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いざ侵入せよ

「お前らの実力は十分わかった。侮ったことは謝る」

「いいや、こちらもアンタがそこまでの実力を持つ守護者だとは思わなかった。お互い様だ」

「そりゃこんな風貌だもんね」


ハニナが呟くと、イカルは無言で睨みつけた。余計なお世話だ、という類の視線だ。だが彼女はどこ吹く風と流して、逆に質問をぶつける。


「それで、何層相当くらいなのさ?」

「ふむ……喰らった感じ、15層から20層と言ったところか。作戦と連携がしっかりすれば25層も行けるだろうな」


彼女にぶつけられた疑問を顎髭を撫でながら考えて、そう推測した。あながち間違いではないはずだ。なんてったって、相対した本人(イカル)なのだから。

彼の言葉を聞いて、ハニナが相好を崩す。


「ひよっ子にしてはかなりいいさな、将来有望だねぇ」


彼女の言葉が気になったユウセイは、ぽそっと疑問を漏らす。


「何層相当?」

迷宮要塞(ダンジョン)が何階層もあるのは知ってるな?守護者の強さの指標は、どのくらい深い階層に潜ることが出来るかということで表してるんだ」

「それで、25層……」

「まだ学生って考えたら、かなりいいと思うさ」


ハニナが笑いかける。随分と表情豊かで、相棒のイカルとは正反対だ。イカルはむっすりとした顔を浮かべてるほどではないが、黙っている。本気で思っているわけではないだろう。


なるほど確かに、ダンジョンは下に行けば行くほど魔獣や魔族の強さが上がっていく。罠の数や階層の広さも段違いになるのだ。その階層数によって強さを表すのは、どこまで実際の闘いで強いかの指標になること請負だろう。それに、実際到達階層を報告する仕組みにすれば、成長も分かるということ。いい事づくしで、考えられている、とアウルはサラリと感じた。


そんな話をしてから、一行は訓練場をあとにした。再び守護者組合所の中に入る。先程よりも喧騒が大きく、人が増えていた。


「それで、どうするん……ですか?」

「このまますぐ迷宮要塞(ダンジョン)に潜りたいところだが……そいつはどうする?」


そいつ、とイカルが指し示したのはスニルだ。カレハの後ろにひょこひょことついてきているが、確かにダンジョンは魔塔学院より危険だ。安易に連れていけるものではないだろう。

「そうね……行ける、スニル?」

「キュウ」

「自分のことは気にするな、勝手についていくって感じね?」

「なんで分かるんだよ……」


お決まりのセリフを交わして、結論とする。


「問題はないな、装備に忘れは?」

「全員着たきりだよ」

「……金が無いのは分かるが、装備は幾つか持っておいたほうが身のためだぞ」


イカルが、ひどく実感がこもった響きで言う。彼の若手時代を思い出しているのだろう。彼は頭を振って嫌な思い出を振り払うと、先導して歩き始めた。どうやら外に出るらしい。


迷宮要塞(ダンジョン)の入口は、ここじゃないのか?」

「ここはただの組合所だ、管理室と入口は別の場所にある」


外に出て、少し路地を歩く。道行く人々は笑顔に溢れ、希望が固まっているのがわかる。この光景を守るために闘っているのだ、とアウルは改まった気持ちにさせられる。


歩くこと数分足らずで、とある建物が見えてきた。周囲の建物より頭一つ抜けた石造りの屋根に、なにか文字が刻まれている。だが、その屋根は三角形をしているようには見えない。正面まで来ると、その建物の異様さが十全に伝わってきた。なぜなら、建物と言っても四角い直方体の形をしているのでない。それは、巨大な天井庇(アーチ)だった。


「これが、迷宮要塞(ダンジョン)……」


荘厳な雰囲気を醸し出す天井アーチには、きめ細やかな装飾が施されていて。ツルツルに磨かれた大理石の柱は、強靭さと美麗さを兼ね備える役割が担わされているのだろう。アーチの右側の根元付近には、小部屋のようなものがくっついている。管理所、と言っていたところに違いない。

そしてアーチの下に広がるのは、全てを吸い込みそうな暗がり。ここに入ることで、すぐさま迷宮要塞(ダンジョン)に入ることができるらしい。これは、人間が作り出した転移の魔術陣である。

カムフトームとは別種の、異形の建物。奇しくもその2つは、見るものを圧倒し感嘆の息を漏らさせるという点に置いては全く同じであった。

突然指をぴんと立てて、イカルが説明を挟む。なんだかんだと言いつつも、説明と世話焼きが好きなんだろうと汲み取れたアウルなのだった。


「このアーチは、緊急時に破壊して落とすことで文字通りに蓋をすることができるんだよ」

「それで、魔族たちが地上に出るのを防ぐ、と……」

「今までそんなことはなかったけどな」


軽く笑いながら、イカルが言った。

ちなみにハニナは、管理所の方へ行って申請をしている。守護者であるとは言え、顔パスで入ることは許されない。いや逆に守護者であるからこそ、とも言える。人類が魔族に対抗しうるためには、守護者が必要不可欠。であるなら、それを確認しないのは命綱を確認せずにバンジーを飛ぶに等しい自殺行為だ。検問はあって当然である。


「さて、お前ら……武器の準備は十全か?もう少しで入るぞ」

「ええ、バッチリ」

「今すぐ闘えるぜ」


そうこうしているうちに、ハニナがこちらに向かってくる。どうやら無事に申請が通ったようだ。


「覚悟しな、ひよっ子ちゃんたち。ここからは、本当の死地さ」

「…………聞きたかったんだが、お前たちは何階層相当の実力なんだ?」


彼らがアーチの下にある暗がりに進む寸前。その背中に、アウルの声がかかる。

よれたコートをたなびかせるイカルは振り返った。そのボサボサの髪を揺らして笑った。


「──────60階層相当だ」

「イカル、行くさ!」

「ええ!」

「ああ!」


まずハニナが飛び込む。続いて、イカル。その後を追って、カレハ、ユウセイ。そしてエディアが飛び込んだのを見送って、最後にアウルが飛び込んだ。

魔力による浮遊感が身体を包みこんで、着地の衝撃を和らげる。


「さて、第1階層だ。始めるぞ」


初めてのダンジョンで、これから何が起こるのかは誰も予測できない。

ましてや、特大のアクシデントに飲み込まれる、など。

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