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葉隠れの蕾  作者: ぽんこつ


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1/8

通学路

「葉月。気をつけてね」

「はーい。行ってきまーす」

つま先をトントンと打ち付けて。

ガチャ。

玄関扉を開けた。

ふわりと風が流れ込んで。

髪とスカートを舞わせて。

淡い潮の香りを連れてきた。

前髪を気にしながら。

道路にできた陽だまりの中に身を置いた。

この四月から中学生になった私。

背も伸びて。

胸も少しは膨らんで。

お姉さんの証しに見えた制服にも。

馴染んできたかなって。

今じゃ髪も上手に編めるし。

バリエーションも増えた。

今日はサイドに流して。

一つに編み込んでみた。


ピーヒョロロ……

鳴き声につられて見上げた空。

青くて。

高くて。

広くて。

清々しくいつもと変わらない。

ぼんやり浮かぶふわりとした雲。

その中を黒い点のとびがゆーっくりと旋回している。

小さく肩を上げて。

吐いた息と一緒に落とす。

少しかかとを上げて。

路地の先を見つめる。

町も景色も変わらないのに。

最近。

幼馴染みの洋ちゃんが、私を避けてる気がする。

あっ。

視線の先。

角を曲がって歩いてくる洋ちゃん。

眠そうにあくびをしている。

小学校五年生くらいまでは、同じくらいだった身長は頭一つ差がついた。

もっといえば、低学年の頃は私のがほんの少しだけど背は高かったのに。

「洋ちゃん。おはよう」

リュックのベルトを持ちながら微笑みかける。

「ふわー、おはよ」

少し低くなった、洋ちゃんの声。

私は当たり前のように。

ようちゃんの手を握って歩き出す。

「また、夜更かし?」

「ん? ゲームしてた」

「え? なら私も誘ってよ」

「何で?」

「何でって、昔から一緒に遊んでたじゃん」

「ああ、じゃあ今度な」

「絶対だよ」

「はいはい」

小さな川に突き当たり。

左に逸れて。

コンクリートの護岸に沿って歩く。

二人だけの通学路。

私たちが住む福田町には小学校も中学校もなくて。

バスで30分ほど揺られた隣町。

内海町に学校がある。

しかも、私たちと同年代の子は町内にいないから。

ずっと二人で登校も下校もしていた。

もちろん、町内には先輩や後輩もいる。

みんなも幼馴染みみたいなもので仲はいい。


ちかちかと瞬く川面の光を引き連れて。

川沿いを少し歩けば。

道路の先には瀬戸内海。

河口付近の小さな橋を渡る。

「葉月、見てみ」

「ん?」

欄干に手を掛けて。

川を覗き込む。

小さな魚がぴょんと跳ねた。

「お前みたいだな」

「なにがよ」

私は洋ちゃんの腕をぺしぺしと叩く。

「ほら、行くぞ」

潮騒に紛れるフェリーのエンジン音。

町の朝を告げている。

橋を渡ればもうすぐそこが福田港。

夕凪島と兵庫県の姫路を結ぶフェリーが発着している。

バス停には小学校に通う。

五年生の大貴だいきくん。

三年生の知香ともかちゃん、美雪ちゃん。

二年生の英輝くんが待っていた。

そして、元気な挨拶をしてくれる。


ブルル……

と、エンジン音を弾ませてやってきたバスに乗り込む。

私たちは一番後ろの席に腰かける。

登校する時の指定席。

私が窓際で。

席に着けば、バスはゆっくりと動き出す。

膝の上の洋ちゃんの手を握ろうとしたら。

やっぱり。

すっと、引っ込められた。

ちぇっ。

バス停まではつないでくれるのに。

最近こうなんだ。

「洋ちゃん。怒ってるの?」

「なんで?」

「だって、その、手……」

私は宙ぶらりんの行く宛のなくなった右手をお腹の前で抱えた。

「だって、もう子供じゃないだろ」

「子供じゃなきゃつなげないの?」

「ったく、何でそんなにつなぎたいんだよ」

「だって、ずっとそうだったし、安心するから」

「ふーん。それだけか?」

「え? それだけって?」

「ったく、学校着くまでな」

洋ちゃんの手が私の手をつかまえてくれる。

少し大きくて、あったかい。

「へへ」

洋ちゃんの顔を首をかしげて覗き込む。

「なんだよ」

洋ちゃんは、私の髪の毛先をつまんで。

私の鼻をちょこちょことくすぐる。

「ひゃっ」

鼻を押さえて。

身じろいだ。

「もう、せっかくちゃんとセットしたのに」

「ああ、似合ってる」

ん?

「え? なんて?」

「あ?」

「ごめん、聞こえなかったから」

「なんか言ったか俺?」

「ん?」

洋ちゃんは、腕を組んで知らんぷり。

ちぇっ。

私は洋ちゃんの鼻をつまむ。

「おい、やめろよ」

振りほどくように顔を逸らす洋ちゃん。

でも、学校に着いたらよそよそしくなるんだよね。

どしてだろ?

柔らかい陽射しが車内を包む。

私は洋ちゃんの肩にもたれた。

「なんだよ、やめろよ」

「いいの。ちょっとだけだから」

心地よい揺れが、私たちの体に同じリズムを刻んでいた。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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