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ジョー・キングの場合 15


第三十三節


 ハンドガンは確かに便利な飛び道具だが、銃身バレルがライフルなどの長物に比べると短いため、弾丸の直進安定性に欠けるところがある。

 そもそも拳銃の弾というのは思ったほど当たるものでは無い。

 真正面に構えたところで、素人では目の前数メートルの距離ですら半分も当たらない。


 実は「拳銃」というのは少なくともお互い素人程度の腕前であるならば、手が届きそうな距離で殴り合う感覚で使ってこそ「殺傷力」を完全に発揮することが出来る武器なのである。

 無論、これはライフルなどの長物、(サブ)マシンガンの様に多少命中精度に難があっても大量の弾をばら撒けるタイプの火器…最もアメリカ国内においてはフルオート射撃の出来る銃は売ることが出来ないが…、そして散弾銃ショットガンなどの様にそもそも命中させることが簡単な銃…などであれば話は別だ。

 あくまでもハンドガン(拳銃)の話である。


 しかし、その距離での殴り合いということになればそれこそ普通のパンチか、それこそ棒などの原始的な武器の方が効果はある。また、鍛えられたナイフ使いの殺傷力は凄まじい。

 拳銃と言うのは「メカ」なのである。起動準備をし、狙いをつけ、その上で正常に動作してくれて初めて殺傷力に到達する。案外デリケートな武器なのだ。


「いいから早くうつ伏せになれ!」

「この試合はジョー・キングお墨付きだ!あと少しだけ放っておいてくれ。終わればすぐ帰る!」


 紅い口紅を広げながらジョーたる黒バニーが怒鳴った。


「やかましい!あと5秒で撃つ!5!4!3!」


 周囲の人間は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らす様に我先に逃げ出している。


「悪い…やるぞ。当たれば死ぬし」

「だから構わんって」


 パチッとウィンクするジョー。慣れた小悪魔ぶりだ。


「2!1!」


 黒服の視界が暗転した。



第三十四節


「なん…だぁ!?これ…は…」


 茫然としている黒服…と言いたいところだが、黒服は既に着ていなかった。

 そこにいるのは目に痛いほどの金色のバニーコート姿のバニー・ガールだったのだ。


 シンのメタモル能力を喰らった黒服のなれの果てである。


「…ひとり警備員減らしちまった。悪いな」

「なに、こう言っちゃなんだが替えならいくらでもいる」


 姿勢のいい二人のバニーがゴールデン・バニーを見下ろしている。

 メタモルファイトは掛け持ちできないのだが、これは通常の「自衛能力としての」メタモル能力の発露であるので何の問題も無い。

 当然ながら、メタモル能力を持たない一般人がメタモルファイターにメタモル能力を喰らえば…女に性転換してしまい、そのまま一生戻ることは無い。

 印象的なゴールデン・バニーの衣装やハイヒール・イヤリングなどの小道具はささやかなプレゼントである。


「元々こいつ生意気で扱いづらかったし」

「ひでえな。承知の上かよ」


 普通に喋っているが、ジョーの髪型が七三分けであること以外二人とも完璧な「バニー・ガール」なのである。


「さて、続きをやろう。もう一息だ」

「まだやるんだ」

「当たり前だろ…それにしても…東洋人の黒髪ってのはいいもんだな」

「…」

 不意を衝かれてちょっと照れて紅くなるシン。もっとも面影はわずかしかないのだが。

 色白の肌に漆黒の黒髪。紅いバニーカチューシャが鮮やかなアクセントになっている。

「お前の能力は人種までは変えないのか」

「その様だ。それからシン、私の髪も頼む」

「…何だって?」


 いぶかしむ黒髪の美女。


「さっきのはアクシデントだ。このまま試合を続けるのはフェアじゃない」

「…フェアだと?最初の不意打ちではあんなに怒ってたくせに」

「すまんかった。つい興奮しちまってな。そういう積りじゃなかった」

「まあいい」


 アメリカ人のフェア・アンフェアの基準は本当に良く分からん。基本的に自分たち中心なんだろうが、そうかと思うと妙なところで「オレたちはこんなにフェアなんだ!」と見せつけるような行動を取ってくる。


「ぐ…あ…ああああっ!」


 七三分けだった髪型がぐんぐんと伸び、ウェーブの掛かった見事なブロンドが流れ落ちた。金色の下地にえる黒いバニーカチューシャも形成される。

 白人の金髪碧眼のバニーガールとなると、まるで洋ピンだ。…失礼、まるでプレイボーイのグラビアを見ているみたいで現実味が無い。

 正に「外人の美女」という感想しか浮かばない。


「もう座らなくていいだろ。次の一枚で勝負を決める」



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