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「わぁっ」
頭上で、西野美弥が歓声を上げた。お前は目が見えないんじゃないのか。
桜は八分咲きだった。結局西野に負け、こうして桜を見に行く羽目になったのだが、しかし俺は一応犯罪者であるために、こうして夜桜鑑賞と洒落込んだわけである。
時刻は日が完全に沈んだ八時。
俺達と同じように夜桜を見に来る酔狂な輩たちのグループや個人が散見されるが、こう暗いと俺の顔や、俺達に対する違和感は大して気にもならないだろう。遠くから目に入っても、夜桜を見に来た、少し年の離れた兄妹、あるいは父娘にしか見えないはずだ。別にそれに合わせてではないが、俺は西野を肩車していた。子供特有の少し高めの体温が後頭部で燻っている。
「空気が違いますっ!」
「ああ、そう」
はしゃぐ西野。はしゃぐのはまあ、少しくらい大目に見てやっても良いが、こいつは俺に肩車されているということを失念しているのではないか。西野が頭上で暴れるたびに、連動して俺の首がぐらぐらと揺れる羽目になるのである。西野は今真っ白のワンピースを着ているから太腿が直に頬に当たるわけだが、ガキのひょろっこい足なんか押し付けられても、まるで嬉しくない。女子高生でも誘拐すればよかったぜ。しないけど。
そよ、と風が吹く。
それは桜の花を散らした。
その散った小さな花弁は、黒い木々の隙間の空間を桃色に染め上げる。桜の木なのに桃色とは不思議な表現であるが、とにかく空間がピンクに染まるほどの見事な桜吹雪だったのだ。
また西野が、頭上で歓声を上げた。
西野家の内情はまだまだ不明瞭で、ということはつまり西野との共同生活もまだまだ続くということを示唆してはいたのだが。
「お父さん、ありがとう」
その時の俺は、もうしばらく、この生活が続いても良いかもしれない、そう思った。
桜吹雪が、夜の空気を掻き乱していた。




