1話
北海道の牧場で仔馬が生まれようとしていた。
「どうだ、順調に行ってそうか」
牧場の場長の田中が馬の様子を聞いていた。
「今のところは大丈夫そうです。立ち上がったり座ったりを繰り返していますが、暴れたり興奮はしていないので順調そうです」
馬房を映すカメラを確認しながら出産間近の牝馬を見守っている。
「すまないが今日はいつも以上に大変なだろうから覚悟しといてくれ」
「はい、何しろ双子の出産ですからね。皆、今日の出産に備えて準備は万端です」
場長はスタッフの言葉に勇気づけられた。
通常は双子だと分かった時点で1頭は堕胎させ、1頭だけで出産が行われる。しかし、この牝馬は堕胎するタイミングを逸してしまったためにそのまま双子を出産させることになった。しかし双子の出産の経験のあるスタッフなど誰もいないのでスタッフ全員が緊張しながら牝馬を見守っていた。
夜が明ける頃に双子の出産は無事に終わった
「無事に産まれてくれましたね」
スタッフは初めての事で不安に悩まされていた日々が終わったのでほっとしていた。
「まだ産まれたばかりだが一番の山場は過ぎたからな」
場長も無事に出産が終わってほっとしていた。
しかし、産まれてきた2頭の将来についての不安があった。
双子と分かった時に1頭を堕胎するのは出産の時に母親も亡くなるリスクが大きくなることが一つ、もう1つは双子で生まれた時 それぞれがうまく育ってくれないために競走馬として活躍することが出来ないと言われているためである。
そのために、双子だと分かった時点で堕胎して1頭だけが産まれるようにするのだ。
無事に産まれてくれたが果たして競走馬として買い手がつくのか、また競走馬になっても勝ってくれるのかと不安は尽きない。
場長は悩みがどんどんと溢れてきたが、今は無事に仔馬達が産まれた事を喜びながら無事に育ってくれることを祈った。
しかし場長の願いとは反対に仔馬たちはなかなか売れなかった。
「なかなか売れませんね」
「双子の馬で珍しいとはいえ、走ってくれない馬ににお金は出せないからな」
昔からのなじみの人や双子だということで見に来た調教師にも見てもらったが、評価はあまり芳しくなかった。
「ジーは少し小柄なのが気になりますし、ヒメはジーよりは成長していますけど性格に不安がありますからね」
姉のヒメは成長は問題ないが、見に来た人を見ると警戒し、威嚇してすぐに暴れて、見に来た人を驚かせて買うことを躊躇させてしまった。
弟のジーはヒメと比較して少し成長が遅く、さらにヒメとは逆に人懐っこく、大人しい馬だった。
その為、興味を持ってくれた人たちもいたのだが、ヒメを見ると逆にその気性のおとなしさと、小柄な点が気になってしまう人が多かった。
更に、将来ヒメのように気性が荒くなるのではないかと危惧する人もおり、昔からのお得意様にも見てもらったが、興味を持っては貰えたがいい返事は貰えなかった。
「まあ、まだ1歳だからもう少し成長してくれたら評価してくれる人もいるだろう。もう少し様子を見よう 」
場長は2頭の頭を撫でながら、何とか買い手がつくように育ってくれと呟いた。
「そういえば今度新しい馬主が馬を見に来るそうですね」
「ああ。昔からのなじみの姫川オーナーさんの紹介でうちの牧場に馬を見に来るそうだ。確か浅葱さん と言ったかな」
「そのオーナーに見せたら買ってもらえませんかね 」
なったばかりのオーナーで、馬に詳しくない人だったら興味本位で買ってくれるのではないかと提案された。
「いや。まだ馬主になったばかりの人に薦めるわけにはいかないだろう。 これからも長い付き合いになるかもしれない人なのだから、競走馬になれるか不安になる馬を最初に薦められんよ」
初めて来る人にアピールして早く売ってしまうべきではないかという考えも よぎったが、それで全く走らなければ牧場への印象は悪くなるし、馬主を直ぐにやめるかもしれない。
「新しく競馬の世界に入ってくれた人なんだ。こちらとしても自信を持てる馬を薦めよう」
そう言って牧場に来る浅葱オーナーには双子の馬は薦めないと決めると、どの馬を見せようか頭を悩ませ始めた。




