倉秋健人の場合 02
第三節
「遅発出来ますよね?変身トリガー付きで」
「うん。例えば…その人が自宅で一人っきりになったら発動…とかそんな感じ」
「意思と関係ない条件満たし自動発動か…」
独り言みたいにぶつぶつ言っている。
「これまでと何か違うのかよ」
「水木さんが教えてくれたのは…あくまでも解除条件を相手に依頼する形式でした」
「ああ」
「水木くんって誰?」
ひとしきり水木粗鋼についての説明。
かつて橋場、斎賀、武林が遭遇したファイターで、なるべく多様なメタモルファイターと戦い、敢えて負けることで女体化&性転換された状態で写真などを撮ったりして楽しむ「コレクター」である。
汗っかきの肥えた男で、男の段階で既にきゃぴきゃぴ気味なので雰囲気が異様である。
ただし、メタモルファイトの形式についてはこれまた異様なほど詳しく、彼の調査結果たる「解除条件」「条件同意」などは以降の戦いに於いては欠かせない情報源だったのは否めない。
「とにかく、対戦相手に『般若心経を三回唱えたら元に戻れる』みたいな形で「疑似的に戻れなくする」物だった訳です」
「般若心経!?あのお経だよね。ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃーてー」
「それですそれ!」
「なんで般若心経なの?」
「三回回ってワンと鳴く、とか気合を入れるとかだと全く意識しなくても勝手に戻っちゃったりするでしょ?それを防ぐためです」
「…戻りたくないの?」
「はい。水木さんの希望は、女子高生状態を維持したまま気が済むまで過ごすことなんで、勝手に戻ってくれては困る訳です」
「本当に男の子なの?変わってるね」
ちと空気が変わった。
「ま、ここまで露骨なのは珍しいですけど」
「…願望あるんだ?」
「…普段なら女性相手にそういうトークはしないもんですが…ボクらメタモルファイターですからねえ…一度でいいから女性になってみたいとか女装してみたいとか言っても…だからどうしたと言う感じでしかないんですが…」
「要するにあると」
「…はい」
「軽蔑します?」
「全然。あーそーなんだなーくらい」
ケロッとしている真琴。
「あたしは女の制服着てみたいとか全然ないからさ。そういう人もいるんだって」
「鬼頭さんって高校生ですよね?」
「うん」
「制服無いんですか?」
「ないよ」
第四節
「それでずっと私服なんですね」
「うん。スカート嫌いなんで一枚も持ってない」
水木が聞いたら何というんだろうか。生まれつきの女なのに勿体ない!とでもいうのか。
「…話を戻しますが、この場合結局のところ『戻るための自主的な行動』を敗者にゆだねていた訳です。結果的に余りペナルティになってません」
「しつもーん!その状態で別の人と対戦が成立したらどうなるの?」
「…流石です。その場合、当然前の対戦状態はキャンセルされます」
つまり元に戻る訳だ。
「ただ、元に戻るための条件として『別の対戦を成立させる』ことを禁じる旨、確約出来ていればいいわけです」
「そうだね」
「飛田か」
「飛田っち?」
「あのロマンスグレーに我々三人は返り討ちに遭って、あられもない恰好で空港の隅から隅までそのまま歩かされる羽目になりました」
「言うな!」
突然武林が声を上げた。
「…飛田っちの能力ってCAさんだったよね。てことはつまり…」
「ええ。そういうことです。三人組の美人スチュワーデスの誕生です」
「ふーん」
笑いをこらえている様に見える真琴。
「…何かおかしいですか?」
「いや、自分で女の服着るのは好きじゃないけど、他人…男の子が着せられたりするのを見るのは好きだからさ…ちょっと想像しちゃった」
「い、いい趣味ですね」
「どーも」
別に上げる必要はないんだが手を挙げてみる橋場。
「あの時ってオレたち同士の対戦も禁止だったんだな」
「試合中に解除条件をそこまで同意してスタートしてますからね。通常の手順である「別の対戦成立」で解消できるとなるとペナルティにならないでしょ」
武林は相変わらず渋い顔だ。あの時口調までスチュワーデスそのものになってしまっていたのだが。
「戻りたくなったら自由に戻れる、のと戻りたければ条件を満たせ…だと違う様に見えますが実質同じです」




