第36話:調整の代償。走るたびに、あなたを思い出してしまう
いつもご愛読ありがとうございます。
阿久津君の調整によって目覚めてしまった、結衣の肉体の「記憶」。
競技に向き合えば向き合うほど、彼を思い出してしまう……そんな彼女の逃げ場のない渇望をご覧ください。
凛華の警告を振り切るように、結衣は翌日も、その翌日もトラックを走り続けた。
だが、走れば走るほど、彼女の肉体は残酷なまでの『欠乏感』を訴え始める。
(あ、ああ……まただ……っ)
コーナーを曲がる際、遠心力に耐える太ももの筋肉。そこが収縮するたびに、数日前に阿久津の手によって直接解された、あの淫らなほどの感触が脳裏にフラッシュバックする。
本来、アスリートにとっての走覚は、極限の集中が生む孤独な悦びのはずだった。
しかし今の結衣にとって、地面を蹴る衝撃はすべて、阿久津の掌が自身の肉を揉みしだき、指先が敏感な筋膜の奥底を突く感覚へと変換されてしまう。
「っ、はぁ……ぁ、はぁ……っ!」
トラックの真ん中で、結衣は堪らず膝をついた。
息を切らしながら、彼女の手は無意識に、ショートパンツの上から自身の太ももを強く掴んでいる。
阿久津に触れられた場所に、彼が残した共鳴の『熱』がまだ燻っている。その残滓をなぞるだけで、彼女の魔力バイオリズムは制御不能なほどに跳ね上がり、下腹部を焼くような疼きとなって彼女を苛んだ。
「阿久津君……足りないよ……っ。あなたの、あの熱いのがないと……私、もう、ただ走るだけじゃ満足できない……っ」
もはや彼女が求めているのは、記録でも勝利でもない。
走るという行為を通じて、阿久津の情動に、その指先に、魂ごと支配されているという背徳的な実感。
凛華の言った通りだった。
一度でも阿久津という劇薬によってリミッターを外された肉体は、自力での快楽を忘れ、供給源である彼なしでは一歩も前に進めない、哀れな「依存体」へと作り替えられていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「走る=阿久津君を感じる」という回路が完成してしまった結衣。
アスリートとしての誇りが、彼の残した熱によって内側から溶かされていく様子を描いてみました。
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