85.お話
「す、みません、」
シーツを被ったまま、謝った。
「いいや。泣いて当然だ。・・・できれば一緒にいたいと俺が勝手に思ってしまった。申し訳ない。貴族なので自分本位なんだ。迷惑を考えずに押しかけた。ただ、後の事を考えずに来てしまった。さて、どうしようかと、実は思っている。なぁ、寝付けないなら、このまま話していて良いか?」
「・・・すみ、ません」
「何に謝っている? 話すのは駄目なのか?」
「ちがい・・・」
「じゃあ、話そう。それから、俺が来たことなら、俺の方が謝らないといけない事態だ。そして、顔が見たいと思っているが、それも謝らないといけない気がする」
トラン様の声は穏やかだ。宥めるみたいだ。
「すみ、ま、せん・・・」
私はずっとシーツを被っているままだ。お顔は見たいけど、自分の顔は見せたくない。
だけど、寝たふりの体勢は失礼だ。モゾモゾ動いて、ベッドの上に起き上がる。シーツのお化け状態だ。
「宥め方が、分からなくて、申し訳ない。・・・嫌なら離れるから言ってくれ」
そう言われて、シーツを被ったままの状態で、抱きしめられた。
ギュッとされて、また泣きそうになる。こらえた。
暖かくて、安心してしまう。
スルリと頭からシーツが落ちた。
「!」
慌てたけど、さらに抱きしめらられて、顔は見せずにすんだ。肩に額を押し付けた。
「・・・明日はどうする?」
静かに優しい声だ。
「あした?」
「あぁ。授業だ。休んでも構わないと思うぞ」
「・・・トラン様は?」
「俺は・・・さてどうしようか」
トラン様は、私を気遣っていると思う。
休む、なんて私が答えたら、付き合ってくださりそうだ、なんて思う。
「じゃあ、行きます・・・」
「行くのか」
少し驚いたような声だ。
「はい」
だって、休んだら、さらに迷惑をかけそう。
「理由は?」
「・・・」
「授業を受けなければ、成績次第で、ご家族への支給金額が変わるからか?」
「・・・それは今、考えて、なかった、です」
「そうか。・・・まさか俺に迷惑をかけるから、と考えているなら、気にしなくて良いんだからな」
「・・・気、に、します」
すり、とほおずりされた気がする。分からない。少し動かれた。
「本当に気にしなくて良いぞ。きみのなら迷惑万歳だから。不思議なものだな。頼られるのが嬉しいんだ」
「・・・そんなわけには、いかないです」
「どうして。悲しいんだが。頼りになれないのかと自分に失望するんだぞ」
「・・・たよりすぎ、だから」
「まだ足りていないぐらいだ。まだまだ余裕がある。心配するな。・・・なぁ、ルティアを隣に控えさせたのも遠慮したんだろう。迷惑をかけていると考えたんだろう?」
「・・・」
コクリ、と頷いた。
少しトラン様が息を吐いた様子だ。力が抜けたというか。
「そうか。ルティアを心配したか。早急にあと数人、女性を手配しよう。交代制になればきみも安心だろう?」
「・・・でも」
「あぁ」
「ルティアさんだから、安心、できます」
「・・・大丈夫だ。ルティアに選ばせる。きみの信頼するルティアの選んだ人物なら、間違いは無いと思わないか?」
「・・・は、い」
そうか・・・そうかも。
しばらく無言になる。
まだ抱きしめてもらっている。
「きみ、俺の家の人間に、ならないか」
「・・・」
意味が、分からない。
・・・あぁ。
少し、身体を離そうと思った。身動きすると、すぐに腕を緩めてもらえた。
急いで顔を服の袖で拭い、きっとそれでもみっともない顔だと思うので、両手で鼻と口を覆う。
目は、トラン様を見たいので、出してしまうけど。
優し気に、少し笑われた。
私は、呼吸を整えようと努めてから、尋ねた。
「トランさまの、いえの、使用人に、やとって、くださるって、いう」
「・・・違うな」
トラン様が息を吐いた。肩が落ちた。
「違う」
すぐに顔を上げて私を見つめる。真剣で、少し怖い。動揺した。
トラン様が迷ったようで、視線が揺れる。
次にまた私を真っ直ぐ見つめられた。
「使用人にとは考えていない。そうじゃない。・・・いや、俺が悪い。その、無責任な事を言ってしまいたくないからと、微妙に遠回りな表現になってしまうからだ。その、堂々と言うには、俺の根回しができていないんだ。困ったな・・・だけどきみを独占したくて仕方ない。・・・俺ができていない部分を含めて、白状したほうが、良いだろうか」
「・・・」
分からないけど、頷いた。
聞きたい。
トラン様はじっと私を見つめている。
それから、少し視線を外し、部屋の中を見た。ルティアさん、それから護衛の人も控えている。トラン様が連れて来られた人なのかも。
また視線が戻って来た。
「俺は、きみが好きなんだ。妻に迎えたいという意味だ」
「・・・!」
驚いて、震えてしまった。
ハッキリと、言ってくださるなんて、思ってなかった。
「きみは、俺が、きみを望んだら、来てくれるか?」
「! は、い! でも・・・」
慌てて、顔を覆っていた手を外した。重要な話に、顔を隠すのは、いくらみっともない顔でも駄目だと思った。
「でも・・・?」
「私は、迷惑しか、かけてないし、身分が、全然」
嬉しい。とても嬉しい。
だけど、でも。
トラン様が、片手を伸ばして私の頬に触れた。涙の跡を拭こうとしてくださっている。
「身分の問題が解決したら? 来てくれるか?」
トラン様が優しく笑ってくださっている。きっと私の答えを分かっている。
「・・・はい」
真剣に、答えた。
トラン様が、安心したように息を吐いた気がする。




