・第十九話、テーマ
・錦糸町時空事変編1
「さて、邪魔者もいなくなった事だ。私のテーマの為に働いてもらおうか。」
そう、沙希は言い俺はゴクリと唾を飲む。
「ふむ…。」
沙希は何かを考えるように振舞うと
「面倒だ、直接頭に流す。」
そう言うと俺の額に指を立て軽く呪文を詠唱し、
情報が一気に頭の中に流れ込んでくる。
「うわああああああ」
思わず叫んだ、叫んでしゃがみこんだ。
こんな体験初めてだからだ。
「ふむ、当然の反応か。」
予期していたのか沙希は蔑む様な瞳で俺を見下す。
「止まれ。」
沙希はそう言って俺の額に再度指を立てると
自然と体の震えが止まり徐々に頭の中の情報が整理出来てきた。
俺の頭の中に流れ込んできた情報を整理して沙希に告げる。
まずは沙希の「テーマ」
これが信じがたい事に「時の探求」というもので
過去に遡り様々な事柄に事象する。
沙希自身が「時の改変者」という称号を持つ大魔術師だという事がわかった。
だが自身の「時」に関しては事象出来ない誓約があり
今回は俺と言う駒を使ってその事象を改変するのが目的らしい。
俺は一通り整理した事を沙希に伝えると「上乗だな。」と満足げに言う。
「さて…。」と沙希は静かに口を開き紫色の水晶玉を取り出す。
あー…、うん嫌な予感がしてきたぞ。
更に流れてきた事を整理するとまさに戦慄が走る。
その水晶玉には時の概念がない「ティンダロスの猟犬」が封じ込められている。
魔術に関わらない俺が過去に遡るにはこの猟犬の力を使って
魂だけを過去に遡らせ、過去の肉体に意識を定着させる。
その戻る過去…というのは15年前。俺が17歳の時だ。
丁度俺が能力を開花させたかさせないか、そんな時期だったはずだ。
「後は行きながら情報を整理しろ。」
非情にも沙希は呪文を詠唱し右手には紫の水晶玉、
左手には先ほど資産家の事件で俺が明け渡した魂の塊。
「汝、時の番人たるティンダロスに命ずる。」
聞き取れない言語の後にそれだけがはっきり聞こえ、
その瞬間俺の意識が水晶玉の中に引っ張られる感覚に陥る。
「うわああああああああああああ」
先ほどとは比じゃないくらい頭の中
というか心の中がかき混ぜられ抉られる感覚。
そして俺が次に目を覚ますと、そこは15年前の朝
師ミツキの元で住み込み修行していた「俺」であった。




