雲雀を殺したロミオ
『病院が来い!!隣の奴が病んでいるので今すぐ治療してやって欲しい件』の最終話を投稿しております。よろしければそちらもお願いいたします。
「もうこれで、フランとぼくは完全に兄弟だね!!」
兄弟。わたしと、リコリスが。誰よりも、近いそんざい。
* * * *
「に、いさん・・・・・・?」
私は、全てに絶望した。お兄様が、この世の全てだった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・・・。」
違う。・・・・違うじゃないか。お兄様だけじゃない。この世にはもう一人いたじゃないか。リコリス。貴様が、私の生きる目的だ。貴様が!!貴様への復讐が!!
* * * *
『君、翼も記憶もいらないんだね。変なの。』
顔の前に扇子を広げたなにかは、教会の十字架の上に突如出現した。
『いらないんだったら貰おうかな。』
そういうと、なにかは私の眼に手を当てた。
『痛い?ごめんね。』
痛い!!痛い・・・!!激痛が眼を襲う。
『頂きまーす、っと。ありがとね。羽はもらったよ。・・・あ、記憶もいらないんだっけ?じゃあ、ついでに貰っちゃお。』
なにかは私の頭に手を当てた。痛みはなく、ただ、すっきりとした感じがした。そこで、私は抵抗することをやっと思い出した。
『かえせ?面白いことをいうなぁ。』
羽も!!記憶も、どちらもかえせ!!なぜ私の頭のなかには・・・・リコリス・・・・お兄様・・・・?なぜ二人に関しての記憶しかない!?
『君が望んでいるからだよ。』
ありえない!!私はそんなことを望んではいない!!
『だって君、叫んでいたじゃない。貴様に復讐してやるって。それが私の生きる目的だ。ってね。それってさ、彼女と君のお兄さんの記憶以外別になくても構わないってことじゃない?』
そんなのは暴論だ。私はただ、お兄様の復讐を心に誓っただけだ!!
『翼だって必要ないじゃん。君は過去に縛られ続けたいんでしょ?というより、彼女を縛り続けたいんでしょ?過去に・・・いいや、君に。だから、翼も記憶もいらないんじゃない?というか、君の心がそういってるよ。記憶も羽も邪魔だってね。』
煩い!!私は、べつに・・・・。
『じゃあ逆に聞くよ。羽も記憶もどう使うの?』
記憶があれば私は前を少しだけ向けるかもしれない。羽があれば私は過去が染みついたこの場から動ける・・・・・!!
『ははははっ、嘘つきが。本当は動くつもりなんてないくせに。だったらなんでこんなところにいたのさ?彼女と兄弟になる約束をした教会になんて。』
・・・・・・わかっている。わかっていた!!!
『はははっ、ついに本当のこと言った。おもしろ~い!!いいよ、愉しませてくれた代わりに君が本当に留まりたいところに連れて行ってあげる。君の居場所も用意しておいてあげよう。あ、安心してね。君の正体はバレないから。君の魂は記憶の消失と能力の変形によって歪められているから、例え魂を視ることができるなにかに視られても君が君だということはバレないよ。』
・・・・・・。
* * * *
私は、いつのまにかヒガンバナの王城にいた。私は、誇り高きアヤメ王国の王子ハルサフラン。だが、そのアヤメ王国は滅ぼされた。誰によって?リコリス・ヒガンバナによって。私は、なぜここにいる?リコリスへの復讐のため。私にはなぜほとんどの記憶がない?わからない。私は、なぜ左目が見えない?わからない。だが、いい。
「あ、もしかして君、リコリスさま付きの使用人希望の子っすか?」
私は、リコリスを地獄に叩き落とせればそれでいいのだから。
* * * *
「・・・・・ううん。なんでもない。」
あ、ああ・・・・。私は、私はなにを・・・。なぜ、私はリコリスに死んで欲しくないなどと考えてしまった?なぜ?・・・いや、いい。とにかく、今は冷静になろう。リコリスをうっかり殺してしまっては困る。とにかく、冷静に。冷静に。リコリスの信頼を勝ち取ってから、裏切って、絶望に叩き落とすのだ。そうだ、私はだからリコリスに死んで欲しくなかったんだ。
* * * *
「よし、終わりました。なにもしないよりは・・・まだマシ、だと思います。」
憎い。ただ憎い。目の前の光景が。目の前の現実が。
「悪化するかもしれませんね、貴女がぶきっちょだから。」
こんな光景、今すぐ焼け落ちてしまえばいい。
「うっ・・・・。すみません。」
殺したい。ひたすらに殺したい。リコリスの前にたつあれを。リコリスの前であの澄ました顔を醜く切り裂きたい。
「冗談ですよ。」
ああ、冗談じゃない。こんな光景。リコリスは私のものだ。リコリスの兄弟は私だ。リコリスに一番近い人間は私だ。貴様ではない。
「・・・・くくっ、ご機嫌麗しゅう?花泊夫藍の君?」
麗しいはずがない。
「でしたら。悦しいこと、いたしません?」
蛇と堕天使は手を組んだ。
* * * *
「貴方の願い、それは、
リコリスの全てを私のものにすること。とっくのとうに私は気づいていた。
「・・・・いいえ、いいませんとも。私はそんな無粋なことはしませんよ・・・ククッ。」
ふん。勝手に言うがいい。私はもうなにを言われようとも止まらない。
「私はまず、あの方の願いを叶えましょう。そして、そのあとに・・・・貴方とあの方だけの世界に行ってはどうですか?用意しておきますので。そのあとは・・・・お好きにどうぞ。・・・・ああ、その世界への切符は貴方方の死、とでも言っておきましょうか。」
ああ、好きにさせてもらおう。
* * * *
「さぁ?殺せば?きっと死ぬ直前はフランへの憎しみでいっぱいだよ。まぁ、死んだらすぐ忘れて兄さんのところか、お母さまのところに行くけど。あ、もしかしたら、姉さんを守りにいくかも。」
・・・・ああ、そうか。そうだったな。貴様は私を兄弟と呼びながら、昔からそうだった。お兄さまと貴様の姉が一番大事で私は二の次三の次だった。ああ、早く貴様を殺して私で一杯にしてやりたい。私への愛でその身を満たしてくれないのならば、いっそ全て私への憎しみで貴様を満たせばいい。憎しみはどんな感情よりも強く、激しい。そうすれば、私とリコリスの想いの重さは同じになるだろう。これで、私の辛い片思いは終わる。
* * * *
「私、私ね、ずっと、兄さんのことが、だ
・・・・ずっと前からわかっていた。リコリスが恋い慕う相手が誰なのかなんて。だが、許せない。どんなに大事だったお兄様であれ、もう、必要ない。私に必要なのは、リコリスに殺された可哀想な可哀想なお兄様だけだ。他の誰かに殺されたお兄様も生きたお兄様も必要ない。
「・・・・ごめん、ね。りこりす、ちゃん。」
さようなら。要らない人。
「フラン!!!フラン・・・・!!!」
ああ、これ、これだ・・・・!!私が求めていたのはこれだ!!リコリスが、私だけを見つめ、私だけを思うこんな光景!!
やがて、リコリスの悲鳴が途切れると、私は火の中のリコリスの亡骸に近づいた。そして、リコリスの頬にそっと口づけをすると、自らの腹を切った。
* * * *
「な、に・・・・?」
・・・・ああ、私たちの本当の世界はこれからだ。ここが私が夢見た理想郷。私とリコリスが永遠にともに在れる場所。私が永遠にリコリスを縛れる場所。リコリスの全てを私の物にできる場所。なぜならもう、
雲雀は息絶え、残ったのはよく似た声の墓場鳥しかいないのだから。
「ああ、私も。私も誰よりも深く貴様を愛している。リコリス。」
いくら殺しても、骨の髄にまで印をつけてもまだ足りないほどには。
ガチヤンデレサイコパスなフランさん。・・・・サイコパスイメージでつくったのはスノウさまだったはずなのですが・・・・。なぜかフランの方がサイコパスに・・・・。




