37話
ゲートが開きレースが始まった。
一斉に馬達が飛び出しコーナーへと向かう。
加賀騎手はコルネットトーンを促し先頭につけようとしたが他の馬が先頭を狙って飛び出してきたので無理をせず抑え3番手でコーナーへと入っていく。
陸奥騎手と土佐騎手は最後の直線に備えて後ろからのレースをしたかったので共に後方に控えていた。逃げた馬がペースを作り馬群は縦に長くなりレツとの折り合いも取れている陸奥騎手にとって願ってもない形になった。
逆に土佐騎手にとって1番なって欲しくなかった形になった。
ジンライフウレツと何度か戦ってどんな馬かは分かっている。
今の形がジンライフウレツと光輝のやりたい競馬だろうというのは予想できた。
最後の直線で勝負したい自分とシックルウイーズルにとっても絶好の形になるが最後の末脚になったらこちらの分が悪い。
かといって今から自分にできることはない。
最後の望みはどの馬も2400mを走ったことはない事だ。
ジンライフウレツにとって距離が長く最後にスタミナが持たなくなることに望みをかけて最後の直線までシックルウイーズルに無理をさせないよう我慢し続けた。
最終コーナーを回り縦に長く伸びていた馬群も徐々に縮まっていく。
全頭がコーナーを回ると陸奥騎手と土佐騎手は鞭を入れ、最後の直線勝負に入った。
残り400mから2頭は一気に加速し前の馬を追い抜いていく。
残り200mあたりでコルネットトーンを必死に促す加賀騎手は2頭に追い抜かれて負けを確信した。
それでも加賀騎手は依頼してくれたオーナーに少しでもいいレースだったと思ってもらえるように、追い抜いていく2頭の背中を見ながら1つでも上の着を取るために全力でコルネットトーンの走りを助けながらゴールを目指した。
残り200を切ってジンライフウレツをシックルウイーズルは必死に追っている。
土佐騎手は他の馬は追い抜けると確信していたが、ジンライフウレツを捉えることができない。
シックルウイーズルは今までで一番の末脚を見せてジンライフウレツを追い続ける。
そして残り50mで徐々に差を縮める。
土佐騎手は何も考えずにシックルウイーズルの走りを補助することに集中して一心不乱にゴールを目指す。
しかし、このままではギリギリ届かない、このままでは勝てない、今までの経験が自分の中で語りかけてくる。それでも全力でシックルウイーズルを促し ゴールを目指した。
レツが前の馬を全て追い抜き先頭に立っても冷静にレースを走り続けた。
最後の直線で先頭に立っても後ろに差し切られてゴール手前で抜かれて負けることは珍しくもない。
後ろからシックルウイーズルが近づいてきているのも感じた。
それでも負ける気がしなかった。
ゴールまであと50mもないこの瞬間に、子供の頃からの夢だったダービーを勝てる瞬間に、今まで乗ったどのレースよりも冷静になっていた。
そしてシックルウイーズルが半馬身差まで詰め寄った瞬間ジンライフウレツの鼻先がゴールを越えた。
次の瞬間、今までの冷静さが嘘のように歓喜の念が湧き上がり歓声の上がるスタンドを向きながら右手の鞭を掲げていた。
その姿を見たスタンドの観客から更に大きな歓声が上がる。
その横を頭を上げずうつむいたままの土佐騎手を乗せたシックルウイーズルが駆け抜ける。
レースを走り終えた騎手はおめでとうと言葉をかけながら横を駆け抜けていく。
新たなダービージョッキーとダービー馬の誕生を祝福するファンの声を背に走りながら陸奥騎手は勝利の喜びを噛み締めた。




