51.会う
放課後。
少し会いたい、とメッセージを貰って、トラン様と待ち合わせ。
毎日、夜に会話をしているけど、お会いできるのは久しぶりだ。
呪いを設置していた犯人が捕まったので、心配してくださっているのだろう。
会えるのが嬉しい。犯人、捕まって良かった。
久しぶりだから緊張する。
ちなみに『木』の部屋。私の方が先について待っている。
カチャ、とドアの開く音にハッとする。
ジェイさんにドアを開けてもらったトラン様が入ってこられた。
立ち上がってお出迎えする。
トラン様は私を見て嬉しそうに微笑んだ。
「久しぶりだ」
「はい」
「毎日会話しているが」
「はい」
「座ろうか」
「はい」
『はい』しか言えていないけど楽しくなってくる。
トラン様は『はい』しか言わない私が面白かったみたいだ。
「早速本題になってしまうが・・・犯人が見つかった。良かった」
「はい」
「色々聞いたが・・・正直俺は腹立たしい」
え。
「きみへの謝罪がなっていない。無事だったものの、毎日不安にさせておいて『これで仲直り』だと? ふざけてる」
「・・・」
ありがとうございます。と思った。
とはいえ、平民がそんな言葉は口にできないと思ったから、ただ、真剣な表情でトラン様に頷いた。
うん。
自白の場に立ち会って、怖さよりも怒りが強く湧いている。
だけど、私は平民で、向こうは貴族令嬢だ。
「ルティアもそれはそれは怒っている。なぁ、ルティア」
「当然ですわ」
傍に控えてくれているルティアさんが、刺々しく答えている。
ありがとうございます、ルティアさん。
「きみももっと怒って良い。・・・だけど、怒れないんだろうな」
困ったように宥めるように、トラン様が私を見た。少し仕方なさそうに笑って。
「・・・はい」
コクリ、と頷く。不満はきっと顔に出ている。
「俺にもどうしようもない範囲だ。この件は何かの折の交渉ネタにできればと考えるぐらいだ。ミルキィ・ホワイト様が自覚されると良いんだが。メーメ・ヤギィ様が味方だということだけが救いだ」
「はい」
頷いて見せる。
正直、ミルキィ様、本当に関わりたくない。読めない怖さを感じる。
実害こそ出なかったけど、ほぼ泣き寝入り気分。だけど、自分から話を大きくしたくない。
いつかトラン様の交渉とかに役立つネタになるなら、気持ちがおさめられそうだけど・・・。
「犯人捕まえた祝いに、何でも聞いていいぞ」
とトラン様が雰囲気を変えようと、面白そうに私にニコリと笑ってくださったた。
「何でも?」
と少し驚いてから、嬉しくなる。
「そうだ」
「じゃあ・・・」
なんでも。
トラン様に起こっている事を知りたい。
「最近、どんな感じですか?」
「うん?」
だけど取り繕ったようなトラン様の表情に、やはり聞かない方が良いと判断した。
嫌がられるのが怖くなって、話題をとっさに変えた。
「お会いできなくて寂しいです」
「俺もだ」
「・・・」
「・・・」
お互い見つめ合ってしまう。無言になる。ちょっと緊張の糸が張る。
見つめ合うのが恥ずかしくなってきた。
耐えられず私は俯いた。
コホン、とトラン様は咳払いした。
「最近、最近な」
「はい・・・」
「うん・・・夜にきみと話ができることを励みに、過ごしているかな」
少し弱々しく聞こえた言葉に、顔を上げた。トラン様の様子を見つめる。
気づいたトラン様と目が合った。
そのまま笑まれるのでドキリとする。離しちゃいけない気がして目を逸らせない。
「私も、お話しできるの、嬉しいです」
「そうか。良かった。迷惑かと心配していた」
「迷惑じゃないです。嬉しいです。あの、いつも、とても、感謝してます」
「・・・あぁ」
「だから、トラン様、元気出してください」
「ん?」
トラン様がキョトン、とされた。こんな表情は珍しい。
「その、元気出してくださいね」
上手く言えないが、トラン様は前よりもかなり元気がない。弱ってる。
「・・・ありがとう。きみが、その」
トラン様は言いかけて、途中で気づいたように赤面された。
だけど真っ赤な顔になったまま、私をじっと見つめられた。
「いてくれるから、俺は、元気だ、と、いうか、っ・・・」
途中でトラン様は視線を逸らして言葉を濁した。
こちらも真っ赤になったけど、トラン様の方が酷くて、力尽きたように急に顔を伏せられ、
「痛!」
と小さく悲鳴を上げられた。ケガに堪えたみたいだ。
物凄く慌てた様子が珍しい。いつもトラン様は私より落ち着いているから。
「大丈夫ですか・・・?」
心配。
「あぁ、問題ない。大丈夫だ」
と言いながら、顔をしかめようとし、それを我慢しようとされている。
「ケガ、早く治ると良いですね・・・」
「そうだな」
少し恥ずかしそうに、トラン様が苦笑した。
また見つめ合って数秒経ってしまい、ちょっとお互い慌ててしまう。
ふと気づいて、トラン様の傍にいるジェイさんに視線を向けると、なんだか生暖かい目で見られていて、私と視線が合ったのに驚いて、少し気まずそうに逸らされた。
恥ずかしい。なんだかショック。
トラン様が気づかれて、トラン様がジェイさんを確認し、誤魔化すようにまた咳ばらいをされた。
なんだかジェイさんだけじゃなく、他の方々にも生暖かく見守られている気がする・・・!
そうして、あっという間に、トラン様との時間は終わってしまった。




