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36.図書館にて

トラン様とのランチの時間が過ぎた。


「また明後日に」

「はい。また明後日に。今日もありがとうございました」

「いや。俺もありがとう」


明後日の約束。嬉しい。

顔がゆるみそうになりつつ、図書館へ向かう。ルティアさんもついてきてくれる。


なお、今日からもう一人護衛で男の人を付けてくださっている。だけど、私にも分からないところに配置だそうだ。呪いの犯人を見つけるためにもその方が良いらしい。


***


さて。学院の図書館は、とても広い。建物1つが全部図書館なのだ。

利用者もたくさんいると思うけど、広いので空いているように錯覚してしまう。


さて。真面目に勉強しなきゃ。今日解けなかったのは数学。

私には前世の知識があるけど、この世界って理論が色々違う。足し算引き算はあるけど、掛け算割り算の代わりに、別の公式を使う。なんていうか、数的にはアバウトな考え方になっていく。


例えるなら、1+1=2 で正解。

だけど、『1が10コまとまって箱に入っていた』ら、それは14コぐらいになる。

なぜなら、『まとまってある』ことが価値を持つから。単純な10個以上のものとして見なされるのだ。箱代、それを運ぶ力、まとまっていることからくる効率の良さ、その状態に保つ意識。

1コが床にゴロゴロ10コ転がっていたら、拾い集めないといけないし、入れ物を探さないといけないし、みたいなことが考慮される。


ということで、前世の知識とはまた違う。数学といいながら、純粋に数だけを考えていない。

つまり、私はこの世界のお勉強をコツコツ学ぶ必要があるということだ。前世を思い出したのに残念。


さて、今日は数学のお勉強をしよう。だから数学の本がたくさんあるエリアに行こう。

それからトラン様のお守りも作りたいから、そういう作業がしやすそうな場所を見つけたい。


***


「ケセラン、久しぶり」

コンコン、と机を指で叩かれて、顔を上げる。

「あっ・・・メーメ・ヤギィ様」


メーメ・ヤギィ様だ。薄く笑んでおられる。

私は急いで立ち上がり、礼をした。


「お久しぶりです。それから、私がずぶ濡れになっていた時、声をかけてくださって、お気遣いいただいて、有難うございます。御礼が今になって遅くなってすみません」

「あそこは婚約を取りやめたね。トランが随分気をかけてるようだけど、どう」

メーメ様は私を観察しているご様子だ。


「どう、とは」

「うん?」

メーメ様は少し面白そうな笑みを浮かべた。


「私は、約束を守れなければ気になる性分だ。宣言通り、きみに図鑑を見せなければ気が済まない。やっと会えたんだ、あの日言った通り、勉強を見てあげよう」

「え、勉強まで見ていただくなんて。そんな、勿体ないです」

「私の気が済まないので叶えさせてもらいたい。無責任な約束が嫌いなんだ」

少し自嘲的に笑われる。


そっか・・・。

「分かりました・・・。ありがとうございます」


「数学。苦手分野だが、きみのレベルなら問題なく教えられる。私の得意分野は植物学と鉱石学だ。さて、あの日、きみが受けられなかった授業は何だったかな」

「言語です」

「そうか。では何を教えよう?」

「数学が、今、学びたいです」

「分かった。きみに合わせてあげる。私の使うスペースに来て。ここは少し暗いし、机も狭い」


メーメ様に従い、選んでいた数学の本を持ち、鞄ももって移動した。


***


メーメ様がいつもいる場所。1階の奥、緑の木々が窓の外に見えて、だけど光が差し込んでいる。

建物の中なのに森の中にいる気分。鳥の声がたまに聞こえる。窓が少しだけ開かれている。


机に至る前に、メーメ様は一つの棚に寄られて、分厚く大きな図鑑を手に取られた。

「座って。隣だよ。向かいなんて教えづらい」

「はい」

遠慮して、少し遠くなるけどと席を選んだら、メーメ様の定位置の隣の席を指示された。


メーメ様は図鑑を持った状態で座り、慣れたようにページの後ろの方を開いて、数ページだけ捲った。

そして図鑑を私の方に少し押し、見せた。


タンポポの綿毛みたいなものが書いてある。ただ、真ん中は石なのかな。

「これがケセラン。人が不安になっている時に空から降りてきて心を和ませる」

「これが本当にあるんですか」

「鉱石に分類されているが、実際は植物と鉱石の性質を両方持ち、その上、空に浮かぶ。水には弱いので濡れると真っ黒になって落ちてしまう。きみに似てると思わないか、ケセラン?」

「えっと・・・。水に濡れたら弱るところですか?」

「ふわふわ浮いているところ」


穏やかに笑われたが、結構心を突く事を言われている気がする。

ふわふわ浮いているところ・・・周囲から・・・? わ、悪口?


「会えると幸運があるらしい。珍しいからだ。今日の私は幸運に会えたな」

「そう、ですか・・・。ただ、私は単なるキャラ・パールです」

少し困りつつ、そう笑って言ってみる。

「当たり前だ」


面白そうにメーメ様は私を見た。


結局、メーメ様はしっかりと数学について30分教えてくださった。

この世界の数学は、リンゴ1コに対しても、『他の力がそのリンゴについている』という考え方のようだ、とか色々分かってきた。そこも含めて計算するから、前世の知識があることで私は混乱してしまうみたい。


こんな世界だから、本当に呪いというものもあるのだろうな。


その後、しっかり御礼申し上げて解散。


始めの席に戻って、トラン様のお守り作りに取り掛かった。

たくさんの力がついたお守りになるように、一生懸命作ろう。


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