外界へ
「はあ⁈」
意味がわからないという風に首を傾げた俺に、美香はニヤリと笑みを浮かべて畳み掛けた。
美香は子供の頃から、悪戯を考えつく天才だった。
神社の奥の森に秘密基地を作ろうとか、地主の森の一番奥に柿の木があるから取りに行こうとか。
俺はいつも、先を歩く美香に泣きながらついていくのだった。
「だってさ、たっくんは青春したいわけでしょう? なら、行こうよ、タッくん」
「いや、だって」
「早く、早く! もう夜になっちゃうからさ、その前に早く着替えて!」
「はあ⁈」
楽しそうな美香に無理やり立たされる。
もう着たくもない中学の制服に着替えると、あのころから袖が少し短く感じられた。
毎日寝ているだけなのに、体だけは忠実に大きくなっていると思うと自嘲してしまった。
「ほら、行こう!」
美香は俺の手をつかみ、部屋の扉を開けた。
そのまま俺を玄関まで引っ張りながら連れていく。
美香が扉を開けると、重たく黒い玄関の扉はギィと音を立てて開いた。
外から、日の光が差し込む。
夕陽とはいえ、いつも布団で寝ているだけの俺にとってはまぶしすぎて眩暈がした。
「ちょっと待てよ、俺は外に出るつもりはないって」
躊躇を見せた俺に対し、美香は無邪気に笑った。
「大丈夫、大丈夫! 私が一緒だから!」
ぐっと美香に背を押されて、俺は思わず生唾を呑み込んだ。
しかし、不思議と恐怖は湧いてこない。
美香の手にも汗が握られていた。
俺の汗と混ざり合って、妙な音を立てている。
俺は、神々しい儀式のように、外界へと一歩を踏み出した。