52.お守りチェック
翌日。昼休み。
図書館のいつもの席で、私は小さく呟き、両手に握りこぶしを作った。
「万歳!」
「おめでとうございます!」
ルティアさんも小声ながら祝ってくれる。
ついに、コツコツ作り続けていたトラン様のお守りが完成した。多分。
効果がついているか見てもらわないといけない。
早速、今日の放課後、お店の人にチェックしてもらおう。
***
お守りの事が気になって仕方なかった。午後の授業がやっと終わり、ルティアさんと急いで馬車に!
なお、呪いの犯人を捕まえてくれた護衛の大柄の男性、グレンさんも一緒だ。
今までは別行動でこっそり後をついてきて下さっていたのだけど、呪いの犯人も捕まった今、一緒の方が良いとのこと。
嬉しくてグレンさんにも「ずっと作ってたんです」とお話する。
グレンさんもニコニコして聞いてくれる。
ルティアさんも、「そうですわね」と相槌を打ってくれる。
すぐに、呪いのアイテムのお店に着いた。
***
「作成キットをここで買って、作ったものです。効果がきちんとついているか、見てもらえませんか」
とお守りを見せる。
お店のおばさんは、
「おや。そうかい」
と快く答えてくれたものの、一目見て、少し首を傾げた。
「おや。おやおや」
「えっ・・・」
反応に一気に不安になる。
「え、何か失敗していますか?」
「お嬢ちゃん、これはどういうつもりで作ったの」
「健康のお守りで、怪我が早く治りますようにって・・・」
でも、ちょっと色々悩んでいる時にも作っていたから、変な雑念でなにか上手く行っていないんだろうか・・・。
「そうー。そうなの。これ、人に贈るんだろう?」
「はい・・・」
泣きそう。
「勿体無いねぇ。店に売ってくれたら高値で買い取るんだけどねぇ・・・」
「え」
顔を上げる。おばさんは、じっとまだお守りを見つめている。
「見てごらんよ。あ、そこのあなた。丁度いい、その棚の白い小さい、これと似たようなサイズのお守り持って来てもらえるかい」
おばさんは、護衛のグレンさんに声をかけた。
「右側にある棚、そう、目の前だよ」
そうしてグレンさんに持って来てもらったものを受け取り、心配そうに少し離れているところに立っているルティアさんも近くに呼んだ。
「せっかくだから皆に見てもらいな。これが、うちで売ってるお守りだよ」
白いピラミッドのもの、下の隙間にお守りを入れる。文字が出て来る。
「健康になるように働くお守りだよ。風邪なら軽くですむ。本人は少し調子悪い、ぐらいで済むものだ。見てごらん。健康状態に保つ効果。それしか出てないだろう?」
たしかに。
「次にお嬢ちゃんの作ったものだ」
おばさんがお守りを変える。
白いピラミッドに文字が出て来たが、ピラミッドの上に傘みたいな光がついて、その上にも文字が出てきた。
「見ただけで入っている効果の量が違うだろう。健康祈願。死にかけていても助かる可能性があるぐらいだ。魔法レベルに近いね。それから回復力を大幅に強める。ケガを治すって作ったんだね。尋常じゃない効果があるね」
「・・・本当に?」
「本当さ。魔法なら一瞬で治すけどこれはお守りだからね。数日かけて、じわじわ、魔法のように治せるよ。売らないかい? 相当の金額を払えるよ」
「売りません、贈る人が決まっています。その人のために作ったんです」
「そうだろうね」
おばさんは笑った。
「じゃなきゃ、初めてでこんなもの作れないよ」
おばさんの笑い方に、好きな人用だと見抜かれた気がして、ちょっと赤面した。
おばさんは私が作ったお守りを返してくれる。私を見てニコニコしている。機嫌がいい。
「あんた、もう一度適性を計ってみないか」
「え。はい・・・」
右手をピラミッドの下に入れる。
「ほら、やっぱり。前より数値が高くなってるね。お嬢ちゃん、うちで働いてみないかい? アルバイトだ」
「え? 私、学院に通っていて・・・。お声がけいただけるのは嬉しいんですが・・・」
「この時間に来れるんだろう? この時間からで良い」
「部活も、実は入ってて・・・」
「じゃあ、毎日じゃなくて良い。一日置きとか。私は親切で言ってるんだよ、お嬢ちゃん」
親切・・・。
「あんた、本当は何か修業をしてなきゃいけないはずだ。今まで何も無かったのかい? 精霊に会ったことは? 神官に呼び止められたことは?」
「無いです・・・」
「おかしいねぇ。誰かに機会を横取りされているのかね。可哀そうに。せめて、私の店で少しでも磨いていきな」
話が少しわからなくて困る。アルバイトに誘われている事は分かる。
ルティアさんが私が困っているのを察して、お店のおばさんを窘めた。
「困りますわ。この方にもご都合があります」
「だけどさ、これだけの資質を持っているってのに、今まで野放しにされているのが変なんだよ。わたしの店は小さいけど、それなりに各方面から一目置かれている。実力があるからね。面倒を少しでも見てやりたいと思ってね。稼ぎにもなるし、親切な申し出だよ。それにこちらも助かるしね。どうする、お嬢ちゃん」
「アルバイトって、どれぐらいですか? 毎日は難しいです。実は、石を磨く内職もあるので」
「なるほどね。じゃあ、1週間で2時間、っていうのはどうだい? いつ来ても良い。来たら、他のお守りの作り方も教えてあげる。良い話だと思うけどね?」
「お給料は・・・?」
「そうだね。2時間でこれぐらいだ」
お店のおばさんが、ピラミッドの上に文字を出した。
「こんなに貰えるんですか?」
「そうだよ。良い話だって言っただろう」
「キャラ・パール様。落ち着いてくださいませ。上手い話には裏があると言いますわ?」
とルティアさん。
そ、そうか・・・。
「何言ってんだい、単にこの子を心配しての世話焼きの話だよ」
おばさんが呆れた。
「お守り作りが上手くなれば、良い事がありますか?」
「加護も強くなる。食べるのにも困らなくなるよ。お守りや呪いは高値で売れるからね」
そっか・・・。
「じゃあ、やってみます」
「あぁ、その方が良い」
こうして、私のアルバイト先、決定。




