同伴(5)=不愉快な遭遇
そして翌日、いよいよ山に登る手前の道のところまで来た。
その道中、同じ目的地を目指す奴らが、色々と上位冒険者を動かして、急かして、同じ道を進むのも横目に見ていた。
今も一チーム走って行った。
「盾師、俺たちは急がなくていいのか」
それを見ながら、おれが急ぐ様子を見せないからか、不安げな声で言いだすアンジュー。
ゆっくりと言い聞かせる口調で、おれは急がない理由を告げる。
「目的忘れんじゃねえ。そこに昇って降りて来て、さらにアシュレまでちゃんと帰って完了するんだ。山登りで無駄に疲れて、その後の道中で魔物に遭遇しても戦闘不可能なんて、笑い話にもなりゃしない」
「でも、だからと言って急がない理由にはならないだろう。順位も成績に加味されるんだ」
他にまた別のチームが、息を切らせて走っていくのを見送っている。
上位冒険者は、楽しげに見ている。あいつは生徒の後ろを、軽々追いかけていた。
あいつにとってはちょっとした小走り、程度の速度だろう。
それが生徒にとっての最大速度だと知っても、声をかけたりなんか、しないはずだ。
おれと同じように、ミッションの上書きが行われていたら、きっと速度に対して忠告位はするものだ。
疲れって言うのは、時と場合によって命とりにしかならないんだから。
「順位が成績、いいじゃないか」
少し怖がるような声で言ったファエロに、笑う。
「余力も残さないでアシュレまで戻ったって、いい成績にはならないぜ」
「なんで?」
「街に到着したから、絶対に安全なんて言えないから」
「街は安全じゃないの、魔物だって出ないのに」
「疲れ果てて抵抗する気力のない、素材持った冒険者なんて、ごろつきのいいカモだぜ。アシュレは治安のいい街だけど、そう言ったやつらや、他の街から流れてきた性根の悪い冒険者を、完全に排除したりしないからな」
事実、アリーズたちもそう言った場面に遭遇し、おれを生贄にして逃げた。
おれはどんなに疲れていても、どんなに傷が痛くても、抵抗するしかなかった。だから手加減なしに反撃した事も、数知れない。
何人か、もしかしたら殺した事になるかもしれない。手加減なしに、巨大と言えるデュエルシールドを叩き込めば、死ぬこともあるはずだ。当たり所の問題で。
「……勇者の同伴者って、結構命とりの役割なんだね」
「だからこんな事で、試されるんだろ? 上位冒険者を使いこなせないで自滅。自分の力を判断できなくて自滅。……迷宮中層部どころか、場合によっては下層部まで行くしかない勇者についていく奴を学園から選ぶなら、自滅しない奴を選ばないと、意味なく死ぬからな」
「盾師は怖いくらいに慣れてるな」
「そういう生き方で十数年だからな」
そこで笑った時だ。背後から大きな獣の足音が聞こえてきたと思ったら、三匹の騎乗魔物が走ってきた。
三匹はぶつからない一定の距離を保ちつつ、しかし不必要に遠ざからないように制御する魔道具が首輪にされている。
何だあの金持ち、と思った矢先、先頭の一匹が止まった。
そしてそこにいた、銀髪で鏝で巻いたようなすごい髪の毛の女の子が、勝ち誇った顔でこちらを見た。
「おーほほほほっ! 無様ですわね、アンジュー! 翼あるものだったら、同じく翼あるものの冒険者を同伴させて、空を駆け抜ければよろしかったでしょうに! 地面をのろのろと歩いて、あなたの失格は確定ですわね!」
すげえ声だな。よく響く。誰だこいつ。
……というか、校庭で睨んできた視線の持ち主なんだが。
アンジューに敵愾心でも持ってんのか。
訳が分からないから、おれは知らんぷりをした。
アンジューの交友関係とかに、口出しなんてする意味がない。
「本当にそうですね、きちんと準備すれば、初動が遅れても取り戻せるというのに」
女の子の仲間の、切りそろえた髪の毛が特徴的な少女が言う。
魔物と遭遇して初動が遅れたら、死ぬんだけど。
わかってんのかな……?
きっとわかっていないに違いない。身なりも上質だし、持ち物もいい物ばっかりだ。
「ふふっ、みじめみじめ。誰も相手にしないから、そんな役立たずっぽい数合わせを同伴者にするなんて」
最後尾の、生意気そうな顔立ちの女の子が言う。
之には反論しなければならない。
これは相当な侮辱だからだ。
「そっちの最後の女の子、悪いがあとであんたはギルドに報告しなければならない。名前を名乗りな」
「なんでよー?」
「おれを一目見ただけで役立たずと言うのはあんたの曇った眼の勝手だ。でも今言った発言は見逃せないし聞き逃せない」
「えっ? 何々、脅迫―?」
面白がる女の子。アンジュー達は見守っていたおれが前に出た事で、戸惑っているらしい。
「この校外学習に同伴する冒険者は、単剣そして複数の半人前の生徒を確実に守れることが条件になっている。そしてこのミッションはギルドからの強制ミッションだ。……これで意味が分からない?」
「回りくどい言い方、頭わるそう」
「んじゃ短く簡単に。……あんたの発言は、学園が信頼し依頼をしたギルドおよびギルドの構成員全てを侮辱している。おれ一人じゃなくて、おれの実力を認めているギルドも、おれと同列の冒険者も、それらの上に立つギルドマスターもだ。アンジュー、こいつらはどうしようもないから放って進むぞ」
「あ、ああ」
おれの方に歩いてきた三人に、小さい声で言う。
「何を言われても絶対に振り返るな。耳を貸す価値もない」
「あ、うん」
歩き出したおれたちに、三人はなんやかんやと言っていたが、騎乗魔物でおれたちを追い抜きざまに、腹が立ったのか何かを投げつけてきた。
取りあえず盾を連結し、展開して防いで置いた。ただの泥玉に近い物だったようだ。
「ああいうのが、救いようがないっていうんだ、覚えておけよ」
そして、最後の女の子の後ろに乗っていた、同伴者を思って笑ってしまう。
「いやあ、あの女の子たち、自分の発言が同伴者に全部聞かれてるの、分かってんのかね」
「さあ……?」
それはおれにも、三人にもわからない事である。




