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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師は、隠者と添い始めるのか
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他方(3)=致命的なその一瞬までのバカ騒ぎ

「ふん、今に見ていればいいのよ、アンジューに負けてたまるものですか! 前の勇者様は大変に格好良いお方だったのですから、次の勇者様だって格好いいはず。以前は父上にお許しをもらえなかったから、言葉を交わす事もできなかったけれど。今度は仲間になるのですわ!」


「アステリア様、あまり興奮すると獣もそれを感じます、落ち着いてください」


銀の巻き毛の少女に、切りそろえた髪の毛の少女が言う。頷くアステリア。


「わかっていますわ、シャルロッテ様。だからこうしているのではありませんか」


「それにしても、スザンヌ様、あなたは他人を誤解させる発言が多いのですから、気を付ける様にとこの前も、教師の皆さまから怒られたばかりではありませんか」


シャルロッテは、背後の少女にも苦言を呈する。この面子のなかでは、良識的な立場らしい。


「別にぃ。あんな見た目もひょろいよわっちそうな、肩書詐欺みたいなやつに事実を教えてあげただけよぉ」


「それでもです。あの盾師が事実、ギルドにあなたの事を報告した場合、さすがに父君も庇えないかもしれませんし、誤魔化せないかもしれないのですよ」


「大丈夫だってぇ。私現実しか言ってないじゃん」


「まあ二人とも、何よりわたくしたちが先に課題を達成してからですわ。課題達成もならないまま、時間を過ぎれば大問題」


にらみ合いが始まりそうな、シャルロッテとスザンヌの間に声を割り込ませるの、アステリア。

騎乗魔物に乗りながらの会話である。三匹のそれに追い越されていく、駆け足の生徒たち。

彼ら彼女らは、呆気に取られてその騎乗魔物を見ている。

騎乗魔物は段違いに高価なペットであり、その理由として躾けに非常に手間がかかる言う事があげられる。

ただの獣より賢い分、なかなか乗り手のいう事を聞くように慣れさせられないのだ。

しかし、生まれた時もしくは、まだまだ幼い時に捕まえて来て訓練すれば、成体を馴らすよりはずっとたやすい。

しかし幼体は餌代も馬鹿にならない事が多いため、どっちがよいとは言い切れないのが現状だ。

そんな騎乗魔物を三体も使っている時点で、アステリアたちの財力が馬鹿にならない事実を示している。


「魔法使いさんもそう思うでしょぉ」


「……聞いていなかったな」


スザンヌの背後に座り、ずっと沈黙を保っていた男が、淡々と言う。

ほら、あの盾師が大げさなのだ、と三人が思うに十分な態度だった。

もしもギルドに伝えなけらばならない位に、問題のある発言ならば、護衛が止めるはずだと思っているのだ。

もともと奇妙な男ではあるのだが、なんとなく只人ではない雰囲気を漂わせており、何より他の冒険者たちが一目置いていたため、アステリアが同伴者として選んだ、魔法使いだ。

なるほど魔法の冴えは並々な物ではないし、これぞ上位冒険者と納得がいくものがある。

一度だけ、実力を見せてほしいと言った時に、見せられた火柱がその証明だった。

そしていよいよ、山に入る。

山道は険しいが、跳躍力の高い騎乗魔物を選んできたため、斜面も足場の悪い岩場も問題ない。

何より、自分たちの力だけで這うように移動している、生徒たちを追い抜くのが気持ちいいらしい。


「やはり、準備は始まる前から入念にしておくべきですね」


先に冒険者を選び、出発していった面々を背後に見送りながら、シャルロッテは笑顔になる。


「いろいろな情報を駆使し、先手を打てるようにして本当に良かった」


「私の所の配下の手柄よぉ。えらいえらいって褒めてあげたんだから」


そしていよいよ、目標地点である山の中腹の広場に到着した。

そこには、一つの木にしっかりとつながれた大きなハンコがある。

それを与えられた地図に捺印するのが、証明であるようだ。


「一番乗りですわね! さあ、やりましょう」


アステリアが意気揚々と騎乗魔物から下りて、地図に捺印する。

その間周囲を探っている二人。役割分担はきちんとしているらしい。

そこへ、魔物が一匹現れる。まだ幼体だが、形は大きい。大型の魔物の幼体だ。


「やっぱり、チェレン山で何もなく終わるわけがなかったですわね! 重力展開!」


それを一目見て、アステリアがいくつもの詠唱を短く行う。彼女の手足に巡る燐光の文字、それを素早く行えるのはなかなかだ。

彼女のそれは重力展開、己の意のままに重力を操る高等術である。使いようによっては音速を可能にするともいわれているし、山を片手で砕く事も可能だと言われている。

完全制御に至るには、人生を三回やり直すくらいでなければならないと言われている、物でもある。

主に地竜族の得意とする技であった。

アステリアが一息に跳び、幼体に腕を叩き込む。

その際に、彼女に返り血も何もつかないように、水の盾を展開しているシャルロッテ。いざという時のために飛び道具を構えるスザンヌ。

前衛が圧倒的に強いため、後衛が二人と言う配分なのだろう。

幼体は抵抗の隙もなく、内臓を散らばせて倒れ伏した。

ひくひくと痙攣する四肢を見て、アステリアが言う。


「本当につまらないですわね、こんな弱い障害なんて」


「……見逃せばよかったのではないか」


その時である。一人背後でそれを見ていた男が、問いかける。


「いいえ、邪魔になるものは軒並み倒しませんと、後が厄介ですわよ」


「そう思うのならば、それで進むしかないだろう。早く処理を行え。山のなかは血の匂いに釣られて、何が来るかわからない」


「わかっておりましてよ」


忠告された事が不愉快だと言う顔で、アステリアが地面をける。

造作もなく穴が出来上がり、そこへ幼体を丸ごと放り込み、シャルロッテが土に水分を少し含ませたもので、ふさぐ。

時間はかからない。これを盾師が見れば、散々に非難したかもしれない事であったが。

だが、それでも多少の時間はかかるのだ。

まして先を越された生徒たちが、息せき切って山を登っているのだから。

ここまで来るのだから、体力はそれなりの集団ばかりだったようで、息を切らせながらも、彼等がわらわらと押し寄せてきたのだ。

そしてそれによって、降りていた騎乗魔物と引き離されたアステリアたち。


「邪魔ですわよ、退きなさい!」


普段ならば言う事を聞く輩も、今はアステリアの声よりも課題達成を重視するらしい。

そうして一つのハンコをめぐり、大騒ぎが始まる。

そしてそれは収束する気配を見せず、チーム同士の争いも激化していた。


「おや、アラズ」


男が不意に、坂道の方を見やり、呟いた時だった。

道半ばから、鋭い警告が響いたのだ。


「お兄さん、やばい! なんかこの山、変質してる!」


誰を示しているのか、どういった警告なのかも分からないのだが、その警告と同時に、それが起きた。

生徒たちの争いを遠巻きに眺めていた冒険者たちが、一斉に武器を構えるほどの事だ。

しかし冒険者たちのそれもむなしく、彼等は見えない何かに強制的に、弾き飛ばされ、山の下へ転がされていった。

だが、ハンコ争いで騒いでいた生徒たちは気付かない。

それが致命的な瞬間だった事にも、気付けないで。


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