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邂逅するは少年と少女

学院の門をくぐったアウルにまず襲いかかってきたのは、どこの原産か分からない木の花びらだった。日に光るピンク色のそれは、尋常ではないほどの量が降り注いでおり、まるで雨のようである。時折吹く一陣の風がその雨を乱し、また雨が元のように戻る。そんな光景はどこか可憐という言葉を思い起こさせ、見るものの眼を確実に奪う絶景であった。


「こいつは綺麗だな、新入生への歓迎って言うんならだいぶ粋なもんだ」


アウルはしみじみとつぶやきながら、眼の前の巨塔の入り口へと歩を進める。カツカツと鳴るブーツが妙に軽く感じるのは気の持ちようだろうか。浮かれた心のお陰で自分の身体も浮いている、と。

すると前で、上で一つにまとめたつややかな紫の長髪を風に任せてたなびかせている、楚々と歩く女子がいたのが見えた。

アウルは魔眼布を少しめくり、眼に力を入れ、派生スキル【看破】を使う。【看破】は、他人の名前とステータスがわかるが、スキルや魔法はわからないため、一長一短なのだ。もちろん、強力な魔法のため魔力の消費も馬鹿にならない。そんなものをなぜここで使うのかと言うと、純粋な魔塔学院についての興味、そして探している彼女を見つけるという2つの理由が重なっているからである。


「このステータスの尖り方……」

「ねえ、アンタ。さっきから視線を感じるんだけど、その布どうなってるの?」

「ッ!いや、何でもない。俺の布は気にしないでくれ」


いつの間にか距離を詰め、眼の前に立っている彼女に、アウルは驚嘆、息を呑む。近くで見た顔はかなりの高水準でまとまっており、目元が気の強さを表すように──アウルほどではないが──つり上がっている。鶸色の瞳は花吹雪散る陽光を反射し、きらめいていた。まるで黄金の珠が磨き上げられてそのままはめ込まれたようなきれいな瞳。全体的に見れば美少女と言っても全く差し支えないその美貌に、どうやら周りもかなりの目線を送っているらしいことがチラと見てわかる。


彼女はどんな感覚をしていればできるのやら、自身の背中越しにアウルの視線を感じられたのだろう。しかしそんな彼女でも、アウルの眼力には耐えられない、と思う。なんとなくの第六感だが、ほとんど確信に近い。今までの経験上、というやつだ。

アウルがとっさに口に出した言い訳もどきを聞き、彼女は形の良い眉を顰めた。


「フン、何でもない、ね……。良いわ。そういうことにしてあげる」


表情はまだなにか言いたげであったが、彼女は、踵を返し入り口へと足早に向かう。

アウルはその背中を見送りつつ、彼女の大まかなステータスについて考えていた。魔塔学院に来るほどだ、身体能力のステータスは異常とハッキリ断言できるレベルまでに高く、しかし魔力は殆ど無いに等しい。

身体能力に特化した──女子にしては珍しいと言っては失礼だろうか──人だと言えるだろう。


「まあ、彼女の特徴とは異なるから、違うと思うが……。やっぱり、こんなところでバッタリ、っていうのは儚い希望すぎるな」


そもそも同い年かも──……。

考えを消すように頭を横に振りながら、歩く。その後も、周りを歩く新入生をチラリと盗み見していく。見えるステータスは、どれもこの世界の平均を大きく逸脱したものだ。

流石に先程の彼女のように視線に気づくものはおらず、しかしアウルは満足にこの学院が「最強のカムフトーム」と呼ばれている所以を感じることができた。


「──?」


ふと、視線を感じる。それも新入生が歩いている横からではなく、斜め上の方向から無遠慮に突き刺すようなものを受け取っている。

追従して見上げてみると、塔の3階くらいにあたるだろうか、そこから複数人の生徒が今現在の花である一年生を、というか周りを探っていたアウルを見下ろしていた。立ち位置や雰囲気などから、上級生だろうと言うのはなんとなく察せる。何のために見ているのかは不明だが、その不躾な視線は何となく禄でも無さそうだ。


そうあたりを付けていたその瞬間、不意に後ろから大音声が響く。


「うおおおおお!!桜じゃねえか!?また見れるなんてな!」


その声の方をとっさに振り向くと、黒髪黒眼の少年がいた。どうやら生徒らしく、学校指定の制服に長めのトレンチコートを着ていた。その少年は周りの冷たい眼にも怯むことなく、興奮した様子で植えられている木を見つめている。植物が好きなのだろうか?それとも、ただ綺麗さに興奮しているだけ?それに、これから式典があるというのにあそこまで興奮できるとは厚顔無恥なのか、それともただ周りが見えていない愚者なのか。彼の様子を見て、湧いてくる疑問は多々ある。

ただ、アウルが今気にするべき事項はそこではないだろう。


「おっと、周りの調査にかまけてないで行くか、さすがに」


変わらず降って来ている上級生の視線で頭が冷えたアウルは、今やるべきことを思い出した。さすがに、周りの戦力分析でどう戦うかを考えるより、入学式にしっかりと出席する方がいいのは火を見るより明らかだ。

そう独り言ちた後、ぽっかりと眼の前に空いている、入り口から、塔の中へと這入る。


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