49.対戦ありがとうございました
counter-strikeシリーズのde_dust2よりマップを引用。
大会の形式上、やつらTime leapと何戦するのかは分からない。勝ち星が多いのが単純に優勝できるんだ。SpeedStarはもちろん、slowlyとの対戦でも一度も敗北できないだろう。
帰ってきたおれの表情を見て、美咲がなにかを察したようだった。
「なにかあった」
「Time leapのChronosが、おれの因縁の相手だ」
エレナや優也もいるから、正確には伝えられない。
それでも、美咲や琴音は理解できたようだ。
「絶対に、勝つ」
何気なく、言った言葉。
どうやら、その語気は通常のものではなかったらしい。
チームメンバーのみんなの眼に、より強い力が籠もったような気がした。
「行くぞ、お前ら」
目指すは、全勝だ……!
Slowlyはなんとかなる。まだ成長段階の師匠たちだ、そこまで怖いもんじゃない。まあまあの強さではあるがな。
問題のSpeedStarだったが、練習試合で勝率八割超えは伊達じゃない。なんとか勝ってみせた。さっきやったinfernoでは、十六対十一だった。
まあ、分かってはいた。一位決定戦はお前らとの試合だよな、Time leap。
おれも、やつらも二勝だ。三位、四位決定戦は自動的にSpeedStarたちになった。
他のことは考えなくていい。
やつを、Roseを……。Chronosを倒す。
集中だ。
半年前のSpeedStar戦を思い出せ。
日本大会を思い出せ。2012年の、師匠とzippoのいたあのチームを。
……ダメだ、きっと足りない、もっとだ。
あの世界戦を思い出せ。世界八位まで登りつめたときの、あの集中を取り戻せ。
おれならやれる。
おれならできる。
あのときの……ゲーム空間のみならず……会場を支配した感覚を思い出せ。
すべての情報を手に入れろ。味方の呼吸、敵の視線、マウスの動かし方、キーボードをタイプしている指。
世界最強のクラッチプレイヤーだと、自分を鼓舞しろ。
実況席にて、解説の人が箱の中に詰められた四つのボールの内、一つを取り出す。
dust2。
輝かしい栄光を持つ、伝説的な名マップが今回の戦いの舞台だ。
だが、プロシーンではこのdust2ってのはある種、特別な扱いを受けている。
あまりにも難易度が高すぎるマップなんだ、こいつは。
端的に言えば、攻める方法の概念は確立されているのにその実際の方法は確立されていない、ということになる。
なにをすればいいのか明確なのにもかかわらず、その行動のパターン分けが尋常じゃない量なんだ。
センスが同系統の人間だけを集めれば、同じ思考回路で動けるから問題はない。
だが実情としてそんなチームはまずあり得ない。
おれたちゲーマーは、相互に確認を取りながらこのdust2というマップをどう攻略するのかをチームで決めていかなきゃならんのだ。
どう攻めていくか、どう守っていくのかの話し合いを事前に完璧に済ませた上で、その膨大なパターン量を攻略していく。動きのパターン数が少ないマップであれば、人間は誰だって反復学習ができる。その反復学習がものすごくしづらいのが、dust2なんだ。
「レディ……出すぞ、いいか?」
準備が整っているのかどうかを、左右に首を振って確認。
よさそうだな。
五つのパソコンが横に並んでいて、おれはその中心に座る。
対面の離れた席で、対戦相手のTime leapも同じように座っている。中心はリーダーであるRoseだ。
このイベントスペースよりも、高校生大会でよく使う学校の体育館のほうが広いのは、なんか違和感があるな。
まあ、もう三戦目だから、今さらだけど。
BO3か……。
おれの集中力が、どこまで持つだろうか。
全集中状態で全ラウンド乗り切るのは無理だ。その手の特殊技はzippoだのpoppyだの、floraだの、天才に任せた。
小出しに、必要な場面で切り替える。
一応、今は現役とは言っても全集中状態を大量に使うことなんてなかったからな……。
こればっかりは、世界八位の時以来だ。
頼むぞ、衰えてねえだろうな。
*
AT側からスタート。
ファーストラウンドに選択した作戦は、ロングのスロー詰め。
この作戦の弱点は、ロング確保からAサイト侵入までのキツさ。
だが、そこを逆手に取る。
おれは知っている。
自分の才能と、美咲の才能を。
おれたちには常人には理解できない集中力がある。
おれは1on多数を、美咲は1on1を――――。
それら重要な場面で勝たなければならないとき、全集中状態におれたちは陥り、そのシーンをまず間違いなく勝つ。
このロングスロー詰めで、先頭をエレナに託す。
それから順に琴音、優也へ前に。
おれと美咲を後方に持っていくことで、擬似的にクラッチシーンを作り出す。
この戦い方は、2012年のあの時からずっと変わっていない。
それぞれのチームメンバーの特徴を活かすのも、大切な指揮官としての能力だ。
「……いないですね」
ファーストコンタクト……なし。
選択肢は三つ。Aサイト固まり、CAT中心守り、広場中心守り。
この時代の流行はAサイト固まり。その可能性を高く見積もって動く。
「Aサイト固まりの可能性が高え。いつも通りの動きで、そのまま行くぞ」
ここでさらに時間を使って相手を撹乱したり、戻ってセンターを取りに行くのも悪くはない。
が……おれの指揮ではあまりやらない。
理由は単純で、練習するパターンを増やしたくないからだ。
同じ動きを、愚直にやり続ける。
それこそが、チームの連携、練度を上げるのだ。
まあ、作戦バレてたら対策されてめちゃくちゃ不利になるんだがな。
そのための対策として、おれはファーストラウンドの作戦を三種類用意し、なおかつ敵チームによってそれを練習試合で”使い分けなかった”。
すると、どうなると思う? おれたちは練習相手に”こいつら毎回同じ作戦使ってくるな、対策したろ!”と思われるだろ。
それでいい。
ファーストラウンドの作戦なんて、最悪の状況でも突破できるぐらいの気持ちでいったほうがいい。
こんな強引な練習方法を取ってみれば、ほうら……。
おれたちは本番で”最悪の状況、対策を貰らわないで済んだんだ”
「三、二、一ッッ!」
三から数えているが、実際に三秒もかけていない。中身は一秒程度だ。
この掛け声で、デルタからロングへ向かって先頭が大きく横に出る。つまりMagicが。
次にcandyが、Magicよりも少なく出る。最後にcloverが壁ギリギリで出る。
三人が横並びで出ると、味方同士で射線がかぶらないで済む。
もちろんデメリットがあるが、この状況は掛け声を出した一瞬だけの行為だから、継続するわけじゃない。
それからおれたちはロングの左壁に沿って、T字へ向かってゆっくりと近づいていく。
おれとfloraは、ロングの角でずっと待機している。おれはT字へ向かってSGを投げる準備をして、floraは後ろを向いてFB対策だ。
全員が前方を向いていると、不意に投げられたFBで視力と聴覚を無力化され、二、三人は持っていかれる。
すべてを予測しろ。
不測の事態を起こすな。
自分ならなにをする。相手ならなにをする。
読み合いに打ち勝て。
心理戦を、誰よりも勝ち取れ。
「Aサイッ!」
Aサイトにいた敵にロングのおれたちは発見された。
エレナの快活な声が高らかに上がる。
「三番目T字警戒しろッ! flora、FBが最低でも二個来てから前向け!」
指示を素早く。
自分の想像を、すべて伝える。
Aサイトに敵がいるからといって、画面上部へ照準を持っていくと、今度はT字にいる下部にやられる。
このマウスの移動距離が致命傷となる。だから、三番目にいるcloverへT字を見させて、先頭と二番目にはAサイトへ注意を向けさせる。
おれもT字を警戒しながら、やってくるであろうFBを避ける準備を心内でしておく。
このゲームは800$スタート。防具は650$で、FBは200$。
つまり、防具を買えばグレネード類は一切買えなくなるということ。Not Aloneのファーストラウンドは、撃ち合いを強化しようとする役割とグレネードでサポートする役割に分かれていることになる。
FBは仮に最初から回避行動を取っていたとしても、その200$という値段から二つ買うことが多い。
一つ避けたら、人間は油断するだろ。
だから、二つ来てからじゃないとfloraへ前を向けさせない。
もっと、早く喋って情報を伝えなければ。
もっと、もっと頭を回転させろ。読み切れ、すべてを。
「白い!」
FBは回避不可能な場所で炸裂した。
グレネードは投擲物であるがゆえに、投げる場所がものすごく重要になってくる。
壁から出てきて一瞬で炸裂するのか、壁から離れて爆発するのか。
前者はいわゆる『不可避FB』と呼ばれる技術で、後者は技術のない者がやる普通のグレネードだ。
投擲距離は照準の高さ(投げ込む高さ)と、走っているかどうかで決まる。
もちろん、動かずに立っていれば距離は一定。
だからこそ、この時代では『特定のポジションに立って特定の箇所へ照準を合わせる』タイプの不可避FBをメイン。
不可避を投げるのが簡単だからね。
これから先の未来、どんなポジションに立っていても後ろに下がりながら投げたり、前に走って投げることで自由自在に不可避FBを投げてくるようになる。
技術の進歩だ。
「また白い!」
二個目のFBが飛んできた。
予定通り……!
「flora!」
おれたち四人はFBを食らって画面が真っ白だったが、最後尾の美咲がカバーに入る。
T字から現れてきた敵に、先頭のMagicがやられる。
一人対一人のトレードになった。
おれがT字へ向かってSGを投げて、DFベースや広場、ショートから撃たれないようにすると、Aサイトへおれたちはなだれ込む。
そのまま人数差で勝ち、形としては3on1になった。
おれ、flora、cloverの三人と、Chronosの一人。
とりあえずファーストラウンドは取った……。
と、思っていた。
おれは、Chronosへの評価を間違っていた。
いや、間違ってはいなかったのかもしれない。ただ、自分と美咲に対して驕りがあったんだ。
ショートでCATから来るかどうか見ていたcloverが即死した。
本来この位置は、敵が来たら戦わずに降りてDFベースかブラスト辺りにまで移動する。
3on1で使うにはうってつけの、情報収集をメインにした安全な位置取り。
やつの”決め打ち”だ。移動しながら、敵がいると予測して銃を撃つテクニック。
動く→見る→判断→撃つ を 動く→撃つにまで短縮している。
弾を外せば単純に銃声を立てただけの馬鹿になってしまうが……今回の状況ではそれは問題ない。
どうせ1on3を戦わなくちゃならないんだ。
自分の位置がバレてしまっても敵がポジション取りを変える時間がない位置なら大丈夫なんだ。
例えばこれが広場だったり、Aトンで銃声を立てると、それに対する対策をAT側がポジションを変えてできる。
だが位置はCAT階段、あの銃声を聞いてポジションを変える時間はない。
つまりChronosは、ここまで完全に把握した状態で決め打ちというテクニックを使用したんだ。
まあ、このぐらいは別にいい。
というか、この程度ができない男とは思っていない。
こんなもん2010年ぐらいには初心者でもやっている(成功するかどうかは別として)。
だが……。そこからおれと美咲を相手に取り返すとは思っていなかった。
一応、coverが死んだ瞬間に超集中状態に入ったんだけどな……。
認めよう。こいつは、おれや美咲と同類の人間だ……!
ファーストラウンドを取得した瞬間に、Time leapのやつらが雄叫びにも近い歓声をあげる。
「ごめんなさい、1on1負けちゃった」
「いや、僕が先に死んじゃったのが……」
美咲と優也が謝るのを、琴音やエレナが静止する。
「気にしなくていいですよ、まぐれまぐれ!」
「aqua、二ラウンド目は?」
……やつを最後に残さなきゃいいんだろ。
これから、B側をメインに攻め立てる。あいつがAサイト側にいなかったってことは、広場かBに滞在していると予想を立てる。
なら、序盤からBを攻めてあいつが先に死ぬようにするだけだ。
一瞬で指揮構想を組み立て直す。
こちとら、アジア最強なんだよ。
得意のAT側で、嘘だろ。八ラウンド対七ラウンドか……。
途中からChronosが自由に初期ポジションをAにもBにも変えやがった! しかもそれだけじゃ飽き足らず情報取りを絶対にせずに他のやつに任せるから、先制1killが取れねえ……!
おれたちはDF側に交代してから、ファーストまたも落とした。
やつの、Chronosのクラッチだ。
雰囲気は向こうのほうが盛り上がっている。
こういうときこそ、指揮官のおれが盛り上げなくちゃならんのだが……。
エレナが担ってくれた。
「よしっ、こっからが本番ですねー」
琴音が、それに合わせる。
「もう本番だぞ……」
「この均衡した感じ、一気に流れを取りましょうっ!」
そうだな、悲観的に見ているのはおれだけかもしれん。
まだラウンド数で見れば同数なんだ。
全然、恐れることはない。
「floraのL96を移動させまくる感じで、相手の作戦を潰そうか」
いつものコンセプトはA側を切り捨てて、センターと広場に比重を置いた形で守っている。
そこからAサイトをわざと取らせ、カウンターで取り返すという形だ。
同じようなパターンになりがちで、おれたちの練習法には向いている。
けれど、今回は少し変えよう。
そんなとき、美咲から鋭い指摘が入った。
「……aqua。普段とは、違うことをしている気がする」
あ、ああ。そうか、そうだな。
普段の練習と違うことをやっている……のか? 動き自体はそうでもないが、それに至るまでの思考回路が異なっている、か。
「やめたほうがいいか」
「うん、その方が」
美咲の勘は当たる。
従おう。
そうだな、いつもやっていることをやろう。
即興で動くタイプは、まだ早い。みんなの技量を、きちんと分かっているはずなのに、自分勝手だった。
なんでこうも同じような失敗ばっかするんだろう、おれは。
「分かった、リセットする」
おれは深呼吸を何度も繰り返し、頭を冷やす。
その間にゲームははじまっていて、指示を出すのが遅れたためみんな困っていた。
「広場に固まろう。今後の布石として、広場は取りづらいと思わせておく」
指揮官がメンタルをやられるなんて、あってはいけないことだ。けれど、チームに補佐してもらわない指揮官は聞いたことがない。
前の世界でも、この世界でも、美咲は変わらないな。
十一ラウンド対十三ラウンドの均衡した戦い。
Time leapはCAT攻めやロング攻めなどの一つのエリアで攻め込むことが多かった。その前に、本命がどちらなのかを分からなくさせるための陽動行動がある。
おれは翻弄されるのを避けるため、最初からAサイドを譲り渡してわざとA設置させることにしていた。
思考はうまくいっていて、十一ラウンドと負けつつも流れは悪くなかった。微細な修正を試合中に行い、Time leapに対する行動の癖も掴んでいた。
やつらは一つのエリアで攻め込むことが多い……それはフェイクの要素が薄めということ。もちろん、おれはそれがRoseの狙いであるかもしれないのを考慮している、油断はしていない――――はずだ。
戦っている感じ、最先端の概念を持った指揮ではない。昔ながらというか、この2008年ぐらいの強い戦法って感じだ。
それはそれで効率が良いだろう。その時代の人とやるんだ、その時代の動きがメンバーたちにも合っているだろうから。
しかし、不確かな嫌悪感がある。騙されているような、そんな感じが……。
Roseのことを、おれはほとんど知らない。
今思えば、おれはこの世界でまったく前知識のない強敵と戦うのははじめてかもしれない。
高校生大会だって、彼らの研究をした。よっぽど大きな差があるだろうと思わなければ、気の緩みは許さなかった。
対策ばかりで自力を上げていなかったわけじゃないが……全体像の見えない敵と指揮で戦うのは久しぶりだった。
「……センター側、アクションが多い」
「だいたい人数分かるか?」
「三人以上」
floraが銃声や足音、雰囲気で人数を三人以上と仮定。
おれたちは坂下まで確保していて、その本人であるMagicからはなんの報告もない。報告がないという報告は、つまり敵の気配が一切ないということ。
そこまで把握し、おれの中では二択の選択肢が浮かび上がる。
広場割りからのB挟み、もしくはCATの単体攻め。
警戒すべきは、やはりSDFB。
これはいわゆる不可避FBでCATに対して無類の強さを発揮する。
さらに極めつけは、センター側が食らわないようにCAT階段辺りの角で炸裂すること。
自分たちはギリギリまで進みながら、相手には一方的にFBを食らわせる。
一つひとつのマップにはそれぞれの歴史が存在している。優秀な指揮官や、その時代のトップを担うチームが新戦術を創生したり、革新的なグレネードを発見することでそれらは積み重ねられていく。dust2中期に開発されたSDFBの発見は、その一つだ。
もともと、CATってのは手榴弾をセンターからぶち込まれるだけでHPがガリガリ削られるし、SDFBも加わってdust2はCAT守りが恐ろしく難易度の高いマップだ。だからこそ、おれたちはSDFBの対策としてCAT箱裏にcandyを配置している。
やがて、さらにメタが進んでいくとAT側がグレネードを投げなくてもCATが取れるようになっていく。最初からCATを守らなくなるからね。まっ、さらにDF側がグレが飛んでこないことすらも読んでカウンターしたりもあるんだが……。
ちなみに、SDFBはまだ2008年には存在しないし、おれたちも今までにも使ったことはない。半年前のSpeedStar戦で使おうかどうかかなり悩んだが、存在しない未来の技術を下手に乱用すると、史実が変わりそうで嫌だった。SpeedStarと、当時はまだカツカレーって名前だったけか。この二チームの試合を海外勢の誰かが見ていないとも限らない。
だが、相手はRoseだ。
この大会当日よりもずっと前から、SDFBの存在とその対策方法はみんなに伝えていた。
SpeedStar戦ではじめて使うつもりだったわけだが、まさかこんな形で教えたのが役に立つとはね。
「そのまま現在の配置を維持。Magic、音が聞こえなくてもその音が聞こえないって報告をし続けろ。違和感を覚えたらそれを言うだけでもいい」
「はい!」
「flora! 十中八九、B挟みかCAT攻めのどっちかだ。FB飛んできてヤバいと感じたらBサイトまで引いていい。その後、Bの二人が逆にBトン詰めることも考えといてくれ。そのままB挟みされたらきついから、センターに三人以上確定している段階で、先にBトンを潰せ」
この喋りだけで六秒。
めちゃくちゃ早口だが、十二分に伝わる。
さあ、どう出る。Rose?
「CATFB!」
言い換えて、SDFBだろうな。
Aサイトにいるおれが、candyの上方へ返しのFBを投げる。
カウンター成功か、時間稼ぎになるだろ。
一度このままT字にでも降りてロングをケアできるようにしておくか。
「……ッ。広場、多い。白くて人数が分からない」
floraからの止めどない発言に、危険な状況だと誰もが判断しただろう。
普段の口数が少ないのが、よりそれを強調させる。
「上にカバーFB入れる!」
cloverが広場割りに来るであろう敵に対して、ラッシュ止めのFBを入れた。
B挟みか、もしくはそう思わせながらのCAT攻めかBトン上攻めか。
どっちか分からんが、おれは滞在だな。
「カバー入るわ」とcandyが降りてDFベースへ。
ん、そうなるならおれがCATのチェック。
なんか、みんな広場割り確定だと思ってないか?
「広場割り確定してんの?」
「いや、してないけど。SGあってよく分からん」
「……出てない。見えない」
おれの問いはcandyからfloraへ。
この間、八秒。
本命はCATだった。
「CAT、本命。人数三人以上」
おれもcandyのように即座にDFベースにまで降りて、待機する。
まずいな、ロングに一人だけMagicが孤立してる。
「Magic、報告を逐一しろって」
「アクションないです。CAT攻めの人数が五人じゃないなら、センターに残って意表ついてそうな奴いるかもです」
lukerか。
まあ、とりあえずセンターを取り返す。
「ショートまで入ってる、センター取り返すぞ」
おれの指示が通り、Bにいたcloverもこちらへ。ダブルドアに合計で四人集まったことになった。
「三、二、一ッ!」
おれの掛け声でFBをセンターの上部へ。
CATに残っていた敵と抗争、削り合いが起きる。
「Aトン……ッ! 一人ですっ!」
Magicが死んだ。
ロングに一人確定、そのままT字か?
”爆弾が設置されました”
……いや待てよ、考えろ。最速で考えろ。
――――ロング設置か!
「おい、ロングに行くぞ。先頭はそのままレール進んでCATでいい!」
CATレールの一番前を歩いていたcandyを置いて、おれとflora、cloverでロングへ向かう。
CATから入ったなら、CAT設置をするのが基本。ロングから入ったのなら、ロング設置をするのが基本。
なぜなら、勝ち確設置が存在するから。CAT側から入ったのなら、Aサイトの箱手前に設置すればいいし、ロング側ならAサイトの右下だ。
裏をかいてきたな、Rose。
「一回止まれ。はいデルタ取りの動き。レディ! 三、二、一ッ!」
Aトンで焦らずに、連携して攻め込む。
予想通りロング設置だな。
FBを食らっている敵がロング角に一人。坂下は食らってないが、三人で攻めればなんとかなる。
candyは自分が一人なのを理解しているから、セーフティに動いている。本当に、お前の客観視できる能力、大好きだぜ。
「aqua、どのぐらいで行けばいいかそっちが合図くれ!」
ああ、もう。最高の報告だぞそれ!
デルタを完全に抑えたおれたちがロングへ向かい、まもなくT字へ差し掛かるところでcandyの短い叫びが聞こえた。
「あっっ……! CATにワン!」
逆にCATに攻めてくる……?
右上に表示されているキルログには[Chronos→candy]と書かれていた。
……そりゃそうか。どうりでロングが取りやすいわけだ。
「しゃーない、気にすんな」
と、言った瞬間だ。背筋が凍りついた。
そんなに頭の回転が早くねえおれでも分かる。
なぜ、一番強いやつが一番重要なポジションであろうロングにいない?
あの野郎……! ――――クラッチシーンを意図的に作りやがった!
いや、馬鹿か! ロング設置でCATからの1on3なんか勝てるわけねえだろうが!
「誰かスモーク持ってないか! あればそのまま隠れて解除しろ!」
「ないよ!」
「私もない」
クソッ! ロング設置は例外的にギリギリCATからでも視認できる……!
誰かに解除させながら戦うことはできねえ……!
全員で一度CATへ向かうか? 無理だっ、そんな時間ねえ! あと猶予は八秒から九秒!
形を考えろ、floraに最終的な1on1をしてもらうとしたらcloverが先頭で次におれだ!
「clover先行! おれが……!」
なにも言わずとも、cloverが我先にショートへ。floraも無言で解除音を立てる。
俊敏な判断速度だ。少数戦の重要性を伝えてきたかいがあった。
お前ら本当に最高の味方だ。
CATから小ジャンプでヘッドショットのラインをずらしたRoseが現れ、cloverを一撃で殺す。
やつの動きにより、本来は頭に当たるはずだったおれの弾丸は首へ……Roseはそのまま一度引いた。
そのまま戦うか? 1on1で? 冷静になれ、最善を取れ。
floraの反応速度を活かせ……!
おれは急いでAサイトにまで向かう。
「flora解除やめて2on1!」
「うん!」
集中しろ、覚醒しろ。
見えたら撃つ、見えたら撃つ、見えたら撃つ。見えたら撃つ、見えたら撃つ、見えたら撃つ。
ババババッ、と連射音が聞こえた。
それからだった、自分が死んでいるのに気がついたのは。
やられた……!
Roseの野郎、壁抜きでやりやがった……!
壁抜きだとッ……! この状況でか!? 外したら終わりだろうがッ……!
それから二秒ほどして、cloverのときと同じく小ジャンプで壁から出てきた。
floraが反応できないわけない。相手の決め打ちにすら、むしろ先に手を出せるような人だ。
でも、小ジャンプは話が違う。
頭へ飛ぶはずだった銃弾を首にまでずらされ、floraまでもやられた……。
終わった……!
終わった。
終わったッ…………!
こっからおれらのバイラウンドは終わり、エコラウンドに入る。
ダメだ、エコで勝てる気がしねえ!
「……ごめんなさい」
「いや、おれも抜かれることを想定してなかった」
「どんどんどんまいですよ。aquaさん、エコどうします? 広場アクション多めだし、むしろカウンターできませんかね?」
……。
エレナの言葉も虚しく、おれたちはラウンドを落とし続けた。
メンタルが崩れたとか、そんなんじゃない。
妥当に、普通に、当然のごとく負けた。マネーシステムはそれだけ重い。
おれらの努力は、消えた。
水の泡と化した。
あぁ、マジか。
またこれか。




