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86.今のこと、先のこと

「ありがとう。良かった」

「わたしも、ありがとう、ございます・・・」

震えるような気持ちで胸がいっぱいになる。


「俺は、きみだけを、妻に迎えたい。きみの他はいらない。だけど俺は貴族を降りるつもりはない。俺は平民の暮らしなど送れない」

「・・・」

コクリ、と頷きを答えに返す。


「だから、きみには、貴族の家に入ってもらうしかない。そう考えている。どうだ?」

「・・・はい。ただ・・・」


「ただ?」

「私には、貴族の、事がよく、分かっていません。お友達も、いないぐらいで」


トラン様が宥めるように笑いかけてくださる。

「貴族の振る舞いは、俺の家に入ってから身につけても良い事だ。大丈夫だ」

「・・・本当に?」


「どれだけの使用人がいると思う。きみが慣れていないものごともサポートできる。徐々に慣れれば良い。だからそこは問題にしなくて大丈夫だ」

「でも」


「なんだ」

「迷惑しか、かけていません・・・」


トラン様が瞬いて、苦笑した。


「本当にそうだったら、俺はきみにこんなに惚れていない」

「・・・」


今度は私が瞬く番だ。


「それに、もし迷惑だったとしても、俺には嬉しさの方が優る」

「本当に?」


「本当だ。それにきみは勘違いをしている。きみが迷惑をかけているんじゃない。きみが、誰かに嫌がらせをされて酷い迷惑を受けている。俺たちは、きみを支えたいだけだ」

「・・・」


「支えたいので、支えさせて欲しい」

「・・・」

嬉しい。甘えて良いのかな。良いって言ってくださっている。

本当に良い?


「俺の言葉を信用してくれていないのか」

トラン様が苦笑してみてくださる。

「信用、して、います。とても、いつも、頼ってしまって、でも頼りすぎだって、」


「良いんだ。頼り過ぎじゃない。もっと頼って欲しい」

「ありがとう、ございます・・・」

気持ちがこみあげてきて、ボロリ、と急に熱い涙がこぼれて慌てた。急いでトラン様から離れて両手で顔を覆う。袖で拭う。


「できれば、泣いている時に、慰められたらと思う。一緒に笑いたいし、辛いときは慰めたい」

トラン様の声がした。

「は、い、っ」

ありがとう、ございます・・・。余計に泣けてきた。どうしよう。

「っ」

泣き声が漏れてしまう。


トラン様が無言なので、余計に抑えなければと思うのに、収まらない。


少しして、トラン様がまた話しかけてきて下さる。

「身分は、少し遠い親戚の家の養女に一度なってもらってから、という手段でも解決はできる。ただ、その、結局、俺の家がまず認めるかどうかで、俺は、きみを迎えられた時の俺の利用価値と、そうでなかった場合との損失を、周囲に認めさせようと、考えているんだが、俺の家が短絡的な手段に出て来る可能性があるので、例えば、きみを今支えている貴族から協力を得ることはできないかなどといったことを、調べたり、手を打ちたいと考えているところだ」

「・・・っ」


どんどん流れて来る涙をぬぐうしかできない。御礼の言葉も胸が詰まって言えていない。


「きみは確かに平民だが、それでも学院に通えている。そんな特別枠になる方法は無いのかと、思うのだが・・・まだ手探りだ」


泣きやむこともできなくて、お顔も見れない。


「・・・あまり目をこすると、目を傷めるらしいぞ。・・・なぁ、ちなみに、それが嬉し涙なら良いんだが」

「・・・!」

コクコク、と頷きを返す。涙は止まらないけど、トラン様を見ようと努めた。


「上手く行くか、実はまだ方法を探していて、自信が持てていない。それで、きみが好きだと言ってくれたのに、俺はきちんと答えられず、聞かないふりをしてもらったりで、情けない、んだが、でも、万が一と思うと、その、きちんと言えず」

今度はフルフルと首を横に振った。

十分、伝えていただいていると思う。


「っトラン、さま、ありがと、ございま、す・・・」

「嬉し涙か?」

コクコクと頷く。


「良かった。・・・手を握らせてもらっても良いか。片手で良いから」

慌てて、シーツで手を拭う。

笑われた。上から捕まえるみたいに手を握られる。

恥ずかしい。でも嬉しい。


「明日、本当に授業を受けるのか?」

「・・・は、い」


「強いな。偉い」

「・・・そういう、わけじゃないです」

行かないと普通に戻れない気がするから、です・・・。


「昼、また一緒にランチを取ろう。明日も」

「はい」


「・・・去るのは本当に俺は苦痛だが、一度帰らないといけない。周囲が、その方が俺が本気だと考えるからだ。もうここまで来たら近くの部屋で泊って良いんじゃないかと俺は思うんだが、こういうところが面倒だな」

「・・・」

トラン様を見つめる。

帰ってしまわれるのか。寂しい。

ずっとこのままは無いのは当たり前の事だけど。


「寂しいと思ってくれたのか?」

「・・・はい」


「俺も本当は帰りたくないんだが」

トラン様がため息をついた。


行かないで欲しい。

繋いでいただいてる手を強く握ると、トラン様が嬉しそうに笑んだ。


「俺も同じ気持ちだ。だが不名誉な噂をきみに立てないためにも、一旦帰る。・・・また数時間後に迎えに来る。おやすみ、キャラ・パール嬢」

「はい・・・おやすみなさい、トラン・ネーコさま・・・」


「本当は一緒にいたい」

小さく言われて、トラン様は手を外して、立ち上がられた。

「できることから、やろうな」

「はい・・・」


おやすみ、ともう一度囁いてくださってから、トラン様は歩いて出て行かれた。護衛の人を連れて。


残ったルティアさんが、

「おやすみなさいませ」

と声をかけてくださった。

お部屋に残って下さったみたいだ。


申し訳なくて、恥ずかしい。だけど、心強い。


「ありがとう、ございます・・・」

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