46.犯人
翌日。登校すると、教室の前でルティアさんが私を待ち構えていた。
「こちらへ」
教室とは違う方に誘導される。
周囲に少し人がいなくなったところで、ルティアさんは一度止まった。
「キャラ・パール様に呪いをしかけようとしていた犯人を捕まえましたわ!」
「え、本当ですか!?」
「はい」
コクリ、とルティアさんが頷く。
だ、誰。
見つかって、良かったというより、動揺する。なんだか急に怖くなる。
「私どもで捕らえ、今は学院長室に。確保中ですが、自白はまだです」
「だ、誰だったんですか?」
「教師です」
え。
だ、だれ。
「美術を教えている若い男性教師。アレン・オルトパス。キャラ・パール様もこの教師の美術の授業を受けておられます」
ものすごく、ショックを受けた。
え。
私、先生から、呪われるほど嫌われていたんだ。
ふと左手が握られて、見ると、心配そうに私を見つめ、ルティアさんが私の手を握ってくれていた。
「今から学院長室にお連れいたします。今は学院長が呼び出され、犯人の教師に質問などしている頃です」
「はい・・・」
「私、ずっと傍についておりますわ。味方ですわ」
「ありがとうございます」
とお礼を言った途端、急に怖くて涙が出てきた。慌てて空いている手で拭う。
ルティアさんが眉を下げる。
ルティアさんが一度抱きしめてくれて、驚いた。
離れた後のルティアさんをじっと見る。
「泣かないで。怖いですわよね。ちゃんとお守りしますからね。さぁ、参りましょう」
「はい」
また出てしまった涙をまた右手で払う。
左手は、ルティアさんが握ってくれている。
***
学院長室。
遠くで一度しか見たことが無い学院長先生と、他の先生たちが3人いる。
そして、腕と身体を縛られて、床に座らされているのは、確かに美術の先生だ。
私はミルキィ・ホワイト様の事を思い出した。
この先生、ミルキィ・ホワイト様を絵のモデルに連れてきた人だ。ミルキィ・ホワイト様の事を好きなのかなと思う態度だった。
ミルキィ・ホワイト様が関わっている?
それとも、単純に、先生が私が嫌い?
「キャラ・パール嬢が来たぞ。何か言う事は無いのか、アレン・オルトパス」
「・・・ありません」
「現場を押さえられていてなおその態度は感心しないな」
「・・・」
美術の先生は黙ってしまった。
「キャラ・パール嬢。こちらへ」
「は、はい」
学院長に呼ばれて、そちらに向かう。すぐ後ろをルティアさんがついて来てくれた。
さすがに左手はもう繋いでいない。
学院長は、私を労わるような目で見た。
「毎日呪いを仕掛けられていたそうだな」
「はい。途切れた時もありましたが・・・」
「そうか。ネーコ家の方々が現場を押さえて、犯人を捕まえた。他家の使用人も確認しており、間違いはないという状況でな」
「・・・」
「心当たりなどあるかね?」
「・・・ありません」
「そうだろうな。・・・なぁアレン。彼女を呪った理由は? どのような呪いだった」
学院長が話を振ったが、犯人で間違いないらしい美術の先生は黙っている。
私が正面から先生を見つめていると、私に視線を合わせて、馬鹿にしたように挑発するように睨んできた。
ギョッとして、一歩後ずさった。
ギラギラしている目だ。気持ち悪い。
ルティアさんが私の腕をひっぱって自分に引き寄せ、前に出て視線を防いでくれた。
ハ、
と馬鹿にした笑いが聞こえた。美術の先生だ。
辛くなってとっさにルティアさんの手を握った。俯いた。
「お前は心が痛まないのか! 教え子に負担をかけるなど言語道断だ!」
学院長が怒鳴った。
私も驚いた。
見たくないので見ていないが、美術の先生からの答えは聞こえない。
「理由を言うまで監視する! アレン・オルトパス、お前の教師の任を解く! 生徒を呪うなど何事だ!」
「自白剤を提案します」
知らない声がした。先生たちでは無い、部屋に控えている男の人だ。使用人の人? 犯人を捕まえてくれた人たちだろうか。
「そうだな。様子を見てそれもやむを得ない。だがまずは我々が聞き出す努力をしよう。責任者であるのでな」
「承知しました」
肩をポン、と叩かれた。見ると学院長だった。
「不始末を誠に申し訳ない。落ち着いたら、きみは授業に戻りなさい。その方が良い」
「・・・はい」




