表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/143

84.一人

ドレスのお店の時点で随分と時間が経っていて、今日はトラン様とは町でお別れする事にした。

本当は私と一緒に学院に一旦戻ると言ってくださったのだけど、ご予定に無理が出ているようなのが分かって、大丈夫だと私からお伝えしたのだ。


ただ、本当に別々に行動となると、物凄く寂しさと心細さを覚えてしまう。

でも十分すぎることをしていただいている。我慢だ。


***


学院、昨日泊った部屋に戻った。

晩御飯はルティアさんが用意してくださったのを食べた。


ルティアさん、私につきっきりで大変そうだ。疲れているように見える。


「こんなにしていただいてて・・・本当に有難うございます。あの」

と言いかけて困ってしまった。

元気でいて欲しいけれど、ルティアさんが傍にいないのが怖い。休んで下さいね、と言えない。我儘だ。


ルティアさんは微笑んだ。

「大丈夫です、気を遣われませんように」

「でも、私につきっきりでいてくださって・・・」

「ご安心くださいませ。どうぞ頼ってくださいね?」

「・・・」

縋るように見つめてしまう。


「お傍にいるのに、頼っていただけない方が辛いものですからね?」

「・・・ありがとうございます」


だけど、せめて、少しでも迷惑をかけないように気を付けなくちゃ、と思うほどには、ルティアさんの表情には疲れが見えている。


***


夜。

部屋に一人だ。


ルティアさんは傍にいると言ってくださったのだけど、隣の部屋に行ってもらった。

ルティアさんは、その方が休めるはずと思ったからだ。


ずっと一緒にいてもらっている。

着替えの時もトイレもずっとだ。

一人になるのが怖くて、でもルティアさんがいてくださったら安心できる。

ものすごく頼っている。

頼りにし過ぎているはずだ。ルティアさんは、私の母親でも姉でもないのに。


だけど、寝ている時は大丈夫です、なんて見栄を張ってみたのをすでに後悔している。

早く寝てしまいたいのに、目を閉じるのが怖い。灯りが落とせない。

暗がりに、虫が蠢いているんじゃとか、誰かいるんじゃないかとか考えてしまう。


やっぱり傍にいて、寝るまで見てもらえばよかった。

でも、私は小さな子どもじゃないのに。


怖くて、横になっていられない。

どうしよう。


通信アイテムを握りしめそうになる。

トラン様にも、頼りすぎてる。


それに、今。

怖いとか寂しいとか傍にいて欲しいとか、全部筒抜けになってしまう。

我慢しないと、頼りすぎだって嫌われたら嫌だ。頑張らないと。


つい、握りそうになるから、首から外した。傍の机の上に通信アイテムを乗せる。


あ。震えている。コツコツ、と音もしている。

トラン様からの連絡・・・。


「・・・」


寝たことにしよう。

下手したら泣いてしまって、トラン様にまた迷惑をかける。今は、でない方がきっと良い。

代わりに、首にかけたままのネコのお守りをギュッと握りしめた。

大きさが同じぐらい。通信アイテムを握っている気分。

だけど、通信アイテムではないから、大丈夫。


絶対、届かない。


怖い。

一人になりたくない。

寂しい。

一人は嫌だ。


じわじわと暗闇に浸されていく気分でどんどん悲しくなってくる。

でも耐えなきゃ。もう、子どもじゃない。


通信アイテムの振動する音が消えた。


寂しい。

出れば良かった。

トラン様。


大丈夫、ほら、思い出そう、私は前世も、ずっと病院で一人で寝てた・・・同じことだ、慣れてるから


カチャ、とドアが開いた音がした。

慌てて目を瞑って息を潜める。


もう、寝ています。


こちらの部屋の灯りが少し暗くなった。

それからカチャ、とドアの音がした。

隣の部屋から届いていた灯りが消えたから、向こうに戻られたんだろう。


起きていると知られたくなくて、じっと固まっていた。


***


そのうち眠れるはず。

そう思うけど、泣けてきて、どうしようもない。


「おかあさん、会いたい・・・」


涙が止まらない。

ぐずぐずと鼻をすする。

だけど、大丈夫。声が多少漏れても、一人だから。バレない。迷惑はかけない。


帰りたい。

家に帰りたい、お母さんに会いたい、


怖い、寂しい、暗い、眠れない、怖い、傍にいて欲しい、慰めて欲しい、会いたい


***


またドアが開く音がした。


「!」


慌ててギュッと身を固くする。じっとしていればまた閉じるはず。

今、何時だろう? もう朝が来た? どうしよう。


「起きておられますわ」

と小さく、ルティアさんの声。

「入るぞ」

と、トラン様の声がした。


・・・。

え?


トラン様?

え、まさかルティアさん、ずっと部屋におられた?


嘘。


どうしよう。


ものすごく泣いている。顔を見られたくない。

慌ててシーツを頭までひっぱりあげた。


「失礼いたしますね・・・」

とルティアさんの声が近くでする。


「ルティア、少し離れていてくれ。話をするだけだ」

「はい」


嘘。

傍にトラン様も来ておられる。

酷い顔になっているはず。顔を出したくない。


「・・・きみは、偉いと思う」

トラン様がポツリと言った。


え?


「あんな目にあったのに、普通に過ごしただろう。買い物は、俺は楽しかった。きみには迷惑をかけたかな。・・・まぁとにかく、普段と変わらない様子に過ごしたきみは、とても強い人だと思った」


・・・。

強いとかは、無い、です・・・。


「押しかけてきて言うのもなんだが、今のきみの様子は、当たり前だと思った。・・・本音を言うと、もっと頼って欲しいと思ったが。言い訳をすると、連絡に応答が無くて、寝ているなら構わなかったが心配で、ルティアに様子を確認させた。それで、まぁ、押しかけた。頼って欲しくて。下心だ。淑女の部屋に深夜に訪問とは、なかなか、俺も大胆な行いをしている」

トラン様が少し笑った気配がする。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ