エピローグ
「ほい、約束してた武器」
ウィーナが机を手で示す。そこには、輝きを放つ武器が並べられていた。
「うわ〜、いい武器ね」
「当たり前だ、オイラのことを何だと思ってんのよ」
「いや、それもここまでとは……」
「ですね、私の故郷でもここまでの名武具は打てませんでしたよ」
眼に自信のあるアウルも、故郷が名工たちの里であるエディアも、その見事さには唸らざるを得ない。
「こっちから、君のやつ」
「これは…………?」
「おお。指定通りというか、想像よりも断然良い」
ユウセイにウィーナが手渡したのは、枝分かれした棒に持ち手がついたような形状の武器だった。つまりは、十手。さらに持ち手の尻には、鎖と錘が付いている。
「随分と変な形の杖ですね、魔法用にしては刻印が入ってないようですけど」
「これは魔法用じゃないらしいんでな」
「ああ、杖と言えば『振れば剣、突けば槍、廻して伸ばせば手の延長』って教えがあるんだ。汎用性があるってことさな。下手な武器よりもこれに【情報付与】を乗せたほうが良いって考えたのさ」
「なるほど、多用的武器、といったところか」
全員が納得したのを視て、ウィーナは再び並べられた武器を手に取る。今度は柄はシンプル、だがしかし、先の部分には精緻な装飾が施された杖だった。
「これがちっこい君の奴」
「誰がちっこいですか、ウィーナさん!」
エディアは余計な一言を付けたウィーナにキィキィと噛みつくも、武器を渡されたら突然静かになった。
「…………武器は本当に見事ですね、この刻印……」
「おう、なかなかキレイに入ってるだろ?」
「耐久増加しか刻めないとおっしゃられてましたが、相当に凄いですよ、これ」
アウルは魔法術師に付いての知識はそこまでだが、専門畑であるエディアがそこまで言うのだろう、相当の業物のはずだ。
眼をキラキラと輝かせて、まるでプレゼントを与えられた子どものような顔を浮かべているエディアに苦笑しつつ、更に隣の不思議な形状をした金具を手に取った。
「こっちは目付きが悪い君の」
「……目付きが悪いって言ったら多分うちのリーダーに勝てる人はいないわよ」
「あり、そうなのか?」
「ええ、言うほうが違うわよ」
突然槍玉に挙げられて悪口のようなものの矛先にされたアウルとしては、抗議しようにもできない内容だ。そんな中でも、彼女たちは笑いあった。
「これは、どうやって使うのかしら?」
「こうやって拳を作るときに、指を嵌めるんだ」
「…………なるほど、メリケンサック!」
ユウセイが突然大声を上げた。その聞き覚えのない名前にアウルたちは首をひねるものの、いつものユウセイの癖だとスルーしようとした。しかしウィーナがユウセイの肩を掴む。顔は俯いていて、まるで怒っているのかのようだ。
「それ、この武器の名前か……?」
「あ……故郷では、こういう武器のことをこう呼んでて……」
「それ……目茶苦茶いいな!それにしよう!」
「良いトーンの感じじゃなかったけど!?」
ユウセイのツッコミは今日も健在だ。
ウィーナは最後にアウルに残っているナイフを手渡した。鞘もついていて、安心安全設計だ。そこまで大きくないそのナイフは、蒼い刀身がまるでアウルの髪の差し色のようだ。黒い柄は握るアウルの手にしっくり来る、最上級の一振り。
ウィーナはそれぞれに渡した武器を一度ぐるりと見回して、笑顔で学院証を差し出した。
「そいじゃ、代金キッチリ貰おうか?」
「ああ、確認してくれ」
アウルが代表して学院証を取り出し、接触させる。ピロン、という人工的な音が鳴り響き、ポイントの移動が完了した。そこには、きっかり120万ポイントが振り込まれたことが示されている。
「にしても、よくこんな短期間でこのポイントを稼げたなぁ。オイラ的にも、時間はそれなりにかかると思ってたけどな」
「それは────────────」
@
「ああ……、負けた、のね」
ゴドウィンの一撃はマルルを切り裂き、更に蛇と結合していた筋肉をも切り離した。
マルルはもはや動くことすらできないのか、そのまま地面に倒れ伏した。
「ねぇ、ゴドウィン。もし貴方が許してくれるのなら……」
「ああ、いいさ。また、俺の“姉貴”であってほしい」
二人に、それ以上の言葉は不要だった。マルルはそれっきり沈黙して、蛇型〈ヴータリティット〉は光粒と化して消えた。
あとに残ったのは、破壊の跡と何も語らぬマルル、そして静寂の帳のみだ。
その帳を上げたのは、ゴドウィンだった。
「本当にすまなかった、それにありがとう」
ゴドウィンは頭を深々と下げた。それは、迷惑をかけた謝罪の気持ちと、自分事であるのに骨を折って解決まで導いてくれた感謝の証だ。
皆はそれがわかっているからこそ、それを笑顔で受け入れた。
「こっちもなかなかに良い体験ができたんだ、それに……」
「それに?」
「マルルからポイントが貰えるだろうしな」
アウルが茶目っ気たっぷりにそう言うと、真剣だったゴドウィンが破顔した。絶対そんなこと考えていなかったくせに、という笑いだ。
ニヤリとした笑みのまま、ゴドウィンも混ぜっ返す。
「本当にな。ランカーだから、それなりにぶんどってやるか」
「ちょっと、アウルさん、ゴドウィンさん!?」
「いいじゃない、エディア。ここまで闘って報酬なしってのは流石に心に来るわよ」
「それはまぁ、否定しませんけど……」
ゴドウィンは急に真面目くさった顔になると、アウルに話しかけてくる。
「それで、ふざけるのは良いが、報酬はどうする?できうる限りそっちの言い値に添わせてもらうが」
「そうだな……全てのポイント、というわけにはいかないしな。────────────────100万ポイント、で手を打とうか」
「アウル、それって……」
黙っとけ、とユウセイを眼力(魔眼布越し)で黙らせる。
「100万、か。多分マルルは払うだろうな」
「オーケー、ならそれでいこう」
「むしろ、それだけのポイントだけでいいのか?500万のポイント金輪際の協力、でも全然いいが……」
「何言ってるんだ。俺達は『エーゲン・ラフト』だぞ?」
つまりは、俺達は俺達の力でのし上がってやるということ。
その一言を言下に含めた。それだけで、ゴドウィンは伝わったようだ。フッと鼻で笑って、自分の提案を蹴り飛ばした。
「……そうだな。期待しているぜ、後輩ども。今度会ったら、敵になってるかもな」
「ああ、この塔では有り得る話だ。そっちも達者でな」
ゴドウィンと『エーゲン・ラフト』は手を振って、互いの息災を祈ったのだった。




