倉秋健人の場合 03
第五節
「そこは分かったが、だから何なんだよ」
「鬼頭さん、先日橋場さんに遅発型を仕掛けたんですよね?」
「うん。エッチな気分が高まったら発動にしたの。少なくとも公衆の面前でそういうことはしないと思ってたんで」
「…そしたら二人でエッチな気分になっちゃったと」
「そう」
斎賀は想像してみた。
いざ「こと」に及ぼうとした最愛の相手の目の前でムクムクと身体が女になった上にセーラー服姿になる…悪夢なんてものじゃない。
だが実際は橋場はそれを喰らい、結果として彼女に振られたも同然になってしまった訳だ。
「解除条件は?」
「特に考えて無かったけど、確かにあっという間にもどっちゃっちゃ却って申し訳ないから少々エッチな気分になったり集中したくらいじゃ戻らない様に「一回寝たら戻る」にしといた」
それで翌朝戻ってたのか!
「…素晴らしい」
「斎賀?」
「つまり、元に戻るためにこういう条件設定が出来る訳です」
カバンから取り出した紙にサインペンでさらさら書き始める。
①「随意」(戻るためにある行為をする)
②「不随意」(何かの条件を満たすと戻る)
「自分で戻るか、勝手に戻るかってことか」
「そうです!これは戻るための条件ですけど、「変身するための条件」も同じだとすると?」さらさら。
②「不随意」(何かの条件を満たすと変化する)
「…何でマル2何だよ」
「…気づきませんか?」
「分かった」
意外なことにそれは武林の声だった。
「…分かったのか?」橋場。
「そっか…」真琴も分かったらしい。
「対戦相手に条件を仕掛けてさえもらえれば、『自分の意思で変身』出来る訳だ」
「はあぁあ!?」
第六節
思わずがたりと立ちあがってしまう橋場。
「いや…それマズくないか?そういうこと出来ないのがオレたちだったんじゃねえの」
「落ち着いてください。実験がまだです…が、ほぼ間違いないでしょうけど」
「なるほどねー」
す…と真琴に向き直る斎賀。
「ということで鬼頭さん!再戦願います」
「あたしはいいけど…どうすればいい?」
「そうですね…ここに紅茶があって、クッキーがあります」
「はあ」
「何しろ実験なんで思い切り簡単にしましょう。これから試合をして敢えて負けることで鬼頭さんの「解除条件」を飲むと同時に「変身条件」を受け入れます」
「変身条件?」
「…とりあえずそう呼ぶしかありません」
「それで?」
「これもある種のペナルティですよ。その条件を満たしたら変身しちゃうんだから」
実際橋場の身に降りかかった出来事は悲劇としか言い様が無い。
「紅茶を一杯飲み干したら変身、変身した状態でクッキーを一枚食べきれば解除です」
「…そんな簡単でいいのか?」
「だから実験なんですってば」
「試合の決着そのものはどうなんの?変身が解けるまで継続中?」
「負けたボクの側はそうです。ただ、鬼頭さんは完全に終了してますから制限はありません」
今度は武林が手を挙げた。
「他のプレイヤーとの対戦開始による上書きは?それがあれば解除条件なんぞいらんだろ」
「この場合は法則を反対向きに使うんです」
「反対向き?」
「確かに、新しい対戦が始まれば古い対戦は強制終了します。ただ、常に新が旧を優越する訳じゃありません。逆に言えば旧の試合が継続してしまっているために新を開始することが出来ない…と言うことは普通です」
ぽりぽり頭を掻いている橋場。
確かにそうなのだ。
呉福妹の無差別強制変身からのバリアとして予め別のメタモルファイトを開始・継続させたままにしておくのも同じ原理である。
「ということでいいですか?」




