第1話:氷の才女は、才能の枯渇に絶望する
数ある作品の中から、本作を見つけていただき誠にありがとうございます。
完璧な少女が、たった一人の少年に「壊されて」いく。
その過程にある、甘美な絶望とカタルシスを丁寧に描いていきます。
静謐な音楽室に、断末魔のような不協和音が響き渡った。
「……っ、嘘でしょう……」
佐藤凛華は、鍵盤の上で無様に硬直した自身の指先を、親の仇のように睨みつけた。
学園一の才女。氷の女王。国立異能学園の頂点に君臨し、その旋律はプロですら平伏させると謳われた彼女の指が、今はまるで泥を固めた細工のように重く、冷たく、言うことを聞かない。
原因は、残酷なまでの『魔力バイオリズム』の枯渇。
ギフトを持つ者は、精神の昂揚を燃料に力を振るう。だが、完璧主義という名の呪縛に囚われた凛華の心は、いつしか潤いを失い、砂漠のように乾ききっていた。
このままでは、来月のコンクールで私は……醜態を晒し、すべてを失う。
絶望という名の氷が彼女の背筋を這い上がった、その時だった。
ガタリ、と音楽室の扉が開く。
「あ、悪い……。忘れ物、取りに来ただけなんだ」
入ってきたのは、同じクラスの阿久津だ。
名前を覚えていることすら不思議なほど、凡庸で、冴えない男。本来、彼女の視界に映る価値すらないはずの存在。
だが、彼が足を踏み入れた瞬間。
音楽室の淀んだ空気が、一気に「熱」を帯びた。
(な、に……? この、感覚は……っ)
阿久津が近くを通るだけで、凍てついていた凛華の魔力回路が、春の奔流のように激しく疼き始める。
彼が今、何か楽しいことでも考えているのか――その表情がわずかに緩んだ瞬間、凛華の指先に、脳を灼くような強烈な「快楽」が流れ込んできた。
「おい、阿久津」
「えっ、あ、はい。何かな、佐藤さん?」
気がつけば、凛華は椅子を蹴って立ち上がり、彼の腕をひっ掴んでいた。
肌が触れ合った場所から、膨大な魔力が、彼女の空虚な中を埋め尽くすように逆流してくる。
「っ……、ぁ……ああ……っ!」
あまりの充足感。脳を直接かき混ぜられるような甘い痺れに、凛華は抗えなかった。
凛としていたはずの膝がガクガクと震え、そのまま床に突き抜ける。
彼の服を掴んだまま、彼女の喉からは、到底人前では出せないような、蕩けきった吐息が漏れ出す。
ただ、彼が近くにいるだけで。
この男が「いい気分」でいるだけで、彼女の枯れ果てた才能が、魔力が、絶頂を越えて溢れ出していく。
「あ、あの……佐藤さん? 顔、真っ赤だけど大丈夫?」
困惑する阿久津を、潤んだ瞳で見上げる。
プライドよりも先に、生存本能が脳髄で絶叫していた。
この男を、手放してはいけない。
彼を「その気に」させて、もっと、もっと、私の中に流し込ませなければ――。
「阿久津君……お願い。今すぐ……私を、助けなさい」
女王の仮面が、音を立てて砕け散った。
それが、後に学園の秩序を塗り替えることになる、背徳的な共鳴の幕開けだった。
いかがでしたでしょうか。
なろう全年齢の限界を攻め、文字から「体温」が伝わるような描写を心がけていきます。
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