第28話「豊穣祭の夜、消えた供物」
夕暮れの空が紫に染まり、
島中に灯された松明の火がゆらゆらと揺れていた。
第三島《豊穣デメトリア》の祭り——《豊穣祭》。
人々は笑い、歌い、踊り、
一年で最も明るい夜が島を包んでいた。
「先生、見てください!
この花飾りすごいです! キラキラしてます!」
「落ちるなよ。火に近いから気をつけろ」
「えへへ、平気です!」
ミナは無邪気に走り回り、
島の子どもたちから花飾りをいくつも渡されていた。
(ああ……
この島の子たち、本当にいい子ばかりなのに……)
リオは笑いながらも、
胸の奥に小さなざわつきを感じ続けていた。
——ゴウン……
(塔の脈動……遠いのに、やけに“深い”……
島の空気……やっぱり何かおかしい)
足元の影が、松明の揺れとは違う“別のリズム”で揺れた。
影ではない。
黒いオーラが、影の形を借りて揺れている。
リオは気づかないふりをした。
祭りの中心・豊穣広場には、
巨大な机に“島の一年分の恵み”が並べられていた。
麦パン、果実、野菜、牛乳、蜂蜜——
本来なら心躍る光景のはずだった。
「……少なすぎる」
リオが呟く。
島の規模から見れば、
本来この十倍はあっていい。
果実や野菜の色つやは悪く、
パンは薄く、牛乳は水のように白い。
(やっぱり……
この島は“飢えてる”)
ミナが顔をしかめた。
「先生……供物から……“空っぽ”の声がします」
「空っぽ?」
「はい……“まだ足りない、まだ足りない”って……
ごはんが泣いてるみたいで……
何かに奪われてる感じです……」
(奪われてる……?
誰に……何を……?)
神殿の階段に白衣の神官たちが整列し、
鐘の音と共に祭礼が始まった。
「今年も豊穣神に感謝を……
神は、我らの“忍耐”に応えてくださる……」
(忍耐……?
いやな言葉だ)
神官の声は柔らかいが、
その裏に“強制”の匂いがあった。
「供物を——神殿へ」
子どもたちが供物をかごに入れ、
神官たちに手渡していく。
ミナが小さく震えた。
「先生……
供物……“食べられる”んじゃなくて……
“消される”気がします……」
(ミナ……
本当に鋭いな)
神殿内部から詠唱が響く。
——ゴォォォォオォン……
鐘が鳴った瞬間——
供物台の上の食べ物が、一瞬で跡形もなく消えた。
「え?」「え!?」「なくなった!?」「なんで!?」
広場がざわつく。
「先生!!
全部……“光に溶けて”消えました……!」
「やっぱり……!」
リオは神殿裏へ走ろうとしたが、
白衣の神官たちが列を組んで立ち塞がった。
「旅の方。
儀式に口を挟むことは許されません」
「消えた供物……どう説明する?」
「神に捧げられたのです。
何も問題はありません」
「問題しかねぇだろ」
リオは睨みつけた。
「島は飢えている。
それなのに供物を“消す”ってのか?」
「“神の選別”です」
神官の目は笑っていなかった。
(……完全に操られてる)
ミナが袖を掴む。
「先生……神官さんたち……
心が……全然感じられない……
“空っぽ”です……
怖い……」
(空っぽ……
魂を抜かれたみたいな……
そんな状態か)
リオの足元の黒いオーラが、
神官たちを“観察するように”揺れた。
(……黒いオーラ……お前まで反応するな)
神殿の扉がゆっくり開いた。
白い外套に“光戒師団”の紋章を刻んだ男が現れる。
「……光戒師団……!」
ミナが震えた。
(やっぱり王国か……
ここでも“飢餓”を利用して支配するつもりだな)
隊長と思われる男が広場に向けて言う。
「供物は神の元へ行った。
今年も安心して耐えなさい。
“希望は、神への忠誠の先にある”。」
島民たちは小さく拍手する。
笑っている。
だが目は完全に死んでいた。
(……洗脳だ)
「そして今夜——豊穣神の“お言葉”をいただく。
全島民は神殿前に集合せよ」
ざわ……と広がる緊張。
「先生……
この島の人たち……
完全に“疑う心”がなくなってます……」
「……ミナ。
神殿の奥、どう感じる?」
「……さっきよりもっと……真っ黒です。
そこに……
“ひとり……強く、強く、飢えてる人”が……」
(飢えてる……
この島の飢餓の原因……
“そいつ”か)
リオはミナの手を握り、静かに言った。
「ミナ。
神殿の奥に“答え”がある。
今夜、潜入するぞ」
「……はい!!」
ミナは震えながらも、力強く頷いた。
その足元で、リオの黒いオーラが
“誰かの息遣い”のようにふっと揺れた。
(……黒いオーラ……
お前も何かを感じてるのか?)
黒いオーラは答えず、
ただ静かに形を歪めた。
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※本作の執筆にあたっては、
一部のアイデア整理や設定構築にAIを活用しています。
物語の最終的な構成・文章表現・キャラクター描写は、
すべて作者自身の手で仕上げています。




