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50.つよくてニューゲーム

 あァ、久々に泣いてる。

 いつぶりだっけか、泣いたのなんて。


 ああ、そうだ。

 一年のときの、強歩大会で美咲と話したときだ。


 もう二度と、美咲に会えないかもしれないって思ったあの時。涙が……なみだが、ボロボロとこぼれたんだよなぁ。


 情けねー。まだ、ここで終わったわけじゃねーだろ、おい。

 なんで泣いてんだっつうの。

 なあ、おい。


「一条……あいさつ、しないと」

「……あぁ、うん」


 あたたかい顔を左の手のひらでぐちゃぐちゃとこすって、水気を取る。

 右手を机について、立ち上がる。


 別に、来年挑戦するだけなんだけどな。

 いや、違うか? Roseがなにを思うか知らんけどさ。多分、美咲は手篭めにされんだろうよ。このまま戦闘継続じゃね。

 っていうか、おれがあいつと戦って勝ったとしても帰れる保証なんかなくね?


 あれ……。

 いままでやってきたことの意味って、なくね。

 だって、小説の物語じゃねえんだぜ。転生の神様がいるわけじゃないんだぜ。


 全部、あいつの一存じゃん。


 ……ははっ。無理ゲーって、好きじゃねえな。


「一条、ほら」

 

 琴音に連れられ、チームリーダーのRoseと握手を交わす。

 おれの握力が百kg越えなら、お前の手をボキボキに砕いてやりたい。


 なんなら、殺したい。


「対戦、ありがとうございました」


 そこから帰るまでの道は、あんまり覚えてない。

 祝勝会はなくとも、みんなで夕飯を食べようって話は断った。


 そんな気分じゃなかった。


 電車をみんなよりも一本早く乗って、帰路についた。

 自宅最寄りの駅についたところで、琴音からメールが来た。


 ”お前がいなかったら夕飯食べれんし解散したわ。また今度、食べに行くぞ”


 返信は、返さなかった。




 家についてから、母親から大会の結果を聞かれた。

 二位、と伝えた。いつもより落ち込んでいるの見かねたのか、それ以上はなにも言ってこなかった。

 まあ、おれの考えすぎかもしれないけど。前も二位だったしね。


 そうそう、前も二位だった。

 そんなもんだ。


 世界大会も八位で終わったし、日本大会も二連続で二位。

 そんなもんさ。


 だって主人公じゃねえしな、おれ。べつに。




 そんなもんだろ、おれって。




 もう、疲れた。




 こういうときは寝るに限る――――と、思いつつも癖でパソコンをつけてしまった。


 家に帰って自分の部屋に入ったらパソコンをつける。もう体に染み付きすぎてな。

 パソコンの電源がつくと、自動的に起動するよう設定してるボイスチャットには既に琴音と優也がいた。

 このまま、どうせ美咲とエレナも入るんだろうな。


 反省会なんて、どうせ解散するから意味ないけど。

 なんか話をするんだろうな。

 まあ、わりと楽しいもんだ。大会後のおしゃべりってのは。


 おれは、どこかぼんやりとしたぽっかりと心に穴が空いた状態で見ていた。

 自分をラジコンのように扱っている感覚だった。


 ダブルクリックさえしてしまえば、琴音と優也のいる会話へ参加できる。

 あぁ、エレナが入った――――。




 ……いいや。


 寝よう。




 *




 美咲、いないか。

 もう一度、会いたいんだ。


 なあ、美咲……。


「おーい。こんにちは」


 ……なんで、てめえなんだよ。

 

 美咲と出会った世界とは別だ。

 灰色の世界で、黒い影が話しかける。声色は完全にRoseだ。


「いや、こんばんは、かな?」

「死ねよ」

「うーん、なんか勝った気がしない……っていうか、色々と設定に失敗したんですよね」


 なにを言っているんだこいつは。

 殺したい。

 

 あぁ、そうじゃん。

 なんで負けた後に、おれは帰ったんだ。


 こいつを殺せばよかったじゃないか。

 言うことを聞かないなら死ぬ一歩直前にまで持っていけば、帰れたじゃないか。


 いや、今からでも包丁を持ってどうにかこいつの住所を特定すれば簡単な話じゃねえか?


「あのーですね。行きたい世界に行く能力(のうりょく)なので、俺が求める世界になっちゃうんですよね」


 だから?


「だから、都合のいい設定になっちゃうんですよ。俺が望んだ世界なんですから、おれにとって都合のいい結果になるんですよ」


 ……。


「正直、壁抜きとか当たる気しなかったし、あのラウンドは落としたなーって思いましたよ。ロング設置を読まれるとはまったく思ってなかった」

「黙れよ」

「まあ、現実でも起こりうるクラッチではありましたけど、俺の使った能力(のうりょく)のせいじゃね……って感じはあったんですよね」


 もういいって、いいから早く返してくれよ。

 元の世界に、返してくれ……。


「なので、この能力(のうりょく)を譲ってくれた人に世界を代わりに見つけてもらったので、もう一回やりましょうか」


 ……は、は、は? は? は?

 いやだ、やだやだやだやだやだやめてくれ、やだやだ絶対に嫌だ。もう嫌だ! もう嫌だ、もう――――。


「その人いわく、もっと面白そうな世界にしてくれたみたいですよ、楽しみっすね」

「おねがい許して返して、なんでおれが、おれ以外のやつにしてくれ、もう頼む、たのむ頼むから」

「だめでーす」


 目の前が、真っ暗になった。

 

 また、一から?

 おれの、今までは。


 全部、消えるのか?


 おれは、なんのために。

 たたかってきた。

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