思えば子供を作ったことが間違いだったような気がしてくる。
高校生のころにデキた子供は、堕ろさせれば良かった。相手が五歳年上のOLで、経済的に頼るつもりでいたから――こんなことになったんじゃないか? あの時、もっと強く、拒絶していれば良かった。
煙草を箱から取り出して、一本咥える。ライターが見当たらねえ。
ところどころ赤黒く変色した畳の部屋を見回したが、ライターの影も形も無い。というか汚いな、この部屋は。今度妻に掃除させよう。
そんなことより火だ。火はどこにある。……胸ポケットの中にあった。なんだこんなところにあったか。腹が立つ。
煙を吸う。不味いな畜生。
不味いが――これしかない。あと酒。
「人様が働いてる間に飲む酒はうまいもんだなあ!」
震える手で不味い酒を呷り、一人ごちる。喉が焼けた。熱燗が冷め切っているのもあるが、そもそもアルコールが不味い。酒なんて嫌いだ。
煙を吸うと煙草の先が焼け、灰が落ちそうになる。
「おい、灰皿!」
…………。
…………?
「灰皿ァ! 俺が呼んだら返事しやがれぇっ!」
返事が無い。
隠れているつもりか?
ふざけるな。
「お前」は灰皿だろうが。道具は道具らしく、背中に煙草でも押し付けられてろ。
畳にとっ散らかった女物の服やら下着やらを蹴り飛ばし、灰皿を探す。妻が片づけをしない――そういえば、妻を最後に見たのはいつだったか。覚えてないしどうでも良い。いや、良くはないか。金が入らなくなる。今度電話の一本でも入れておくか? 下手に出りゃあ満足するだろ。女なんてそんなもんだ。
いや、今はそんなことはどうでも良い。灰皿だ。灰皿。
結局家中を探したが、灰皿が見当たらない。
どこに隠れやがった。
畜生クズめ。欲しいときに使えないなんてこの世に存在する価値があるのか。今度会ったら割ってやる。
※
「どうかしたのですか」
「いや、何も?」
西野美弥がこちらとは微妙に違う方向を向いて、言う。
俺はそれに、適当な返事を返した。




