姉妹
どうも様子がおかしい。
先ほどから、ガサガサと足音が聞こえていたのだが、それが段々と遠ざかっていくのだ。
というよりも、何か別のものに引き寄せられている。
おかげで洞窟の中が、しんと静まりかえってしまった。
不審に思いながらも、俺は奥に進んで行き、ベリーラットの巣穴まで辿り着いた。
狭い通路を終えて、ここからはドーム状の空洞になっている。
『誰かいますね』
「ああ。先客がいるようだ」
別に不思議ではない。
クエストも多くあったのだから、俺と同じようにベリーラットを討伐しに来たのかもしれない。
しかし、そこには少女が一人で立っているだけだった。
見たところ、戦士のようには見えない。神官服のような衣装を着ており、動きにくそうだ。
特に攻撃する様子もないし、そもそも武器を持っていない。
『また、匂ってきました』
ニナの言う通り、甘い匂いが立ち込めている。
「たぶん匂いの発生源は、あの子だな」
なんとなく事情が掴めてきた。
「チュー、チュー」
ネズミが穴から出てくると、少女の元に集まってきた。
かるく数十匹はいる。
遠目からでは出荷前の果実だが、実際にはネズミが並んでいるのだ。
正直なところ気持ち悪い光景である。
少女は一度だけ後ろを向くと、右手を高くあげた。
それが合図だったようだ。
「ウインドスピン!」
新たな少女がネズミ達の元に降り立った。
そして、すぐさま特技を使用。
広範囲技と呼ばれるものだ。一定の空間に入ったものを無差別に攻撃できる。
少女は自分の体を高速で回転させて、ネズミたちを次々と吹っ飛ばしていった。
あっという間に、全てのベリーラットが倒れてしまった。
ほとんど同年代のように見えるし、俺は話しかけてみることにする。
「あの……」
「なんだ。私たちに何か文句があるのか。ズルはしていないぞ」
先ほど『ウインドスピン』をしていた少女は、ずいぶんと強気な口調だった。
手には棍棒。いや、柄頭に金属の錘が付いているから、メイスか。
珍しい武器を使っている。
この国は剣が主流なのに、メイスとは。
でも、斬撃よりも打撃の方が弱いモンスターはけっこういる。
例えば、ゴーレムのような硬いモンスターが挙げられる。
俺はメイスが剣より劣っているとは思わない。
「シルカ。待って」
「シーニャ姉さま。止めないでください」
どうやら、この二人は姉妹らしい。
囮役をやっていたのは姉で、物腰が柔らかく穏やかな雰囲気。
攻撃役の方は妹で、しっかり者の印象を受ける。
「この人、ラルフ・メイスンだよ」
「メイスン……剣聖の息子か。なぜダンジョンにいる」
隠す理由もないので、俺は正直に答える。
「実家からは追放されたんだ。今は武者修行の旅に出てる」
外れスキルのことは説明していない。
「……さっぱり話が読めないんだが」
「シルカ。かわいそうな人なんだよ。助けてあげよう」
「……姉さまが、そう言うなら。仕方がない。助けてやる。それで私たちに何の用だ」
「さっき使ってた特技を俺に教えて欲しい」
「特技? ウインドスピンのことか?」
「そうだ。俺はモンスターを大量に倒したい。そのために、使える広範囲技を探していたんだ」
「なるほど。だから、ベリーラットを狩りに来たわけか。別に構わないぞ」
すぐに教えてくれるようだ。
正直、かなり助かる。
ここで、しっかりと習得しておくことにしよう。
特技の練習中、俺は合間を縫って彼女たちと会話をしてみた。
「甘い香り?」
「ああ。モンスターを引き寄せる効果がある」
シーニャが使っていたのは、神々からもらえる固有スキルの一つだった。
【剣悪感】と違って外れスキルではない。
何度も使っていけば、特定のモンスターだけを引き寄せたり、逆にモンスターを遠ざけたりもできるようになる。
「じゃあ、シーニャのスキルを使って、ベリーラットを大量に倒すのが目的なんだ」
クエストの報酬はもらえるし、素材を大量に手に入れることもできる。
【甘い香り】と広範囲攻撃の組み合わせも悪くない。
何度も続けていけば、一日でかなりの稼ぎになるだろう。
「違う。私たちの目的は一匹だけ。群れの中にいる上位種を倒すことだ」
そう言えば、システィーが上位種のことを話していたな。
「奴が落とすレア素材を必要なんだ。だから探してる」
その一匹をおびきよせるために、【甘い香り】を使って大量のベリーラットを引き寄せていたわけか。
「その上位種探し、俺にも手伝わせてくれないか」
「おまえが? なんで」
「言っただろう。俺は数多くのモンスターを倒したいんだ。それに三人いた方が、そっちも効率が良いだろう」
「わかった。姉さまにも相談して考えてみることにしよう」
一通りの練習を終えたので、次は実際にスキルを使ってみる。
「では、やってみってくれ」
シルカは俺に向かって、石を放り投げてきた。
スキルを使って、この石を壊せという意味だろう。
「……ふう」
俺は息を吐くと、ハルバードを構えた。
「ウインドスピン!」
俺の体は高速で回転する。
周りには緑色の斬撃がいくつも発生した。
その一つが石に当たり、粉々に砕いた。
数秒ほどでスキルは終了し、体の回転が止まった。
「凄いな。こんな短時間でウインドスピンを習得できるなんて」
彼女は今日中にできると思っていなかったようだ。
「……私は習得するのに、数ヶ月かかったんだけど」
一応、俺は父上から剣技を叩きこまれていたから、特技を習得することには慣れている。
きっと、その差が出たのだろう。
「……私には才能がないのか」
シルカは少し落ち込んでるようだ。
そっとしておこう。




