つながっている
「そうだ。聞いて欲しい曲があるんだ」
つないでいた手がほどかれた。
「ん?」
そして。
私の顔の前に。
勇太が摘まんだイヤホンが現れる。
「昼間、話してたの?」
差し出した手のひらに。
それは。
ぽとりと落ちてきた。
「そう。『流星のナミダ』って歌なんだ。歌詞が気に入ってる」
「ふーん」
私は。
スマホで曲名を検索をする。
歌詞を表示して。
右耳にイヤホンを着けた。
「じゃあ、かけるよ?」
「うん。いいよ」
スローテンポのメロディが流れはじめた。
両手を防波堤の縁について。
歌詞にあるように。
空を見上げていた。
切なくて。
哀しげだけど。
勇太が。
歌詞が好きだって言ったのは。
何となく。
分かる気がする。
離れていても。
同じ空の下にいて。
相手を想ってるって。
そう。
感じたのかなって。
曲が終わって。
イヤホンを外す。
「空を見たからって、寂しい気持ちは、なくならないけどね」
笑い混じりの勇太の声。
「うん。でも、空見るよ。勇太、何してるかなって」
「僕も。葉月、ダンス頑張ってるかなって」
勇太の向こうの空が。
やっと。
オレンジ色に染まりだした。
勇太が。
こっちを向いて。
目が合う。
あっ……
込み上げてきたものが。
頬を緩ませる。
「どうした?」
「空で想い出したの」
「なに? 面白いこと?」
首をかしげた勇太。
「うん」
肩をすくめて。
はにかむ私。
「いつ頃からかな、天気予報ね、東京のも見てた」
「それって、つまり……」
「勇太が東京にいるから。だよ」
「そっか。いや、嬉しいね」
「ふーん。勇太は?」
「僕? さすがに天気予報は気にしてなかったかな」
「ちぇっ」
頬を膨らませると。
勇太が指で。
つんつんしてきて。
プーッと。
吹き出した。
「もう!」
勇太の肩を軽くはたく。
「でも、これからは、僕も気にするかな、夕凪島の天気のこと」
どこからともなく。
夕方の17時を告げる音楽が。
風に乗って届けられた。
「そろそろ帰ろっか」
勇太の左手が。
当たり前のように。
私の右手を握る。
「そうだね」
帰らなきゃいけないのは。
分かってるけど。
もっと。
一緒にいれたらいいのに。
「葉月が思ってること当てようか?」
「え?」
「たぶん……帰りたくないなぁ、一緒にいたいなぁ……でしょ?」
「うん。そうだよ。どうして分かるの?」
「そんなの当たり前だよ。好きだからだよ」
「へ?」
心臓が。
想い出したかのように。
どくっとして。
見つめる勇太の瞳が。
私の口元へ。
あっ。
うん。
私も。
キスしたいかも。
そっと。
まぶたを閉じてみた。
勇太の息が。
顔にかかる。
唇に触れるぬくもりに。
ぞくぞくが。
全身を巡って。
お腹がじんわりして。
ぽっと。
頬が熱を持つ。
心地よくて。
鼓動はうるさいのに。
どこか。
ほっともしてる。
そんな。
余韻を残して。
唇が離れて。
目を開ける。
「僕も、葉月と同じ想いだから。出来れば、一緒にいたいってね」
「うん」
勇太の口元に。
視線が行ってしまう。
私は顔を寄せて。
唇を重ねた。
時が止まればって。
想いながら。
さっきより長いキス。
背後を行き交う車の音も。
水の揺らぎも。
カラスの声も。
分かってるのに。
時間は止まることはなくて。
夕焼けに。
ただ。
焦がれていた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




