倉秋健人の場合 01
第二章 倉秋健人の場合
第一節
「…と、言う訳なんだ」
「す、凄い!それは凄いですよ橋場さん!」
「わめくな!」
「あ、どもー」
にこやかな鬼頭真琴。飾り気の…今日は少しだけカラフルではあるが…少ないジーンズスタイルは細身の少年みたいに見える。
橋場英男はいつの間にかたまり場と化した秋葉原のメタモルカフェで再びいつものメンツと集まることになったのだ。
「ふん…」
武林光が腕を組んでいる。
小汚い学ランに硬派で決めている武林だが、この三人の中では普通のケンカならともかく、メタモルファイトにおいては最弱で、いつも最初に性転換被害に遭うポジションだった。
隠していても仕方が無いので、昨日の顛末を全部説明した。
潮崎美夕を連れているところは何度か見せているんだが、円満に分かれて今も関係は良好であるが、少なくとも付き合っているのはこの鬼頭真琴であると。
「さっそくお手合わせ願います!」
「いいよー。でもお金掛かるんだよね?」
「あ…」
「ボクが払います!」
何故か張り切っている斎賀健二。
この細面のメガネこそがこのグループの頭脳だった。
「そんなのいいって。あたしも払うから」
ここは外見は典型的なメイドカフェである。
過剰なサービスは一切無く、落ち着いた英国調の内装で単にウェイトレスがクラシックなメイド衣装を着ているに過ぎない。
ただ、店主の執事スタイルの男…綾小路隼人がメタモルファイターであったため、奥に存在するプレイスペースを有料で開放し、心置きなくメタモルファイトを楽しんでもらおうという唯一無二の店なのだ。
「じゃーひでちゃん行って来るわ」
「あ、ああ」
第二節
その気になれば密室状態にすることもできる窓はブラインドが上げられた状態だった。
中では「変身決着」を前提にごく普通のバトルが行われているらしい。
斎賀は三人の中では間違いなくメタモルファイトにおいて最強だ。
単に腕力が凄いとか、猛烈に速度が速いとかそういったことは無い。
ただ、相手の行動をガードさせたり、逆に相手の行動をガードしたりすると同時に相手の身体に対して意識を集中したり、逆に相手の意識集中を読んで的確にこらえたりすることが上手い。
よって戦うと単なる力任せである武林はまず手も足も出ない。
武林とて空手使いで理に適った身体の動かし方に於いては一日の長があるのにもかかわらずだ。
橋場は武林と違ってケンカ経験が豊富では無く、メタモルファイトにおいてしか戦っていないプレイヤーで、どちらかというと斎賀と同じように頭を使って戦わなくてはならないのだが、この独特のゲームの「カン」を掴むにあたってはゲーマーでもある斎賀には及ばない。
…結果はあっという間に出た。
攻撃・防御の攻防以前に、素早く脇を横切って通り過ぎた背中側には白いスリップも眩しくめくれあがる黒いスカートがあった。
真琴の圧勝である。
「かなり色んなことが分かりました」
目の前に息が上がっている斎賀がいる。
「どんなことだ?」
「コツみたいなことなんで、上手く言葉では言えません。格闘ゲームの中でもコンボとか確定反撃とかスカ確みたいな話じゃなくて陣取りあり対戦における位置取りみたいなフィーリングの部類です」
「はあ」
何を言ってんだかサッパリ分からんが同意しておく。
「鬼頭さん!」
「ん?」
真琴は斎賀におごらせた…というかおごらせてくれと聞かないので…アイスティーをストローで飲んでいる最中だった。
「システム解析の限界まで探求したいんですけどいいですか?」
「あたしにできることなら」
「今のおれらの間柄じゃあ駄目なのか?」
「…良そうですけど、鬼頭さんって試合開始を同意したら相手に条件提示しないでもある程度トリガー設定出来るでしょ?」
橋場は紅茶を吹きそうになった。
「…うん」
「…お前…そんなこと分かるのかよ」
「ボクも前々からそうなんじゃないかと思ってたんですよ」
「何だと?」
「相手に確認を取るのはあくまでも平和裏に解決したい場合のみでしょう」
「スゴイね。その通りだよ」
真琴が少し目を剥いて感心している。
ちなみに真琴は都合十回ほど対戦したが、一度もブレザーを着せられることはなかった。
橋場との対戦の際には希望してセーラー服姿を受け入れてみたりもしたのだが、余り女子の制服には興味は無いらしい。




