50.仲直り
ある程度犯人の自白が済んだところで、ミルキィ様だけが、少し恥ずかしそうにモジモジとして入ってきた。
「メーメ様に、怒られました。・・・でも先生、私、お気持ちはとても嬉しかったですわ」
「え」
ミルキィ様の発言に、項垂れていた犯人の美術の先生は顔を上げた。涙が流れたままに。
この部屋にいて自白を聞いていた他の人たちはギョッとミルキィ様を見た。
一体、何を言い出したんだろう。
ミルキィ様は困ったように先生に笑んだ。絵になる。
「ミルキィ・ホワイト様・・・!」
犯人の先生の顔に喜びが浮かんでくる。
「メーメ様に怒られてしまいました。だから謝ります」
「ミルキィ・ホワイト様・・・」
どこか上から目線の笑顔のミルキィ様を、幸せそうな顔でうっとりと見つめる犯人。
先生、ちょっと見る目が無くありませんか・・・。
「反省しないといけなくて・・・。先生、分かってくださいますでしょう・・・?」
「ミルキィ・ホワイト様!!」
先生、さっきからお名前しか口にしていない。
「残念ですわ、先生・・・頼りにはしておりましたの」
ミルキィ様が詰まらないものを見る顔になっている。ものすごく可愛い声だけど、内容は酷い気が。
「うっ・・・」
犯人の先生がどっとまた泣く。
「いいえ、私が、私が下手を打って、あなたに迷惑をおかけしてしまった・・・! 私が悪いんだ、ミルキィ・ホワイト様・・・私が悪いんだ・・・!」
ミルキィ様は、完全に嫌気が刺したという顔をした。無言だ。
だけど先生は泣いているからか、そんな表情をされている事に気が付いていないみたいだ。
え。これ、ミルキィ様、反省と言いながら、先生を切り捨てにかかっていない?
戸惑いつつ周囲を見回してみると、他の人は苦虫を噛み潰したような顔をしてたり、私と同じように視線を彷徨わせている。
「ミルキィ。迷惑をかけた彼女にきちんと謝ったか?」
部屋の入り口に現れたメーメ様が、苦情を漏らした。
ミルキィ様はハッとした様子で、私を向いた。
そして、私の両手をとった。ものすごく驚いた。
ルティアさんが驚いて反射のように割り込もうとしたので、ミルキィ様は驚いて手を離した。
ルティアさんに間に立たれて、ミルキィ様は泣きそうな顔になる。
「私を嫌わないで・・・ごめんなさい、嫉妬をしてしまったのよ。私、私・・・!」
「ミルキィ・ホワイト様は悪くない! 私が! 私がもっとしっかり・・・!」
『もっとしっかり』ってなんだ。『もっとしっかり呪っていれば』と言いたいの。
犯人の美術の先生にものすごく腹が立つ。
「アレン! しっかりしないか!」
他の先生も同じようだ。
「骨抜きにされやがって・・・! それでも教師か! 被害を与える呪いに手を出しやがって!」
ミルキィ様は、可憐な涙を流しながら、ルティアさんにめげずに再び私の左手を握り直した。
結構、強硬派な人?
私は内心でゾッとしながら、そぉっと指先をミルキィ様の手から抜いていく。
なのにそれを察して、ギュッと指先が強く掴まれた。
「お詫び申し上げます。だから許してくださいますでしょう? メーメ様は私が一番なのですって。私は特別なのよ。良いでしょう? 私とメーメ様には、ずーっと切れたことのない絆が、あるのですわ」
怖い!
敵にしたら駄目だ、絶対。
「お二人が特別なのはよく分かりました。あの、メーメ様には親切にしていただいて感謝しております。純粋に感謝です。間違っても恋愛感情とかは無いです。お二人、婚約者同士なんですね」
一生懸命、私は敵では無いですと訴えたい。
「えぇ。私たち、仲直り」
ミルキィ様がうふふ、と笑う。ものすごく美人。
だけど性格はものすごく怖いよ!
早く逃れたい一心で、細かくウンウンウンウン、と頷き返した。
「メーメ様、私、仲直りできましたわ・・・!」
やっと、私の左の指が解放される。
「ミルキィ。まだ私と話し合いが必要だ」
メーメ様が半眼でミルキィ様を見た。
ミルキィ様は驚いたように身体を震わしてパッとメーメ様のところに戻り、メーメ様の片腕をギュッと抱きしめて、潤んだ瞳でメーメ様を見上げた。
メーメ様はそんなミルキィ様を眺めて少し考えた様子。
ミルキィ様に言い聞かせるように優しい言葉をかけた。
「学院長はきっと良いお茶を出してくれるだろう。私はこちらで先生方と話をする。待っていてくれ」
メーメ様の言葉に、嬉しそうに頬を染め、メーメ様を見上げながらコクリ、と頷くミルキィ様。
そしてあっという間に、いそいそと出て行った。
こちらに残ったメーメ様は、ドアをパタンと閉じてから、ため息をつき、私に向けて深々と礼をした。
「婚約者が大変な迷惑をかけた。心からの謝罪をしたい。被害に見合った詫びを彼女の家から必ずさせる。本人に理解させるのに時間がかかりそうだが、二度としないよう約束させる」
私が困って何も言わないので、沈黙が降りる。
メーメ様は顔を上げてから、次に犯人の先生を見る。
「彼女に問題があるが、あなたも教師という立場だ、おかしな行動に走らないでいてもらいたかった」
と苦情を出した。
犯人の先生はメーメ様を睨みつけた。
こっちも全然反省してないよね。もう殴りたい。実際しないけど。
「アレン・オルトパス先生。一つ重要な事を確認したい。先日の、スミレ・ヴァイオレット嬢が呪いを受けた件。あれもミルキィとあなたの仕業か?」
「濡れ衣だ。少なくとも私は、そこのキャラ・パールしか知らない」
「そうか」
次に、メーメ様は申し訳なさそうに、犯人以外の先生たちに視線を向けた。
「こちらについては、一先ずの処理をお願いしても?」
「分かった。むしろ出てきてもらえたことに感謝する」
「しかしこれで何度目だ?」
「きみも苦労するな」
先生方がメーメ様を労わっている。
そして私は、やっと一応解決したというのに、全くスッキリした気分になれなかった。




