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第七話 心の底



 身体を刻みながらもマルコシアスは辛うじて避ける事に成功していた。

 激痛に身を捩りながら、マルコシアスは自身の運命を呪う。

 産まれてから今まで良い事が無い人生だった。

 西の果てにある閑散とした村に産まれたマルコシアスは両親から愛情を得る事無く捨てらる。

 理由は明白で、自身の顔が余りにも老けていたからであった。

 今では顔に年齢が追いているが、自身の赤ちゃんが六十歳程の老人顔であれば誰でも捨てるであろう事をマルコシアスは理解している。

 だが、憎しみは残った。

 何が何でも生き延びて、村の連中に復讐する。

 その為に、西の山に住み着く獣人達にゴマを擦り生き延びる事を選んだ。

 獣風情にゴマを擦るのは屈辱であったが背に腹は代えられない。

 この選択が間違いであった事を後のマルコシアスは痛感する。

 待っていたのは奴隷以下の家畜扱いであった。

 寝る間もなく働かされる生活により、マルコシアスの心はすり減って行った。

 もはや何の為に生きているのか分からなくなるほどに。

 二十年以上その生活を続けた際、ふと狼煙が上がっているのが見えた。

 その方角が自身の故郷である事を認識した瞬間マルコシアスは我武者羅に走り始めていた。

 何も考えていなかった。

 もう心がこの生活に耐えられなかったのだ。

 獣どもは不思議と攻撃をして来なかった。

 当時のマルコシアスにその事に気付く余裕は無かったが。

 マルコシアスが村に到着した頃には既に全てが終わっていた。

 死体、死体、死体。

 見渡す限りの死体の山。

 もはや生き残りがいないと分かる程に死体が散乱していた。

「ぁあ」

 マルコシアスは自身の心が割れる音が聞こえた。

 自身の家畜扱いであった二十年が無駄に終わった事が分かった為だ。

「あぁあぁ」

 ふらつく足取りで故郷を歩く。

 途中村の狩人であった死体からロングボウを盗み取り、身なりの良い死体から衣服を剥ぎ取る。

 少しでも村人に復讐したく、無意識に悪行を重ねていく。

 そうこうしていると辿り着いた。

 何処か懐かしさを彷彿とさせる家の前にそれはあった。

 死体だ。

 男は女を庇ったのであろう。

 だが、両方の死体は無残にも切り刻まれていた。

 そう、両親は無残にも切り刻まれていたのだ。

 その死体に鎌を突き刺し血を吸い上げている悪魔が居る。

 その悪魔は一目で幼いと分かる風貌であった。

 父親に鎌を突き立ている赤目の少年はマルコシアスを見ていた。

 その目は常軌を逸していた。

 瞳孔は開き、瞬きを忘れたのか目を見開いている。

 狂気を宿したその目にマルコシアスは心酔した。

 それからはその赤目の少年、後に血鎌のナーシルと名乗る少年との盗賊稼業を行っていく。

 そして、ベヘリン村の山道で終焉を迎えた。

 禁則事項を破り、生物として終わったかに思えたマルコシアスであったが空が混ざる異常事態が発生し動けるようになった。

 急いで血鎌のナーシルを助けようとしたが、マルコシアスは自身の肉体に発生した異常に目を見張る。

 全身のいたる所から狼の一部と思われるものが生えていたからだ。

 理解が出来ない事態にマルコシアスは混乱する。

 それに拍車をかけるようにマルコシアスに生えた狼の鼻が血の匂いを捕らえた。

 嫌な予感がマルコシアスを突き抜ける。

 獣の如く、山を駆け降りた。

 ベヘリン村がある山の麓にその死体は無造作に置かれていた。

 焼き焦げた死体だ。

 生前のマルコシアスであれば誰か見分けがつかなかったであろうが、今は狼の嗅覚を獲得している。

 その死体が血鎌のナーシルである事を嗅覚は嫌と言う程示していた。

 どれ程の血を使ったのか、死体の周囲は血溜まりでぬかるんでいる。

 マルコシアスは構う事無く膝をついた。

 口から掠れた笑いが漏れる。

 人生二度目の目標の喪失。

 心が折れ、生きる意味を失ったマルコシアスは気付く。

 自身の中に熱を帯びた感情がまだある事に。

 狼の口が裂けた様に嗤う。

 狼の毛皮が楽し気に逆立つ。

 狼の嗅覚が血鎌の所在を押してくれる。

 復讐だ。

 自身を生かすのは、やはり復讐なのだとマルコシアスは遂に理解した。

 考えるより先に身体が動く。

 大地を捕らえる狼の脚で疾風の如く駆けていく。

 復讐対象は荷車の上に居た。

 全身がバネの如く跳ねる。

 勝ったと思った。

 自身には獣の力が備わったのだから。

 狩ったと思った。

 自身の心に従ったのだから。

 だが、現実は甘くなかった。

 マルコシアスは自身の運命を呪う。

 死の権化と化したダビンは縦横無尽に鎌を振るった。

 


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