48.メーメ様の甘い態度
「きみに見せたいものがあるんだよ」
後ろに私とルティアさんがついていくわけだが、メーメ様はミルキィ様の腰を引き寄せて、耳元で甘い声を出した。
お、ぉおおう・・・。
こんな場面を私は見て良いのでしょうか。
動揺して思わずルティアさんを振り返る。
だけどルティアさんは平然としていた。
そ、そうですか。私だけが焦っているんですね。
視線を前に戻す。
メーメ様は優しくミルキィ様に微笑まれていて、ミルキィ様は無言ながら恥ずかしそうに俯かれた。
やっぱり頬が赤い。照れておられる。
このお二人、ラブラブなんだなぁ。
そんな感じでイチャイチャしているのを目前に見せつけられながらたどり着いたのは、学院長室だ。
メーメ様はミルキィ様に何か甘い言葉を囁いてミルキィ様を赤面させつつ、ドアをノックも無しに開けた。
当然、中にいた人たちはギョッとしている。
「少し話し合いに。彼はどちらに?」
とメーメ様は、部屋の中にいた先生の一人に聞いた。
なお、犯人である美術の先生はここにはいない。
「あちらだ」
一人の先生が、学院長室の中についている扉の一つを指す。
「では話をさせていただきます」
「・・・あぁ」
先生が頷いている。チラ、とミルキィ様を見たようだ。
「さぁ行こう、ミルキィ。良い事が待っていると良いな」
などと変わらず耳元でささやき続けるメーメ様。
ちょっとミルキィ様が気の毒になってきた。何か言われるたびに恥ずかしそうに俯いている。
メーメ様。大勢の前だからもうちょっと控えてあげた方が良いのではないでしょうか・・・?
メーメ様たちが移動するのを、使用人の人が隣に続くドアを開けた。
話し声が聞こえた。
どうやら、取り調べ中のようだ。
メーメ様たちと、部屋に入る。
***
入室した途端、美術の先生は、ミルキィ様に視線を釘付け状態だった。
食い入るように見つめている。
一方のミルキィ様は、ずっとメーメ様に甘い言葉を囁かれていて俯いたまま。多分、この部屋に誰がどんな状態でいるのかまだ分かってない。
私たちの入室で、取り調べ役だった先生が口を閉じた。
犯人の美術の先生と、ミルキィ様を交互に見ている。
無言。
メーメ・ヤギィ様が、嬉しそうにミルキィ様の顎にそっと手をかけ、そして俯いている顔を上げさせた。
そっとメーメ様を見上げるミルキィ様。
メーメ様はそのまま、ミルキィ様の顔を、犯人の美術の先生の方に向けさせた。
「・・・」
パチパチ、と瞬くミルキィ様。
「あれは誰か覚えはあるか? きみに恋慕しているようだが?」
とメーメ様がミルキィ様に教えるように言った。
ミルキィ様は無言で、顎に掛かっているメーメ様の手をそっと外し、またメーメ様を見つめ返した。
「図書館にいる平民の子が物珍しくて、それに希少種は保護されるべきだ。それで声をかけていたのだが、その子に毎日のように呪いをかけようとしている不届き者がいたようだ。彼が犯人らしいのだが、少し不思議だ。そうだろう。毎日呪いをかけるなんて、美術教師には難しい。そんな資金は出てこない。・・・ところで私には、とても可愛らしい婚約者がいるのだが。美しい絵を描くきみなら、呪いなど買わずとも、いとも簡単に作ってしまえるね?」
甘い言葉を囁く雰囲気のまま、メーメ様はミルキィ様に、それはそれは甘い顔で告げている。
対するミルキィ様は、少し分からない、というような顔をした。
「困った人だ。きみは私の愛情を疑っているのか? ミルキィ」
メーメ様が尋ねる。
ミルキィ様は両手をそっとメーメ様の胸にあて、ふるふる、と可愛らしく首を横に振った。
「なるほど? 私もきみの私への愛情を疑いたくは無い。だが・・・」
メーメ様が困ったように眉を下げる。
ミルキィ様はハッとしたように驚き、メーメ様の頬に手を添えた。
・・・ミルキィ様って、ひょっとして話ができない?
今まで全く、声を出されていない。
と思ったら。
「メーメ様・・・」
ものすごく可愛らしい小さな声がして、それから躊躇ったようにしつつ、ミルキィ様がメーメ様に抱き付いた。
意を決しました! というように。
私は衝撃を受けた。
なんだこの動き。これが女子力。これが貴族ご令嬢。
とにかく私とは違う生き物。すごい・・・!
「本当に私が良いのか?」
と弱々しいメーメ様。
コクコク、と頷かれるミルキィ様。
そして、やはり意を決したように、ミルキィ様は一度ギュッと目を瞑り、背伸びをして、メーメ様の頬にキスを寄せた。
!!
お、ぉおお!
ミルキィ様の様子に驚いたのは、私だけでは無かった。
「ぅ、ああああああ!」
犯人の美術の先生が突然叫びだしたのだ。
あ、そうだった、犯人の先生がいたんだ、ここ。
こちらでは椅子の背に縛られていたらしい美術の先生は、立ち上がろうとして失敗し、それでもガタガタと揺れ、唸り声のような声を上げた。
「うぉお、おおおあああ!」




