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確認テストの如何

彼が先導してたどり着いたのは、守護者組合所の裏手だった。そこは割合広く、更に地面は踏み固められている。使い慣らされた、訓練場と言った風貌だ。

イカルはおもむろに振り向くと、腰の剣をぽんぽんと叩いた。


「ついたな」

「ここは……?」

「見りゃわかるだろ、訓練場だ」

「いや、確かに見れば分かるかもしれないが……なぜここに?」


ここに来た理由をアウルが問う。そうしたら、イカルが後頭部を掻きながら答える。彼はそれが癖になっているのかもしれない。


「あー、なんでって……まあ、簡単に言えば、お前らの実力を見てやるんだよ」

「実力を見る?」

「お前がさっき言ったんだろ、守護者なら強さで判断してほしいってな」


どうやらイカルは先程のアウルの発言に納得して、行動してくれたらしい。であれば、『エーゲン・ラフト』にできることは決まっている。


「わかった、やろう。それで、どういうルールにする?」

「俺に3回攻撃を当てる、もしくは降参と言わせる。そっちの敗北条件は、全員が地面に手をついたら負け、でどうだ?」

「こちらとしては異存はない、な?」

「ええ。むしろ3回だけでいいのって感じね」

「ハッ、面白いことを言うじゃねえか。勝てる前提とは、自信たっぷりだな」


皮肉げに、イカルはそう笑った。彼こそ自信満々であるが、カレハたちの力を見抜けない愚者か、それとも本当の実力者か。いずれにせよ、戦えば分かることだ。


「俺が3つ数える。ゼロになったら、開始だ」

「OK、眼に物見せてやるよ」


イカルが十分に距離を取る。が、腰の剣は抜かない。素手で相手するということか。腰の剣はブラフか。様々な思考が巡るが、それをカウントが中断させる。


「3、2、1……………ゼロ」


ゼロになった瞬間、カレハが例に漏れず弾丸のように飛び出した。その速度はイカルも意外だったようで、眼を瞠る。だが、笑みは崩さない。


「愚直だな、愚かしいほどに」


イカルの手がぬるりと動いて、形を作る。合掌のように掌を合わせて、中指と小指を組む。

エディアはその動きに見覚えがあったようで、構えた杖を固めてしまう。


「掌印……魔術ですか!?」

「【石よ、突き上げろ(ノックアップロック)】」


自然魔力が反応して、事象改変が行われる。突撃を敢行するカレハを遮るように、土の壁が飛び上がってくる。カレハは突如現れた妨害の壁に、たたらを踏んで停止した。


魔術。それは、魔法とは別なる世界改変の技である。大雑把に括れば魔力による世界改変であるのだが、発動方法に相違が出る。

魔法は単純に自分の体内魔力を放出するだけで勝手に発動するのだが、魔術は異なる。陣、印、文──それらの方法を使い、自然魔力を自らの意図する方向に改変させる。それこそが魔術である。


「貴方、魔術師だったのですね……!」

「どうした、これだけか?」

「いいや、まだまだ!」

「そうですね!【精土弾(クゲル・ボーデン)】!」


土塊が生まれ、飛翔する。既に土の壁は崩れ去っている、遮るものは何もない。

だが、彼は刃波打つ剣を腰から抜き放ち、飛来する土の弾丸を両断する。切り裂かれた土塊は、二股に分かれて飛んでイカルの身体を横切った。


「ククッ……ちっこいとか言って悪かったな。良い魔法だ」

「お褒めに預かり光栄です、よ!」

「俺も忘れないでくれるかな!」


2つの弾丸が空を疾走する。それは、ユウセイお手製の弾丸石とエディアの魔法土弾だ。灰色と土色、二色がイカルに同時に襲いかかるが、またも同じ掌印を結ばれて土の壁がせり上がる。


「魔法は合格点だ、頑張れよ、前衛!」

「そんなこと、言われなくてもわかってるわよ!」


カレハがせり上がった土の壁を飛び越える。そのまま拳を後ろに振りかぶる。その手には、鉄色の輝き。メリケンサックをしっかり握り込んだ拳を、身体のひねりと落下による勢いの2つを乗せて落とす。だが、カレハに返ってきたのは硬い衝撃と、ガンギン!!と固く澄んだ金属音。それは拳の防御を意味していた。


「なっ、あの姿勢から!?」

「常在戦場、上からの奇襲は慣れものよ……!」


掌印を高速で解いて、握りかけの炎型刃剣(フランベルジュ)を上に掲げたのだ。それによって上空から迫るカレハの鉄拳を受け止めたのだ。即座に大きく剣を扇いで、カレハを振り落としながら、前に構えた。走っている、アウルを見据えて。


「なっ……」

「上に注目させて下で本命を通す、ありがちな作戦だな。だが、対人戦は見破られたときのことも考えておくべきだぞ!」


アウルの横っ腹を衝撃が襲う。その痛みは、剣で切られたというよりも、もっと鈍いものだった。だが、迫る痛みに肺の中の空気を吐き出され、アウルは崩折れた。カレハは再度突貫するも、またもフランベルジュに阻まれる。飛んでくる石弾は魔術で弾き、ユウセイの動きに注意を払う。

それら全ての行動を高水準でこなしている彼は、相当の実力者に違いない。


「でも、魔術を使うなら……勝てます!!」


だが、悲しいかな。魔術には、欠陥がある。それは、タイムラグだ。魔法は発動するために①魔力を放つ②事象が改変されるの2ステップで事足りるのだ。しかし魔術は、①使いたい魔術の用意……陣や文、印を作ることをする②それに引き金として自身の魔力を流す③自然魔力が反応して事象改変を起こすの合計3ステップ、さらに用意する文や陣を覚える手間も考えれば、使い勝手が良いとはお世辞にも言えない。

そしてその差が、魔術と魔法の交差する闘いでは如実に現れるというわけだ。


「そんなことは百も千も承知だよ!」

「来なさい!」

「────────ちょっと待ったァーッ!!」


突如、大声が掛けられた。冷水を浴びせられたように闘志が萎えて、拳を下ろす。視線を向ける。そこには、幼さを感じる出で立ちであるのにどこか妖艶な、小柄な女が立っていた。


「ちょっと、何やってるのさぁ、イカル!」

「何って……テストに決まってんだろ?」

「アンタのその、自分が理解してることは相手も理解してる前提なの、やめてよさぁ」

「生来の癖ってやつだ、いい加減割り切れ」

「ハァ……大丈夫さ、怪我はない?」


彼女はそのきれいな顔立ちをこちらに向けて、心配の様相を浮かべた。幸いにも、アウルが蹴飛ばされただけで、それ以外には被害はない。蹴飛ばされたアウルも、痛みだけで怪我はない。

アウルは痛む脇腹を押さえて、立ち上がる。そして聞いた。


「貴女は、一体……」

「この馬鹿の相方をやっているのさ、ハニナ・ザンベジよ。よろしくなぁ、ひよっこちゃんたち」


なにか違和感を感じるが、とにかく差し出された手を握り返すアウルなのだった。

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