第17話 街に行くために
なんとか無事に出口を登録できた二人はささやかなお祝いをする。マサシにとっては初めての街、リュカにとっては久しぶりの街に向かえるとあってお祝いをせずには居られなかった。
食糧危機が近いためにあまり贅沢は出来なかったが、それでも秘蔵の冷凍ピザを温め、同じく冷凍ポテトを揚げ、魔物の唐揚げもきっちり用意した。
そしてお祝いには自然と欲しくなるアルコール。マサシは物置から白ワインを持ち出して二人仲良く乾杯をした。
「かんぱーい」
「か、かんぱい」
マサシに合わせて乾杯をしたリュカだったが、この行動にどういう意味があるのかまではわからなかった。それでも恐らく宗教的な何かであろうと特に気にすることは無く、爽やかな酸味に鼻に抜ける花のような香りが幸せなやたらと美味いワインに舌鼓をうつ。
「いやあ、なんとか無事出口まで出られたな。リュカのおかげだよ」
「いやいや!マサシの道具が無ければ方角なんてわかんなかったし、マサシだって十分戦えてたじゃ無い」
いやいや、いやいやいやと互いに褒め合い、謙遜しながら喜びを分かち合っている。実のところ、最初に登録されていたトラベルポイントは森の中央にあり、普通の冒険者であればまず立ち入ることが無い危険地域である。
それ故、冒険者ギルドでは「未到達地」として定期的に調査隊を募るのだが、入り口から少し進んだ辺りで既に魔物に敵わなくなるため、未だに誰も立ち入ったことが無い場所なのだ。
そんな場所から二人が脱出できたのは『鑑定』により敵の選別が出来たことも大きかったが、何より裏で働いていたマサシの『フラグリバーサル』のお陰だった。
『方位磁石を頼りに初めて森から抜ける』そんな美味しいイベントに反応したのがマサシの隠し特性『巻き込まれ体質』である。マサシが電子コンパスを用意した瞬間『謎の力で磁石が狂いヤバい魔物と遭遇する』フラグが元気よく立ち上がってしまっていた。
しかし、それをひっくり返したのがマサシの呪い『フラグリーバス』だ。呪いとは言え、女神の力である程度マサシにとって有利に働くような『都合が良い具合にひっくり返す呪い』に変異しているため『何事も起きず、面白みが無いまま脱出する』フラグに変化したのであった。
この『フラグリバーサル』は常時発動型の呪いであるため、マサシが気付かないところで発生しているフラグにも勝手に反応し、スキルポイントを稼いでいる。
スキルでは無く『呪詛』なので、レベルという物は無いが、見えないところでじわじわと成長しており、以前よりマサシに有利な方向に反転するようになっていた。今回安全に脱出できたのは『巻き込まれ体質』と『フラグリバーサル』の喧嘩が良い方向に働いた結果と言えよう。
さて、いよいよ明日は街に突撃だと考えたマサシはハタと気付く。
「そういやリュカがなんも言わないし、リュカにも俺のを着せてたからすっかり失念してたけど、俺達の服って浮くよな……」
「あ……。そうだね、僕もすっかりこのジャアジとかパアカアとかタンパンとかに慣れていたけど、すっごい浮くと思うよ。というか門番にめっちゃ聞かれそう。まあ、僕は着替えればいいんだけど、マサシはね……」
「だよな……」
そう、服の問題である。この手のラノベで異世界から転移してきた主人公達は必ず元の世界の服に身を包んでいる。その後のパターンとしては『王宮に勇者召喚されたため、着替えが用意されていた』『めっちゃ浮くので元の服を売って現地の服を買いました』『むしろトレードマークとして定着しました』等があるが、そもそもマサシははじめから服で目立つようなことはしたくなかった。
「よし、リュカちょっとついてきてくれ」
マサシはリュカの手を引き、2階の空き部屋―ウォークインクローゼット代わりに使っている部屋に向かった。日常的に着るような服は自室に一式置いてあるのだが、普段は着ない服……いや、着られないような服は別室に隔離してあるのだ。
「わあ、なにこれ服がすっごいあるね」
ずらりと並ぶ様々な服にリュカがため息をつく。この世界において一般的にそれほど多く服を所持することはなく、寧ろほつれたら直し騙し騙し着ることが多い。
幸いなことにこの世界には既成品というものが存在するため、オーダーメイドの必要なく直ぐに新品の服を買うことが出来るが、やはりそれは中々に値が張るため、大体の庶民は中古で買ったり、自分たちで作って着ることが多いのだ。
なのでリュカはやたらと服を持っているマサシを内心(貴族みたいな奴め)と羨んでいた。
最も、その恩恵を思いっきり受けて珍しい服を好きなように着られていたため、決してそれを口にだすことがなければ、寧ろ好意的な目で見ていたわけだが。
「そうだろう。友達が服屋やっててさ、付き合いでチョイチョイ買わされてたんだよなあ」
『ラノベ主人公』は女性にだけ作用するわけではない。同性の気が良い友達もホイホイと呼び寄せてしまうのである。それに対してフラグブレイカーは狙ったかのように『恋愛フラグ』に牙を剥く呪いであり、何故か同性の場合は特に悪さをしなかった。
結果としてマサシは友人にだけは恵まれていた。それこそ、友人を全部集めれば国が一つ出来る勢いで様々な職業の友人が揃っていた。この世界で彼らと連絡が取れたならどれだけ役に立つことだろうか。
無論、それが叶うことはないのだが、服屋の友人はこうして間接的にマサシの役に立とうとしている。
「まー、俺がいた世界ではあまり一般的な服じゃ無くてな……。いや、これはこれで洒落てるらしくて結構人気があるブランドらしいんだけど……」
そこに並んでいるのは民族系ファッションの服ばかりであった。着る人が着ればそれなりにオシャレに見えそうな服達ではあったが、マサシがそれらの服を着ていると、大抵妹に的確につっこまれたものだ。
「うわ何それ森の人?なり損ないのエルフみたい!」
ゲラゲラと笑いながら言われた本人も納得するレベルの的確な言葉選びに感心しながらも、内心悪くないなと思っていたマサシはガックリきたりもした。
それを思い出してなんとも複雑な気分になったが、それらの服を一つずつ吟味するリュカを見てなんとも妙な感覚がした。
(本物のエルフになり損ないエルフ服を見せる日が来るとは)
暫くの間、夢中になって服を選んでいたリュカだったが、やがてお眼鏡にかなう服が見つかったようで、ニコニコとしながら一着の服を手に戻ってきた。
オーガニックコットンで作られた丈の長いシャツにゆったりとしたズボン。シャツの上から付けるのであろう、帯のようなヒモもどこからか持ってきていた。
「うん、これなんか良いと思うよ!こう……あわせると……どう?なり損ないのエルフみたい!」
「そこでそれを言うのかよ!」
思わずつっこみを入れずには居られないマサシであった。




