ベリーラット
ダンジョンにはシスティーと呼ばれる人々がいる。
彼らの仕事はダンジョンで負傷した者を回復させること。
専任ヒーラーなんて呼ばれ方もする。
ちなみに、美人ばかりで人気職。女の子のなりたい職業ナンバー1に輝いたこともある。
だが、実際になるのは難しい。回復魔法と空間魔法、他にも様々な魔法に精通してなければならない。
「少し待っていてくださいね」
システィーは俺の前に立つと、呪文を唱えた。
「はい。元気になりましたよ。ケガしたら無理せずに私のところまで来てくださいね」
話しかけると、体力を全快してくれる。これがシスティーの仕事なのだ。
体が軽くなったところで、質問をしてみる。
俺は道具屋で購入した地図を見せた。
「システィーはこのダンジョンに詳しいだろ。ベリーラットの巣穴の位置を教えて欲しいんだけど」
「今は異常繁殖しています。わざわざ巣穴を攻める意味はありませんよ」
「できるだけ、たくさん狩りたいんだ」
「……分かりました」
システィーは地図にチェックしてくれた。
巣穴は複数ある。どれも奥の方にあるから、行くのには少し時間がかかる。
「あなたは初心者ですね。これをどうぞ」
薬草×5、麻痺治し×5を手に入れた。
「それから、これも」
送りの羽×1を手に入れた。
送りの羽とは、特定のポイントに一瞬で移動できるアイテムだ。
洞窟内で使用すると、システィーの横にある魔法陣に飛ばされる。
「麻痺治し? なんで、こんなものが要るんだ?」
「ベリーラットの中に、まれに上位種がいるのですが、噛まれると麻痺してしまうのです。素早さも普通のものより高いので気を付けてくださいね」
上位種か。有益な情報なので、頭には入れておこう。
『マスター。私は、ダンジョンに入るのは初めてです』
「俺も似たようなものだよ。子供の頃に数回ほど入ったけど、それっきりだ」
俺はニナと共にダンジョンの奥へ進む。
壁には松明が並んでいる。キタニアル洞窟にはよく冒険者が出入りするので、誰かが設置してくれたのだろう。
入ってから気付いたことだが、通路が狭い。
息苦しさはないけど、まともに戦えるか不安になってきた。
槍は剣と比べて、間合いが広い。
だが、こうした狭い場所では、その長さが逆に不利になってしまうものだ。
「ニナ。大きさは変えられるか?」
『はい。任せてください』
ニナが返事をすると、斧槍の穂先がぐぐっと縮まっていった。
これで洞窟の中でも、不自由なく戦うことができる。
さすがPウエポン。完璧な武器に死角はないということか。
しかし、短くなるまでに数分はかかっていたので、戦闘中に使うのは難しい。
伸縮自在の如意棒のような戦い方はできないようだ。
『変な匂いがしませんか?』
ハルバードがカタカタと動いて、俺に問いかけてくる。
たしかに、甘々しい匂いが漂ってくる。
どこかの冒険者が、大量の飴でも捨てていったのだろうか。
地図を頼りに内部を進んでいくと、がさり、がさりと、周囲から何かが動く音が聞こえて来た。
匂いの次は音か。
俺は足を止める。
耳を澄ましてみると、だんだんと俺の方へ接近してくるのが分かる。
右側の壁に注意を向ける。
そこから、シュバッと丸いものが飛び出して来た。
俺は咄嗟に避けると、ハルバードを横に振った。
丸いものは綺麗に二つに引き裂かれる。
動きは早いが、見えないほどではなかったな。
更に三体が違う穴から発射されると、地面に着地した。
『意外とかわいらしいのですね』
「見た目に騙されるな。こいつら害獣だからな」
楕円の形をしたネズミ。丸くなれば、ほぼ球体になることもできる。
色も赤いので、遠くから見ると、果実と間違えてしまうかもしれない。
しかし迂闊に近づけば、鋭い爪と前歯によって痛い目をみる。
「四体か。けっこう出て来たな」
初心者用のダンジョンで複数が同時に出てきたら、冒険者は焦るだろう。
異常繁殖というのは本当らしい。
「チュー、チュー」
ネズミが飛びかかり、爪を振りかぶった。
俺は前方の一匹を左に蹴り飛ばし、後方の二匹を斧槍で突き刺す。
そして、壁に跳ね返った一匹を縦に引き裂いた。
『余裕ですね』
俺はステータスを確認する。
レベル2
マナ 46/150
ここに来るまでに、物を壊して30まで溜めておいた。
倒したベリーラットは4匹だから、1匹あたりは4ポイント。
ハロルドのゴーレムの半分か。
しかし、こちらは量が違う。
こんな明るいところで4匹に遭遇しているのだ。
巣穴まで行けば、おそらく数十匹は倒すことができるだろう。
どこまで、レベルを上げられるか楽しみだ。