76.お昼時間
「スミレ嬢」
ポニー様が声をかけられる。
スミレ様はポニー様の方を向かれた。
「嫌味などではありません。純粋に、疑問に思うのです。私は、彼女を追い出そうとはもう思いませんわ。静かに生きたいのですから。でも・・・」
「僕たちが口を挟むのは野暮だと思うよ」
ポニー様が苦笑された。
「僕たちは応援するか静観するかだと思うけど」
「いいえ。選択肢に、否定するか、も含まれているべきですわ。いくらご友人でも」
「否定か。何にしろ、きみと僕で意見があったら良いんだけどな」
「そう、ですわね・・・」
「というわけでキャラちゃん、堅苦しく考えないで。本当に会えて嬉しい。スミレ嬢も、キャラちゃん相手だとよく話すね。良かった」
「そういうつもりはありませんわ・・・」
スミレ様は不満そうだ。
ポニー様はクスリと笑った。
「昨日、随分僕たち、トラン様とキャラちゃんの心配をしてたんだよ。意外と元気そうで安心した。良かったね、スミレ嬢。二人に会うことができて」
「・・・言わない約束です」
目を伏せて憂うスミレ様に、ポニー様が驚いた。
「え、そんな約束、した? 僕たち?」
「・・・」
「ごめん、してたら、本当にごめん」
ポニー様が焦っている。
スミレ様はソッポを向いておられる。
「ごめんなさい」
「・・・いいえ。約束なんてしていませんでした」
またポニー様が驚いて、それから安堵に笑った。
「え、何だ! 良かった! でもなんだかごめんね」
「・・・」
コンコン、とノックが。
お二人は気づいておられないのかな。
「あの、ノックが・・・」
と言ったら、もう扉は開けられた。
トラン様入室。扉は再び閉まる。
「お待ちしていました、トラン様」
とポニー様。
スミレ様が少し赤い顔をふと逸らせている。
「仲が良いな」
とトラン様がポニー様たちの様子に少し驚かれた。
「婚約者ですから」
「そうか。仲が良いなら良かった。スミレ・ヴァイオレット嬢、回復された事、心からお祝い申し上げる。このように会っていただけて良かった。感謝する」
「いいえ・・・私の方こそ、ご迷惑をおかけいたしました・・・」
スミレ様が視線を床に落として、そう告げる。怖そうだ。
あれ? 私とポニー様には普通に話してくださるのに、トラン様と目は合わしたくない様子。
様子通り、怖いのかな・・・。
「待たせて申し訳なかった。昼食を取ろう」
「はい」
トラン様とポニー様が話を進めていく。スミレ様はポニー様にそっと身を寄せた。やっぱり怖いみたい。
***
ランチ。やっぱり必要最低限しかトラン様とは話をされない。
ポニー様とはよく話をされている。なぜか私には普通に話してくださる。
「提案だけど、スミレ嬢。きみも『キャラちゃん』って呼んでみたら。友達だよ」
「嫌ですわ。そんな幼い呼び方」
ムッと機嫌を悪くするスミレ様。
そうですよね。予想できる答えなので、別に腹も立ちません。
「でもいちいち、『キャラ・パールさん』って長くて呼びづらいよ」
「でしたら、『キャラさん』とご提案をされるべきではありませんの? どうして『キャラちゃん』になるのですか?」
「僕と呼び方が一緒になるから」
「ポニー様が『キャラさん』に変えられてからご提案いただけたら、考えてみても良いですけれど・・・」
「そう? もう『キャラちゃん』で呼び慣れているのに。距離を置くのは勿体ないけど、スミレ嬢がそういうならそうしようかな。トラン・ネーコ様。トラン様はキャラ・パール嬢をどう呼ばれているのですか?」
「え、俺か?」
トラン様が急に話題を振られて驚いた。
スミレ様も顔を上げてトラン様を見た。興味を引かれたご様子。
えー。トラン様って、普通に『キャラ・パール嬢』だよね。あとは『きみ』とか。
「普通にフルネーム呼びだ」
「え」
ポニー様が、信じられないものを見るようにトラン様を見た。
スミレ様も、少しがっかりされた。
「何だその反応・・・」
「いえ、何かちょっと勝手に期待をしたので、残念に思っただけです」
***
食事が終わって、のんびりお茶をいただいていたら、トラン様がこう言った。
「隣の部屋も押さえてある。内部で繋がっているから、良かったらどうぞ」
「ご配慮ありがとうございます」
と答えるのはポニー様。
ポニー様は苦笑しながらスミレ様を見つめた。
「ではお言葉に甘えて、隣で休ませていただきます。初日からずっと人に囲まれてしまって」
スミレ様もじっとポニー様を見つめている。
「そうだろうな」
とはトラン様。
「行こう、スミレ嬢。ゆっくりさせてもらおう」
「はい・・・感謝いたします・・・」
目を伏せてトラン様に少し礼を取るスミレ様。
そして、内部のドアからもう一つの部屋に2人と使用人の方々とで移動されていった。
こちらに、トラン様と、トラン様の使用人の人たちと、私とが残った。




