一話「お嬢様、誕生す。」後編
「あーゆーくーる?おーけー?」
「おーけー。あいむくーる」
なんとか彼女を落ち着かせることに成功。
と言っても結局、彼女が本当に持っていた鎮静剤を飲ませて漸くだった。
「まぁ、初めての子供なんだしテンション上がるのも頷けるけどね」
「・・・ありがとう」
いや、効きすぎてない?鎮静剤。
普段はお淑やかで物静かな女性なのだが、今回のようにテンションが上がりすぎておかしくなることが多々あるのはご愛敬ということにしておこう。
「奥様。落ち着かれたのでしたらクレイドルのそばへ。もうそろそろですよ」
すっかり落ち着いた彼女をもうすぐ生まれる子供の近くへ促す執事。
主に対する気遣いは流石である。
更には、彼女だけでなく私に対しても「どうぞ」と道を開けてくれる。
彼女も執事に言われた通りにクレイドルのそばへ近づいて行くが、どこか緊張した様子だ。
「うん。ありがとう、セバスチャン」
「セバスチャンではございません。自分はザイr・・・」
「セバスチャンは下がっていいわ。お疲れさま」
「だから自分は・・・いえ、セバスチャンでいいです。はい」
哀れ、執事。名乗りを邪魔された挙句に改名までされるとは・・・強く生きろセバス。
そんなこんなで執事の働きのおかげでクレイドルの近くには、その両親と私の3人。
他の者達はその周りで誕生を見守る形だ。
館の大きさの割には従者は少ないので十分にこの部屋に収まった。
そうして彼らの子供を迎える準備が整ったその時だ。
クレイドルの放つ光で部屋が埋め尽くされる。
あまりに強い光に彼も彼女も、私でさえも目を瞑った。
どうやら周りの従者たちも同じ様子だ。
「まったく・・・生まれるなら生まれると先に言ってくれ・・・」
「いやいやいや、そんな無茶な。どうやって無い口を開くのさ・・・私も言ってほしかったけど」
「サングラスを用意しておくべきでしたか・・・油断しました・・・」
あまりに唐突過ぎた光に文句を漏らしながら光が収まるのを暫し待つ。
「パキン」となにか硬いものが折れたような割れたような、そんな音が鳴ると同時に光も収まる。
「・・・ん?えと・・・え?」
目を開けるのを待たずに誰かの声が耳に入る。
どうやら何かお困り・・・というか戸惑っている様子だ。
「お、おおおぉおぉぉぉおぉおぉっ!」
「きゃあぁぁぁぁあぁぁぁあぁっ!」
先に眼を開けたらしい彼と彼女の歓喜の声が続いた。
どうやら無事に生まれた子供を目にして感動しているのだと解る。
さて、どれだけ可愛い子が生まれたのだろう。
彼らの喜びようからしてみて相当なものであるのは間違いないが、実際に見てみるまでは私の好奇心と期待感が収まらないのも間違いないものだ。
先ほどの声は少女のものだったことから生まれたのは娘。
今のところ私が知る情報はそれだけ。
そしていよいよ目を開ける。
「あ・・・」
「・・・・・・おぅふ」
目が合った。目が合ってしまった。
父親譲りと思われる青い瞳の気持ちつりあがった眼と。
しかし、物凄い涙目である。「マジで泣く5秒前」ってくらいの涙目である。
「おい!見たか!?我らの娘!!!娘だ!!」
柄にもなくガハハハと笑う彼。
「我が娘ながらこの可愛さはヤバい・・・むしろヤヴァい!!」
先ほど飲んだはずの鎮静剤の効果を打ち消してテンション爆上げな彼女。
いや、その娘が泣きそうなのに気付いてやれ。可愛いのは認める。私的にもなかなかにヤヴァい。
笑う「両親」と「知らないお姉さん」とその他大勢の視線を独り占めしている少女。
否、幼女はついに眼から涙を溢れさせ始める。
「ぴ・・・」
「「「ぴ?」」」
何故「ぴ」なのかがわからなかった私達三人の声が重なった瞬間・・・。
「ぴぎゃああぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁあぁあっ!!!」
この大泣きである。
泣いている理由がわからずにオロオロしてなだめ始めるご両親を傍目に私はと言うと・・・。
「え?ちょ!?」
「えぇえぇぇええぇっ!?待って!こんな時に倒れないでください!!?」
倒れていた。
ただでさえ紅いカーペットと黒いドレスを私の情熱で紅く赤く染め上げながら。
そうして慌てる彼らの声と、幼女の・・・・「お嬢様」の声を聴きながら私の意識は落ちていった。
ああ、お嬢様。私、「メイドのルー」は貴女にお仕え致します。
そこにいる貴方の父、旦那様を殴り飛ばしてでも必ずや・・・・・・・・!
ですので、お嬢様。私に、もっと、もっとその泣き顔を見せてくださいませ・・・・。
第1話完結です。
次回の投稿は未確定。
可能な限り毎週火曜は投稿したいと思います。