35.ランチの約束と会話
「ありがとうございます。嬉しいです。あ、ただ、でも」
「あぁ」
私はきっと真っ赤になっている。それが移ったのか、トラン様も少し赤くなっている気がする。
「あの、明日はポニー様とランチの約束をしました。だから、明後日から・・・」
トラン様のランチは、利き手をけがしておられるから、手づかみ料理。ポニー様も一緒に、とは言えない。
「分かった。その、縛るつもりは無いが、一緒に食べてもらえると嬉しい」
「はい。手で食べるの大丈夫ですから」
「・・・俺の手が治って、普通の料理でも、一緒だと、俺は嬉しいが」
トラン様がじっと私を見つめている。緊張している。
そんな様子に、私の心臓がバクバク言っている。
私は焦ったように頷いた。
「は、い、是非」
と言ってから、また慌てて付け足す。
「よろしくおねがいします」
「あぁ・・・」
トラン様が笑まれた。
「ちなみに、きみは、今日の昼のこの後の予定は?」
「今日は、図書館に行こうと思っています」
「図書館か」
「勉強がちょっと・・・。頑張ります」
「そうか。ランチは40分ほど貰っていても、大丈夫か? 長すぎるか?」
「1時間ぐらい大丈夫です」
「そうか、分かった」
「トラン様はどうされる予定ですか?」
「そうだな。まぁ、バタバタしていたので、人と色々会うことなるだろう。こう見えて会議とかあるんだ。学院の運営でいろんな組織があるからな」
「そうなんですね」
「まぁ予算や実際の動きを確認する程度だ。連絡したり」
「へぇ・・・」
色々されてるんだなぁ。
「・・・すまない、食べよう。好きなものをどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
***
もぐもぐとおいしいサンドウィッチをいただきながら、今日は授業の話などをした。
図書館に行くと言ったので、そういう話題になったみたいだ。
・・・そういえば。
図書館においでよ、と、メーメ・ヤギィ様が言ってくださっていた事を思い出した。
最近お会いしてない。つまり、私が全然図書館に行ってない。
私を何かの名前で勝手に呼んでいて、図鑑で見せてあげるっておっしゃってたし、休んでも勉強を教えてあげる、なんて言ってくださったんだっけ。
あれは・・・そうだ、ミカン様にずぶ濡れにされた時だ。そう言ってくださったんだ。
「どうした?」
トラン様が不思議そうに私を見ていた。
「あ、いえ」
ちょっと。思い出しただけです。
これから図書館に行くから、メーメ・ヤギィ様にもお会いできるかも。
あの時、気にかけてくださったお礼を言わなくちゃ。
「何かあったか? まさか何か嫌がらせにあった? 今日は呪いは大丈夫だったか」
トラン様はルティアさんに視線をやった。ルティアさんはゆるく首を横に振り、私を見た。
「あの、今日もありましたが、ポニー様が処理してくださいました」
「今日もか」
トラン様が顔を険しくする。
「だが毎日なら、捕まえやすいな・・・」
「捕まえられるんですか?」
「つまり毎日きみの椅子に仕掛けに来てるという事だろう」
「ものすごく早く登校して、誰が近づくか見れば良いですか?」
「待ってくれ。自分で行こうとか考えているのか」
「はい」
「本人が行ってどうする。無関係に見える誰かに見張らせた方が良い」
「・・・」
「きみに新しくつけた使用人に見張らせよう。明日解決できれば良いが」
「・・・ありがとうございます」
「いや。毎日、毒を仕込みにくるようなものだぞ。早く捕まえないと」
ため息をついて、トラン様はふと私を眺めた。
なんでしょうか?
「きみ、とても女神の加護が強いとは思えないな」
「加護は私も実感が無いです。でも、これでも守ってもらってるのだと思います。嫌がらせは、平民で学院に通ってるからですし、礼儀もなっていないと思いますし、目につくのだと思います」
「とはいえ。こういう手段で来るとは。まだ本人が直接来る方がマシなのか・・・?」
ちょっと遠い目をするトラン様。ミカン様を思い出されているのだろうか。
首を横に振って、無いな・・・と呟かれている。
「他は何も無かったか? 大丈夫か?」
「・・・」
モモ様に叩かれたなぁ・・・。
「そういえば、お伺いしたくて。モモ・ピンクー様とレオ・ライオン様は、婚約を白紙にされるのですか?」
尋ねると、トラン様が驚いたらしく、ボトッと左手のサンドウィッチを落とされた。
ジェイさんがササッと回収していく。
トラン様は動揺している。
「なぜ、そんな事をきみが」
「・・・モモ・ピンクー様が、休憩時間に来られまして・・・。そういうお話を」
と言うと、トラン様の目が据わった。
「また何かされのか。被害は?」
「あ、今回はポニー様が言い返してくださって・・・大丈夫です。だけど、今回はモモ様が心配だったりします」
少し考えるために逸らせた視線をトラン様に戻すと、困ったような顔をされていた。
「婚約については、何とも俺には言えないな」
トラン様がため息をついた。
「影響が小さくなるように願っている」
ポニー様たちの影響という意味?
ん? ということは、レオ様って、スミレ様に気があるということ?




