第45話:不機嫌な背中。阿久津を怒らせた、結衣の焦り
いつもご愛読ありがとうございます。
独占欲に溺れ、大切な一線を越えてしまった結衣。
阿久津君の怒りに直面し、彼女の積み上げてきた自信が音を立てて崩れていきます。
倉庫の湿った空気の中で、結衣が期待に胸を弾ませて阿久津を見上げた瞬間。
彼女の耳に届いたのは、甘い言葉ではなく、氷のように冷たい拒絶の声だった。
「……もういい、田中さん。いい加減にしてくれ」
阿久津が、結衣の震える肩を乱暴に引き剥がした。
彼の瞳に宿っているのは、共鳴による興奮ではなく、底知れない失望と冷めた怒りだった。
「君は、記録を出すために俺を必要としているんじゃなかったのか? 佐藤さんと競うために、俺を道具みたいに扱うのは……もう、うんざりだ」
阿久津の心から流れ込んできたのは、重苦しく、拒絶に満ちた濁流。
それまで彼女を天国へと押し上げていた共鳴パスが、今は一転して、心臓を直接握り潰されるような激痛へと変わる。
「っ、あ……ぁ……違うの、阿久津君。私は、ただ……っ」
「今の君には、もう何も教えたくない。……調整は、これで終わりだ」
阿久津は一度も振り返ることなく、倉庫の扉へと歩みを進めた。
彼が背を向けるたび、結衣のバイオリズムは音を立てて崩壊していく。
魔力が急速に指先から抜け落ち、立っていることすらままならないほどの虚脱感が彼女を襲った。
「待って……行かないで、阿久津君! 私が悪かったから……お願い……っ!」
床を這い、彼の靴を掴もうとするが、その指は空を切った。
バタン、と無慈悲に閉ざされた扉の音。
阿久津が不機嫌になるだけで、自分の『加速』も、『存在意義』も、すべてが毒へと反転する。
結衣は暗闇の中で自身の無力な脚を抱え、絶望的な孤独感に咽び泣いた。
誇り高きエースは今、たった一度の**拒絶**によって、自分が彼なしでは呼吸すらままならない抜け殻であることを、残酷なまでに思い知らされていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
阿久津君の**拒絶**が、結衣の才能を「重荷」へと変えてしまう。
快楽による支配の裏側にある、精神的な脆さが露呈した回でした。
阿久津君の背中を追うこともできなくなった彼女の行く末を、ぜひ見届けてください。




