐怖》でも《飢餓》でもない。
本質は《断絶》だ」
「断絶……?」
「存在と存在を切り離す光。
飢餓が生まれたのも、
供物が消えたのも、
人の心が空洞になったのも——」
アーク・ジャッジの声が落ちる。
「すべて、“繋がり”を断つためだ」
(繋がり……
だから飢餓……
だから孤独……
だから神官たちは“空っぽ”だった……!)
ミナが泣きそうな声で言った。
「……そんな……
そんな光……救えないじゃないですか……!」
「救うための光だと、思ったか?」
アーク・ジャッジの目がミナへ向く。
「……冷たっ……!!」
リオは即座にミナの前へ飛び出した。
「ミナに触れるな」
「触れる価値を見出してはいない」
その一言でリオの怒気が上がる。
——ゴウン。
塔の脈動。
リオの影が、
ゆっくりと広がり始めた。
ミナが怯えながらも叫ぶ。
「先生……影が……
司令官さんの光に……反応してる……!」
(影……やめろ……!
このままじゃ……!)
アーク・ジャッジは影を見て、
ゆるく顎に手を当てた。
「ほう。
断滅にも契約にも飲まれない影……
やはり——“塔の系列”か」
(塔……!?
俺の影は……塔と関係ある……!?
ということは……)
その瞬間——
影の奥から、
“声”が漏れた。
低く、古く、
しかし確かに“意志”を持った声。
——……下がれ、器。
リオの背筋が凍る。
(今の……誰だ……!?
俺じゃない……!
影の……中から……!?)
ミナが震えながら言う。
「せ、先生……
今の……“誰かの声”でした……
影の奥に……“人”がいます……!」
(やっぱり……影はただの力じゃない……
“誰か”が……いる……!)
アーク・ジャッジは静かに宣告する。
「元師団長リオ。
王はお前を“解析”するよう命じている。
その影の正体を知りたいと」
(カイン王……
いつから俺を……?
なぜ“影”を……?)
「従え。
お前を連れていけば、この島の断滅計画は一旦止めてやる」
「断わる強さはまだ残ってるぞ」
「断るならば——」
アーク・ジャッジが腕を掲げる。
地下空間が白銀に染まる。
「“断滅の司”第二形態を起こす。
この島は終わる」
ミナが小さく悲鳴を上げる。
「先生……!
この人……本気で島を……!」
リオはミナの頭を撫でた。
「ミナ。
大丈夫だ。
お前を守るためなら、島でも王でも敵に回す」
「せ、先生……!」
(影が暴れそうで怖い。
でも——影なんかじゃなくて、
俺自身の“覚悟”で立つ)
リオはアーク・ジャッジを真っ直ぐ見据えた。
「お前の光がどれだけ強くても関係ねぇ。
俺は教師だ。
飢えた島も、ミナも、子どもたちも——
全部守る」
アーク・ジャッジの目に、僅かな興味が灯った。
「ならば証明してみせろ。
——断滅の司、再始動」
ゴゴゴゴゴォォッ!!
崩れた断滅の司の身体に、
再び白銀の光が流れ込む。
(第二形態……!
こっからが本番か……!)
ミナがリオの手を掴む。
「先生……行きましょう……!
私、絶対に導きます……!!」
「当然だ」
その足元で、影が静かに揺れた。
まるで——
“器よ、倒れるな”
と囁くように。
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※本作の執筆にあたっては、
一部のアイデア整理や設定構築にAIを活用しています。
物語の最終的な構成・文章表現・キャラクター描写は、
すべて作者自身の手で仕上げています。




