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葉隠れの蕾  作者: ぽんこつ


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8/8

二人だけの練習

外村くんは襷の代わりに。

タオルを足に巻き付けた。

「よし。体育の時の掛け声とテンポ良かったでしょ?」 

「うん」

「まずは、その感覚を体に覚えさせよう」

「どうやって?」

「ひたすら練習あるのみ」

「はぁい」

片手を挙げて微笑む私。

「距離は短いけど。まずは十本」

「十本?」

「ああ、回数ってことね」

「そっか。がんばるよ」

「じゃあ、北見さん……手つなぐよ」

「あ、はい」

差し出した私の手をそっと握る。

外村くんの掌は汗をかいていた。

「あそこの木まで行って、戻ってこよう」

「うん」

「じゃあ、せーの」

「いちに、いちに……」

声も。

歩幅。

いい感じ。

私たちが作り出した風が気持ちいい。

「はあ、はあ」

すぐに息があがる。

「北見さん、やっぱりセンスいいんじゃない」

「そっかなぁ、ううん、外村くんの教え方が上手いからだよ」

「そ、そっか」

まだ首の後ろをさする外村くん。

私がじーっと見ていると。

「いや、じゃあ、あと九回」

急に早口になって。

握った手にぐっと力が込められた。

「オッケー」

私はその手を大きく振ってみる。

外村くんは、吐息をこぼしながら微笑んでいた。


風を起こすたび。

掛け声が響いて。

笑い声も混じる。

鼓動がどくどくして。

息が弾む。

「ふうー、汗かいたから上着脱ぐね」

「俺も」

ブレザーを脱いで。

リュックの上に置いた。

喉もからから。

ワイシャツの上のボタンを外して。

胸元をつまんで扇ぎながら。

すっかり。

ぬるくなったミルクティーをごくごくと飲む。

ん?

視線を感じる。

外村くんがミネラルウォーターを口につけたまま。

ぽーっと私を見ていた。

「ん? なあに?」

「いや、なんでもない。そうだ、じゃあさ、少しペースあげてみる?」

「うん。やってみる」

両手で包んだペットボトルと一緒に首を傾けた。

目を大きくした外村くん。

少しの間。

固まってたけど。

肩がビクッと震えて。

ひきつった笑顔を見せて。

天を仰ぎながら。

ペットボトルを飲み干した。

そして。

ワイシャツの袖口のボタンを外して、腕をまくった外村くん。

「じゃ。いちに、いちに。これくらいのペースで走るよ」

さっきよりテンポが早い。

「うん。がんばる!」

外村くんが私の手をさらう。

洋ちゃんと違って。

少しだけ慣れない手だけど。

温かさはおんなじ。

「じゃあ行くよ」

「せーの」


さっきより早くて。

一生懸命、手も振る。

切る風も一段と涼しい。

私たちの声に混ざって。

滑り台で遊んでいた子供たちが。掛け声を送ってくれている。

あっ!

ちょっと足がリズムとずれて。

バランスが崩れて。

「あぶない!」

外村くんの声がして。

私は前方につんのめって。

派手に転んだ。

両腕が地面について。

ひざを打ち付けた。

四つん這いで突っ伏すような格好。

ジーンと腕と膝に痛みがある。

「大丈夫?」

「痛い……」

その姿勢のまま答える私。

「わーい。パンツ丸見え~」

男の子たちがからかい騒ぐ。

ハッとして。

痛みもかえりみず。

姿勢を起こして。

膝立ちのままスカートを直す。

じろっと男の子たちを睨んで。

「こらー!」

ふざけて片手を挙げる。

男の子たちは、

「逃げろー」

歓声をあげながら。

四方へ駆けていった。

「痛たた……」

ワイシャツが汚れて。

膝を少し擦りむいたみたいだった。

「北見さんごめんね、俺が余計なこと言わなければ……」

いくら走っても。

息が乱れなかった外村くんの顔が赤い。

「ううん。私がリズム狂っちゃったからだよ」

「立てる?」

外村くんが差し出した手を握って立ち上がる。

「タオルほどくね」

「うん」

しゃがみこんだ外村くん。

しっかり結ばれたタオルが解かれる。

私は汚れたワイシャツの袖の土を払う。

お母さんに謝らなきゃ。

怒られるかな?

「あ、血が出てる」

外村くんは私の膝を指差した。

「ああ、大丈夫だよこれくらい。」

「いや、ちゃんと消毒した方がいいよ。荷物のとこまで戻ろ」

「うん」

立ち上がった外村くん。

私の頭の方をちらちら見ている。

ん?

なんだろ?

目だけ動かして上を見る。

すると。

外村くんは手を伸ばした。

「……取れた」

その指先には、小さな葉っぱがつままれていた。

「ありがとう」

「いや……全然」

摘まんだ手を前後に動かしながら。

そのまま葉っぱを握りしめた外村くん。

「じゃあ、手当てするから行くよ」

「うん」

かすり傷くらい平気なんだけどね。

あっ。

でも、洋ちゃんも小さい頃絆創膏貼ったりしてくれてたな。

足を動かすと。

じんじんと痛みもついてくる。

「防波堤に腰かけてて」

「ん? わかった」

外村くんはリュックの中から。

消毒液とハンドタオル。

それから、絆創膏を取り出した。

「ふふ、救急箱みたい。いつも持ってるの?」

「ああ、部活で擦り傷とかざらだから」

「そっか」

確かに。

洋ちゃんもそこらじゅう傷作ってる。

サッカーは怪我がつきもんだって話してた。

「本当は水で洗い流したいけど、少し多めに消毒液かけるから、染みると思う」

「わかった」

外村くんは手際よく手当てをしてくれた。

消毒液が染みて痛かったけど。

我慢する。

「これで取りあえずオーケーかな」

「ありがとう」

「いや、ごめんね、女の子に傷を負わせちゃって。本当にごめん」

あたまを下げる外村くん。

「謝らないでいいよ。私が調子に乗っちゃったからだよ」

「いや、でもさ……」

「もう、手当てもしてくれたし外村くんのせいじゃないよ。ねえ? パン食べようよ」

「ん? ああ、そうしようか」

首の後ろをさする外村くん。

また。

私も真似をしたら。

笑顔が交わる。

傾きはじめた淡い黄色の光が。

外村くんの顔の汗をキラキラと輝かせていた。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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