第87話『答えの輪郭──決断が立ち上がる瞬間』
沈黙は、三日続いた。
長いようで、短い。
だが、その三日は、確かに場を変えた。
「……揃いました」
リュシアンが差し出した資料は、厚みが増している。
数字、補足、再検討案。
そして、現場の所感。
私は、一枚ずつ目を通した。
急がない。
だが、迷いもしない。
「全体像が、見えたわね」
ミレーヌが、静かに言う。
「はい」
私は頷く。
「判断に必要な材料が、
ようやく同じ机に並んだ」
午後、協議体の代表者たちを集めた。
顔ぶれは、前回と同じ。
だが、表情は違う。
待つ姿勢ではない。
向き合う姿勢だ。
「結論を出す」
私は、最初にそう告げた。
空気が、張る。
だが、拒む気配はない。
「今回の例外は、
現行基準では通さない」
一瞬、静寂。
「ただし」
私は、言葉を切る。
「基準そのものを、
部分的に改定する」
ざわめきが起きる。
「条件が変わった」
私は、資料を示す。
「それに、
基準が追いついていなかった」
反対意見だった者が、口を開く。
「……少数意見が、
基準側に入る、ということですか」
「ええ」
私は頷いた。
「今回“負けた”意見が、
次の土台になる」
誰かが、息を吐いた。
「それなら……」
言葉は、続かなかったが、
納得は、確かにあった。
会合が終わった後、
ガイルが肩をすくめる。
「上手くまとめたな」
「まとめたんじゃない」
私は首を振る。
「育ったの」
判断は、
突然生まれるものじゃない。
意見がぶつかり、
沈黙があり、
考えが熟して、
ようやく輪郭を持つ。
夜、執務室で一人になる。
今日の決断は、
誰かを切り捨てていない。
だが、全員を満足させたわけでもない。
それでいい。
中心の役目は、
“皆が進める形”を作ることだ。
窓の外、港の灯りが揺れる。
その光は、少しだけ、太くなった気がした。
私は、静かに息を吐く。
答えは、出た。
だが、終わりじゃない。
また、次の判断が、
この場所に戻ってくる。
その時も、
私はここにいる。




