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21.新人戦予選 参

counter-strikeシリーズのde_dust2よりマップを引用。

 ファーストラウンドを取ったAT側、二ラウンド目はどう動くのかが注目のポイント。


 おれならATベース左側からBトンの逆ラッシュを警戒させる。高低差もあるしこのポイントなら死なない。ロングも詰めないで、Aトン前に一人おいて待機させる。こういうふうに、セーフティな立ち上がりをしたいところだが……。


「一条、これってまたBラッシュってやつじゃないの?」

「うん」

「武器差があるからありなのか? 人数差でゴリ押しできるとか?」

「ラウンドを取るってだけなら強い動きだけど、損失を考慮すると、おれはあまりやらないかな」


 実際、AT側は結局三人も死んでしまった。死ぬなら二人までがいい。手に入るお金が3250$で、ヘルメットつき防具と武器を買うと考えると3500$の出費。もちろん他の二人は3250$の貯蓄ができるとはいえ、細かい計算をしていくと、死んでいいのは二人までが理想なんだ。


 もし仮に、Bトンにスモークを炊かれたり、出先にタイミングよくFBでも投げられたら武器差があってもかなり削られる。最悪、ラウンドが取れないかもしれない。


 挿絵(By みてみん)


 これが、2006年か。いや、時代は関係ないのかな。彼らがまだ中級者程度だから、理屈で説明できない動きをしてしまうんだろう。


「損失か。じゃあ交代前の最終ラウンド、十ラウンド対四ラウンドみたいな状態ならやるのか」

「Bラッシュは実力勝負を放棄してるから好きじゃない。けど、やるときもある。それは、いままでAにばかり攻めていたとかで前提を作ってからの話。それがないなら、最終ラウンドでもBラッシュはやらないかな」


 二十試合に一回もやらなさそうだ。おれの感覚だと。


 その後、AT側はロング三人とCAT二人の最速ラッシュを決めて、三ラウンド目も取った。


「展開が早いな。こういうもんなの?」

「チームによるよ。昔、2005年に世界大会で優勝したチームがこういうスピーディな戦い方をしてたけど、この人たちはそれを意識してる――わけねえけど」


 突っ込みどころは指揮関係だけじゃない、細かい操作面だったり、集団でいるはずなのに一人だけ先走って前に出ているシーンもある。

 どうも、チームコミュニケーションというものが欠けている。


 そういえば、上位層と呼ばれる人たちとばかり関わっていたのもあってか、あまり中級者クラスの人たちのプレイを見ていないな。

 中級者と超上級者の差は、すさまじく大きいな。理屈上は簡単なはずなのにできない。

 『やればいいじゃん』と思ってしまうのは、他人の痛みが理解できない人の考え方だ。

 昔のおれが、そうだった。


「ここからが勝負になるのかな、四ラウンド目からが」


 彼女の問いに、うなずく。


「お互いに装備のととのうラウンドだからな。このラウンドを取れないと、DF側は相当つらい。もし取れなきゃ、ここからまたエコラウンドをはさんで、合計で五ラウンド取られる計算になる」


 だからこそ、負けた側も勝った側も、慎重に戦い方を見定める。

 DF側なら相手がどうやって攻めてくるのか、AT側なら相手がどうやって守っているのか。その情報をあつめて、相手の動きに対して対応しながら、自分たちの動きを決める。

 これが、現代FPSの考え方、通称”スタンダード”だ。


「まあ、そうだよな」

「なにが?」


 おれのつぶやきに、琴音は疑問を抱いたようだ。


「別に、気にしなくていい」


 だが、この時代はまだスタンダードが浸透していない。この時代は、強い作戦をたくさん作って、たくさん使うっていうスタイルだ。

 現代FPSとはかけ離れた、一昔前の戦術。それが弱いってわけじゃないが、淘汰されるなりの理由はある。


 四ラウンド目にAT側が取った動きは、またもBラッシュだった。彼ら五人がBトンへ向かって全力で走っている。


 dust2におけるBラッシュってのは、負けているときに流れを変えたいとか、陽動作戦という言葉で琴音に伝えた、おれと師匠の呼び方で言うなら、”前提を作ってからの奇策”でやる動きだ。

 

「またBラッシュだ。これで三回目」


 まあ、人それぞれ指揮のやり方があるからな。チームで話し合って決めたんだろう。肯定はしないけど、理解はするよ。

 うん。ひとつ解説するならここかな。


「琴音、この人たちはいま足音たててるでしょ」

「あ、うん。鳴ってるね」

「これは銃声でかき消せるから、五人でラッシュするときは、後続の一人がわざと意味もなく銃を撃って、銃声で足音を消すのが強いテクニックだったりする」

「へー、おもしろい。現実の戦争とは全然違うところだ」


 うーん。レベルが低すぎておもしろくねえな、見てても。

 琴音が楽しそうだから、別にいいんだけどさ。

 

 挿絵(By みてみん)


 それから、次の両者とものバイラウンドの試合の展開は、AT側がAばさみを狙うというものだった。DF側はロングに二人、CATに一人おいて守っている。

 普通に攻めて、普通に守る。奇抜さを消し去った、実力勝負をお互いにするラウンドだった。


「一条の感想は?」

「つまらん」


 一般人というか、指揮官をやったことのない人からすると、こういうのを実力勝負と呼ぶんだろうなと勝手に思っている。


 AT側は序盤にロングに二人、センターに二人、Bトンに一人をおいた。これはセオリー通りの常識的な配置だ。


「どうして?」

「見てて、布石を打ってないのが丸わかり。互いのチームの指揮官が、なにも考えてないのが見て取れる。こんなの、おれからすれば運ゲーだ」


 例えば、おれがAT側ならロングに最初から三人で攻めさせる。センターを一人見させて、Bトンにも入らないで、アラスカからBトンが逆詰めしてこないのかをチェックする。

 武器を持ったラウンド、通称バイラウンドで三回ほどおこなって、次は一気にCATやダブルドアを攻める。なぜなら、相手はロングを警戒しているはずだから。

 おれのやっていたころの上位勢なら、逆にDF側はそのロング攻めは布石であることを読んで、CATやダブルドアを固めたりもする。


 この試合には、そういう読み合いってのが感じられない。


 みんながみんな、基本に忠実に動いているか、もしくは自分たちのやりたい作戦をぶちこんでいく感じ。


「運ゲーなの。ラッシュとかしてるわけじゃないし、ゆっくりとじっくりと戦ってない?」


 そういう意味じゃないんだけど、どうも説明がむずかしいな。


「なんていうか、お互いに撃ち合いとチーム連携力をメインで戦ってる感じがする」

「うん? それがFPSってもんなんじゃないの」


 そうなんだけど、なんというかな。

 おれが曖昧な表情をしていたのを見たのか、琴音は考え込んだ。


「ゲームの技術だけじゃない、別の視点からチームを勝利に導く。まえに、一条が言ってたやつか」

「琴ちゃんえらい。よくわかった」

「それやめろ」


 ま、高校生にそんな指揮を求める気はないんだけどさ。

 ただ、見てて楽しくねえなって思うよね。

 解説する気にもならねーや。こんなの、”ただゲームしてるだけ”だから。

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